第31話 師匠(メンター)の年収(ねんしゅう)とマルチな友情(ビジネス)
お読みいただきありがとうございます! 第31話です。
【ここまでのあらすじ】
「国勢調査」「町内会」に続き、『KHK受信料ご契約センター』の仕事に挑んだ翔太先輩。公共放送の崇高な理念を熱弁するも、誰一人として契約してくれず、心が折れてしまう。「誰もやりたがらないけど、誰かがやらなくちゃいけない仕事」の厳しさを痛感した。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。理想と現実のギャップに苦しむ先輩のメンタルを、本気で心配している。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。良かれと思ってやったことが全く評価されず、心身ともに疲弊している。
――社会の理不尽に打ちのめされ、人間不信になりかけた翔太先輩。そんな彼の傷ついた心に、やけに親しげな「親友」が現れる。それは、新たな友情の始まりか、それとも…?
公共のための仕事で、ことごとく心が折られてしまった翔太先輩。
そんな彼に、最近、やけに親しげに話しかけてくる少年がいた。彼は、いつも笑顔で、翔太先輩の良いところを褒めちぎる。
「翔太さんのその行動力、マジリスペクトっす!」
「その考え方、俺、めっちゃ勉強になります!」
すっかり気を良くした翔太先輩は、その少年とすっかり打ち解け、「親友」とまで呼ぶようになっていた。
ある日、その少年が言った。
「翔太さん、俺の“師匠”に会ってみませんか? その人のおかげで、俺の人生、マジ変わったんすよ」
連れて行かれたのは、ジューススタンドの奥の席。
そこには、やけに日焼けして、白い歯がキラリと光る、自信満々の男(小学校高学年)が座っていた。彼が“師匠”らしい。
「君が、翔太くんだね! 話は聞いてるよ。君、すごい“持ってる”らしいじゃん!」
師匠は、馴れ馴れしく翔太先輩の肩を叩いた。
そして、彼は一枚のグラフを取り出した。
「これ、俺の先月の権利収入。月収5000キッゾ」
「ご、5000キッゾ!?」
「俺たちは、ただ働いてキッゾを稼ぐんじゃない。夢を語り、仲間を増やすことで、資産を増やしていくんだ。俺たちのグループに入れば、君もすぐに月収1000キッゾは固いね」
師匠は、そう言って魅力的なビジネスモデル(?)を語り始めた。
それは、自分が紹介した仲間が商品を売ると、そのマージンの一部が自分に入ってくる、というものだった。
「どう?バチっと来たでしょ? やらない理由、ある?」
翔太先輩は、その圧倒的な年収と、仲間との絆を語る熱い言葉に、心が揺れ動いていた。
これまで、自分の「良かれ」は誰にも理解されなかった。しかし、この人たちは、自分を認めてくれる。そして、成功へと導いてくれるという。
「でも、僕にそんな仲間が…」
「いるじゃん! 隣に!」
師匠と親友の目が、キラリと僕に向けられた。
「まずは、その湊くんをグループに誘うんだ。彼が頑張れば、君にも収入が入る。WIN-WINだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、翔太先輩の顔色が変わった。
彼は、ゆっくりと立ち上がると、目の前の師匠に、深々と頭を下げた。
そして、言った。
「お話は、よく分かりました。でも、俺は、こいつを金儲けの道具にするような“ダチ”にはなれませんので。この話、お断りします」
それは、僕が今まで見た中で、一番カッコいい翔太先輩の姿だった。
彼は、大金や甘い言葉よりも、僕との(一方的かもしれないが)友情を選んだのだ。
「…ふーん、まあ、いいけど。後悔すんなよ」
師匠は、つまらなそうに言って、席を立った。
帰り道、僕は翔太先輩に聞いた。
「いいんですか? 月収1000キッゾ、惜しくないですか?」
「当たり前だろ! 俺とお前の仲を、たかだかキッゾで汚されてたまるか!」
そう言って胸を張る先輩の財布の中身は、イルカの絵のせいで寂しいままだった。
でも、その顔は、どんな金持ちよりも誇らしげに見えた。
彼は、社会に裏切られても、最後の最後で、一番大切なものを守り抜いたのだ。




