第34話 預言書(アガスティア)の葉(は)と運命(うんめい)の代筆者(だいひつしゃ)
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【ここまでのあらすじ】
秘密結社の指令で、『更生支援センター』を視察した翔太と湊。そこで、かつてのライバルたちが罪を償い、再起しようとする姿を目の当たりにする。大きな衝撃を受けた翔太先輩は、自分が高額で買ったイルカの絵をセンターに寄付することを決意。彼は、金銭よりも大切な価値観に目覚めたのだった。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。先輩の急な成長に、少しだけ戸惑いつつも、温かく見守っている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。物欲から解放され、聖人君子のような気分になっている。
――人として大きく成長し、もはや自分の進むべき道に迷いはない、と確信した翔太先輩。「念のため、自分の運命を確認しておくか」と、彼が向かったのは、古代インドの神秘が眠るという、怪しげな占星術館だった!
秘密結社に入り、除霊まで済ませ、最後にはイルカの絵を寄付して徳まで積んだ翔太先輩。もはや怖いものなしだった。
「湊くん、俺はもう、自分の運命を知る必要がある。未来を導く者として、当然の務めだ」
そう言って彼が向かったのは、キッゾニアの最もオリエンタルで、最も怪しげなパビリオン。『古代インド占星術館』だった。
中では、ターバンを巻いたSVが、壁一面に並べられた無数の葉っぱ(ただの画用紙)を整理している。
今日の仕事は『ナディ・リーダー』。来訪者の指紋から、その人の運命が記されているという「アガスティアの葉」を探し出し、その内容を読み解いてあげるという、神秘的な仕事だ。
「ふん、面白そうだ! 俺の手で、人々の運命を導いてやろう!」
翔太先輩は、占い師のガウンを羽織り、すっかりその気になっている。
最初の来訪者は、ビューティーサロンのレイカ先輩だった。彼女は、半信半疑といった顔で、指紋のスタンプを差し出す。
翔太先輩は、それを受け取ると、大げさな仕草で葉っぱの棚を探し始めた。
「むむ…これか? いや、違うな…こっちか…! あったぞ! レイカくん、君の葉だ!」
彼は、一枚の葉を手に取ると、そこに書かれている(という設定の)文字を、朗々と読み上げ始めた。
「君の未来は…おお! 見えるぞ! 君は、将来、世界的なビューティー・クリエイターになる! だが、そのためには、もっと人に優しく、謙虚な心を持つ必要がある、と書いてあるな!」
それは、彼の願望と説教が半分混じった、都合のいい預言だった。
レイカ先輩は「ふん、当たり前のことね」と顔を赤くして、そそくさと帰っていった。
次にやってきたのは、僕だった。
翔太先輩は、僕の指紋スタンプを受け取ると、さっきよりも真剣な顔で葉を探し始めた。
そして、一枚の葉を手に取り、目を見開いた。
「な…なんだこれは…!?」
「何が書いてあるんですか、先輩」
「…君は、将来、このキッゾニアを根底から揺るがすような、大きな事を成し遂げる。だが、その隣には、常に一人の“ウザくて面倒だが、どこか憎めない先輩”の姿がある、だと…?」
(それ、今あなたが考えたんですよね?)
僕の冷ややかな視線に、翔太先輩は「ち、違う! これは、古代の聖者が記した、厳粛なる事実だ!」と慌てていた。
彼は、この仕事を通じて、一つの真理に気づいたようだった。
運命とは、ただ知るものではない。自分の言葉で、誰かの背中を押してあげること。それもまた、未来を創る一つの形なのだと。
仕事が終わり、彼は満足げに言った。
「どうだ、湊。俺は、人々の運命を代筆する、神の代行者だったのかもしれん」
そのあまりにも大げさな自己評価に、僕はただ、静かにため息をつくしかなかった。




