第26話 忍者屋敷(にんじゃやしき)とベテランだけの暗黙(あんもく)の掟(おきて)
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【ここまでのあらすじ】
VIPくんが口にした「スカベンジャー」の仕事を体験した翔太と湊。そこは、ゴミの山から資源を探し、わずか2キッゾの日当を得るという、キッゾニアで最も過酷な現場だった。しかし翔太は、そこで働く少女の笑顔に、金銭では計れない「働く誇り」を学び、大きく成長を遂げた。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。先輩の人間的な成長を、素直に認めている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。働くことの本当の意味に目覚めた。もはや、ただのウザい先輩ではない。
――人として大きく成長した翔太先輩。そんな彼の元に、ある日、謎の招待状が届く。それは、長年キッゾニアに通い詰めた「ベテラン」だけが足を踏み入れることを許される、秘密のパビリオンへの扉だった…!
スカベンジャーの仕事を経て、人として一回りも二回りも大きくなった翔太先輩。
そんな彼の元に、ある日、一通の黒い封筒が届いた。差出人の名はない。中には、手裏剣のマークが描かれた、一枚のカードが入っているだけだった。
「なんだこれは…?」
翔太先輩が訝しげにカードを眺めていると、僕のスマートウォッチが微かに振動し、一つの座標を示した。パークの最も奥まった、薄暗い裏路地だ。
そこには、これまで気づかなかった、古びた門があった。
看板には、かすれた文字で『忍者養成道場』と書かれている。
翔太先輩が、おそるおそるカードを門の隙間に差し込むと、重い音を立てて、扉が静かに開き始めた。
「なっ…! 隠しパビリオン!?」
「ようこそ、同胞よ」
中から現れたのは、SVではない、僕らと同じ年頃の子供だった。
「ここは、地図にも載っていない、秘密のパビリオン。長年キッゾニアに通い詰め、運営に『この世界の理を理解した』と認められた者だけが、その存在を知らされる」
翔太先輩は、自分が“ベテラン”として認められたことに、顔を輝かせた。
「俺が…選ばれたのか…!」
道場の中は、薄暗い忍者屋敷のようだった。参加者は、僕と翔太先輩の他に、数人だけ。どの子も、一目で「キッゾニアのベテランだ」と分かる、落ち着いた雰囲気をまとっている。
仕事内容は、忍者としての様々な訓練。壁を登るボルダリング、手裏剣投げ、気配を消して歩く訓練など。
翔太先輩は、水を得た魚のようだった。
「どうだ、湊! これが俺の本当の姿だ!」
彼は、他のベテランたちと競い合うように、次々と訓練をこなしていく。その動きは、驚くほど俊敏で、洗練されていた。
僕は、彼の意外な才能に目を見張った。
いつもは空回りばかりしている彼が、この場所では、誰よりも輝いて見えた。
最後の訓練は、二人一組での「巻物奪取ミッション」。敵の忍者が守る巻物を、協力して奪い取るというものだ。
僕と翔太先輩は、コンビを組んだ。
「いいか、湊。俺が囮になる。お前はその隙に、天井裏から回り込め」
「天井裏…?」
「ああ。あそこの梁、一本だけ色が違うだろ? あそこが隠し通路になってるんだ」
彼の言う通りにすると、僕は簡単にお目当ての巻物を手に入れることができた。
ミッションを終え、高給である15キッゾを受け取る。
僕は、翔太先輩に尋ねた。
「どうして、あそこに隠し通路があるって分かったんですか?」
翔太先輩は、少し照れくさそうに、でも誇らしげに笑った。
「あんなの、何百回もこのキッゾニアの天井を見てりゃ、誰だって気づくさ」
それは、彼がこのキッゾニアで過ごしてきた、膨大な時間の賜物だった。
効率やタイパでは決して得られない、「経験」という名の、本物の宝物。
僕は、初めて心の底から、この人のことを「すごいな」と思った。
彼は、ただのウザい先輩なんかじゃなかった。
僕の知らないキッゾニアを、誰よりも愛し、誰よりも知っている、最高の“先輩”だったのだ。




