第29話 町内会(ちょうないかい)の現実(リアル)と未納(みのう)の会費(かいひ)
お読みいただきありがとうございます! 第29話です。
【ここまでのあらすじ】
秘密結社の一員となり、指導者気取りだった翔太先輩。しかし、「国勢調査」の仕事で、民衆の非協力的な態度に直面。高い理想だけでは人は動かないという現実を知り、「お願いします」と頭を下げることの大切さを学んだ。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。エリート意識がへし折られた先輩を、温かい目で見守っている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。民衆を動かすことの難しさを痛感した。
――国を動かす前に、まずは足元から! 翔太先輩は、次なる一手として「町内会」を立ち上げる。しかし、そこには「予算」という、あまりにもリアルで分厚い壁が待ち受けていた…!
『キッゾニア自治会』。
国勢調査で、民衆との心の距離を痛感した翔太先輩が、次に立ち上げたプロジェクトだ。
仕事内容は、町内会長として、キッゾニアの住人(各パビリオンの代表者)から町会費を集め、街の運営を考えること。
「いいか、湊くん! 国がダメなら、地域から変えていく! 俺が会長、君が書記だ! 俺たちの手で、このキッゾニアを、もっと住みよい街にするぞ!」
翔太会長は、腕章をつけ、所信表明演説のように高らかに宣言した。彼の目には、街の未来を憂うリーダーの光が宿っている。
僕らの最初の仕事は、各パビリオンを回り、町会費(月額1キッゾ)を集めることだった。
「たった1キッゾだ。この間の国勢調査で、俺はもう民衆の心を掴んだからな。みんな、快く払ってくれるに違いない!」
翔太会長は、自信満々に集金袋を握りしめた。
しかし、現実は甘くなかった。
「えー、町会費? なんで払わなきゃいけないの? 入ってないし」
ビューティーサロンのレイカ先輩は、あっさりと支払いを拒否。
「町内会に入会するのは任意です。我が社は、そのメリットを感じないので、見送らせていただきます」
出版社のジョージアくんは、理路整然と不参加を表明。
「ごめーん、今キッゾないんだー」
ハンバーガーショップの店員は、悪気なく支払いを先延ばしにする。
集金は、困難を極めた。
なんとか数軒から1キッゾずつ集めたものの、集金袋はスカスカのままだった。
町内会の事務所(小さな机一つ)に戻り、翔太会長は頭を抱えた。
「な、なぜだ…。みんなが住む街を良くするための、聖なる会費だというのに…」
僕は、壁に貼られた「町内会の活動計画」を指さした。
【活動計画】
夏祭り(盆踊り)の開催: みんなでやぐらを囲んで踊ろう!
必要予算: 200キッゾ(やぐらレンタル代、提灯代)
街灯のLED化: 夜道を明るく安全に!
必要予算: 500キッゾ(LED電球購入費、交換工事費)
「会長。集まった町会費は、たったの8キッゾです。これでは、提灯の一つも買えません」
僕の非情な報告に、翔太会長はさらに頭を抱える。
「くそっ…! 俺は、みんなで盆踊りを踊って、一体感を高めたかったんだ…! キラキラのLEDで、夜道を歩く女の子たちを安心させてやりたかったんだ…!」
彼の脳裏には、やぐらの周りで笑顔で踊るキッゾニアの住人たちと、ピカピカの街灯の下で「翔太会長、ありがとう!」と感謝される自分の姿が浮かんでいたのだろう。
しかし、現実は、無関心と未納の山。理想と現実のあまりのギャップに、彼は悶え苦しんでいた。
「なんで分かってくれないんだ…! 自分たちの街だろうが! 少しずつ金を出し合って、みんなで良くしていこうって、なんで思えないんだ!」
その叫びは、あまりにも切実だった。
僕は、そんな会長に静かに進言した。
「会長。皆、自分のことで精一杯なんです。まずは、町内会が“必要だ”と思ってもらうことが先決ではないでしょうか」
「必要だと…思ってもらう…?」
「はい。例えば、集まった8キッゾで、まず街角のゴミ拾いをしてみるのはどうでしょう。皆が『あれ、街が綺麗になったな』『町内会って、いいことしてくれるんだな』と気づけば、協力してくれる人も増えるかもしれません」
僕の提案に、翔太会長はハッとした顔になった。
彼は、大きな夢ばかりを見て、足元の小さな一歩を忘れていたのだ。
「…そうか。まずは、俺たちが汗をかくのが先か」
彼は、集金袋を置き、ゴミ袋と火ばさみを手に取った。
「行くぞ、湊書記! 俺たちの手で、この街を綺麗にするんだ! 夏祭りは、それからだ!」
その背中は、少し小さくなったようにも見えたし、逆に、地に足がついた分、たくましくなったようにも見えた。
この日、キッゾニア町内会の、地道で、誰にも気づかれないかもしれない活動が、静かに始まった。
それは、壮大な計画とは程遠い、小さな小さな一歩。
だが、確かな手応えのある、未来への一歩だった。




