第33話 更生支援(こうせいしえん)センターと灰色(グレー)のパビリオン
お読みいただきありがとうございます! 第33話です。
【ここまでのあらすじ】
秘密結社の活動で、良からぬ念を浴びていると信じ込んだ翔太先輩は、『浄霊庵』で除霊をしてもらう。過去にマウントを取ってきた子供たちの生霊が原因だと指摘され、50キッゾの護符を購入。「憑かれやすい体質」の自分を再認識し、すっかり満足していた。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。先輩が霊よりも、怪しい商売に「憑り憑かれやすい」ことを知っている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。身も心も清められ、自分は「清廉潔白なエリート」だと思い込んでいる。
――清き正しきエリートとして、キッゾニアの未来を導くと決意した翔太先輩。そんな彼に、秘密結社から届いた次なる指令は、キッゾニアの「罪と罰」を司る、あの灰色のパビリオンの視察だった…。
「湊くん、イルミナティ・キッズの幹部から、新たな指令が下ったぞ」
除霊を終え、すっかりエリート気分の翔太先輩は、僕に一枚の指令書を見せた。
『キッゾニアの秩序を乱す者たちが集う、かの施設を視察し、更生の現状を報告せよ』
その場所は、いつもパークの地図で灰色に塗りつぶされ、詳細が一切明かされていない謎の施設だった。
「よし、行くぞ! この国の闇を、俺たちの目で確かめるんだ!」
翔太先輩は、僕の手を引き、その灰色のエリアへと向かった。
入り口には、何の飾り気もない、重々しい鉄の扉(もちろん、それっぽく塗装されただけのものだ)があるだけ。
看板には、小さな文字でこう書かれていた。
『キッゾニア更生支援センター』
秘密結社のカードキーで扉を開けると、そこはがらんとした、体育館のような場所だった。
僕らが着せられたのは、厳格なデザインの視察官用のジャケット。今日の僕らの仕事は、このセンターで社会復帰のための職業訓練を受けている子供たちを『視察』し、報告書をまとめることだった。
やがて、訓練生たちが一列に並んで入ってきた。
その顔ぶれを見て、僕と翔太先輩は息をのんだ。
「お、お前は…! 空売りの天才少年!」
「あっちにいるのは…! 接待ゴルフのVIPくん!」
「おい、あいつは…! 学歴マウントのジョージアくんじゃないか!」
かつて僕たちに、社会の厳しさを様々な形で教えてくれた、あの天才たちが、揃いも揃って、地味な作業着を着て、静かに椅子の組み立て作業をしている。
僕らが呆然としていると、SVのお兄さん(平成9年生まれ)が、そっと事情を教えてくれた。
「彼らはね、キッゾニアのルールを破ってしまったんだ。空売りで市場を混乱させたり、親の権力を不正に使ったり…。だから、ここで『社会のルールを守って働くこと』を、一から学び直しているんだよ」
翔太先輩は、信じられないという顔で、彼らの作業を見つめていた。
自分より遥かに上にいると思っていた天才たちが、今は自分の視察下で、黙々と働いている。この状況が、彼の混乱した頭をさらにかき乱した。
休憩時間、翔太先輩は、空売りの天才少年に話しかけた。
「お、お前…なんでこんなところに…」
少年は、顔を上げると、静かに言った。
「僕は、ルールの中で勝つことばかり考えて、ルールそのものを支えている人たちのことを忘れていました。だから、ここで罰を受けているんです。…でも、後悔はしていません。ここでの労働は、僕が今まで稼いできたどの1キッゾよりも、重い価値がある気がしますから」
その目は、少しも曇っていなかった。
彼は、自分の犯した過ちと向き合い、未来へ進もうとしていた。
その時、翔太先輩は気づいた。
自分は、ただキッゾが減っただけで、絶望していた。しかし、彼らは、全てを失ってなお、前を向いている。
金のために正義に背いた自分と、彼らと、一体何が違うのだろうか、と。
仕事が終わり、僕らは視察官手当として10キッゾを受け取った。
翔太先輩は、その10キッゾを握りしめ、何かを決心したように、言った。
「なあ、湊。俺、自分が買ったあのイルカの絵、寄付しようと思うんだ。この更生支援センターに」
「えっ!?」
「あいつらの方が、よっぽど未来へ飛躍しようとしてる。俺より、この絵を持つにふさわしい」
彼の言葉に、僕は何も言えなかった。
翔太先輩は、3000キッゾという大きな代償を払って、お金よりも大切な「何か」を見つけ出したのかもしれない。
キッゾニアの奥深く、灰色のパビリオンで、彼は本当の意味で、また一つ大人になったのだ。




