第25話 ごみ山の宝石(ほうせき)とスカベンジャーの誇り(ほこり)
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【ここまでのあらすじ】
『未来の街づくりワークショップ』に参加した翔太と湊。そこで、先日のVIPくんが、キッゾニア最大のスポンサー企業のご子息であることが判明する。彼は、華やかな新パビリオンではなく、「『スカベンジャー』のような過酷な労働環境を改善すべき」という、深い提言を行った。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。VIPくんの提言に、真のエリートの姿を見た。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。格の違いを見せつけられ、完全に恐縮している。
――「スカベンジャーって、一体どんな仕事なんだ…?」
VIPくんが口にした、謎のパビリオン。翔太先輩は、その言葉の意味を確かめるため、湊と共に、キッゾニアの片隅にあるという、その場所へと足を運ぶ…。
「なあ、湊…。あのVIPくんが言ってた、『スカベンジャー』って仕事、一体どんなもんなんだろうな…」
ワークショップでの一件以来、翔太先輩はその言葉が頭から離れないようだった。
僕らは、噂を頼りに、キッゾニアの最も人目につかないエリアへとやってきた。
そこには、これまで気づかなかった小さなパビリオンがあった。
看板には、手書きの文字で『ワールド・サポート・プロジェクト』と書かれている。
中を覗くと、薄暗い部屋に、大量のゴミ(もちろん安全な模型)の山が築かれていた。
「ここは、途上国の子供たちの現状を体験してもらうためのパビリオンです」
案内してくれたのは、穏やかで、しかし芯の強そうな目をしたSVのお姉さんだった。
今日の仕事は『スカベンジャー』。
ゴミの山の中から、リサイクルできるプラスチックや金属を探し出し、それを換金して生活の糧を得る、という仕事だ。
VIPくんが言っていたのは、このことだったのか…。
渡されたのは、汚れた軍手と、ボロボロの麻袋だけ。
「このゴミの山には、時々、おもちゃの宝石が混ざっています。それを見つけられたら、特別ボーナスが貰えますよ」
SVは、そう言って僕らに微笑んだ。
「ご、ゴミ拾いかよ…」
翔太先輩は、想像以上に過酷な現実に、顔を引きつらせていた。
仕事が始まると、その過酷さを実感させられた。
ゴミの山をかき分けるのは、思った以上に重労働だ。ホコリっぽいし、足元も悪い。何より、ひたすらに地味で、終わりが見えない。
「くそっ…こんなの、やってられるかよ…」
翔太先輩が弱音を吐き始めた、その時。
僕らの隣で、黙々と作業をしていた一人の女の子が、「あった!」と小さな声を上げた。
彼女の手の中には、キラリと光る、小さなプラスチックのサファイアがあった。
SVのお姉さんが、彼女に駆け寄る。
「すごいわ、アミちゃん! これで、今日のあなたと家族の食事が、少しだけ豪華になるわね!」
女の子――アミちゃんは、その言葉に、はにかむように笑った。その笑顔は、僕が今までキッゾニアで見た、どんな笑顔よりも輝いて見えた。
翔太先輩は、その光景に、ハッと息をのんだ。
彼は、今まで自分が、いかに恵まれた環境で「仕事ごっこ」をしていたかを、思い知らされたのだ。
給料の額に一喜一憂し、効率が悪いと文句を言い、時には正義を金で売った。
しかし、このゴミの山の中では、たった一つの小さな発見が、生きるための「希望」になる。
ここにあるのは、まごうことなき「現実」だった。
その瞬間から、翔太先輩の目つきが変わった。
彼は、文句も言わず、ただひたすらに、ゴミの山と向き合い始めた。
仲間のためでも、正義のためでも、金のためでもない。ただ、ここに生きる誰かのための、尊い労働として。
結局、僕らは時間内に、宝石を一つも見つけることはできなかった。
受け取った給料は、換金した資源の代金、わずか2キッゾ。
キッゾニアで最も低い給料だった。
しかし、仕事を終えた翔太先輩の顔は、不思議なほど晴れやかだった。
彼は、アミちゃんのところに歩み寄ると、自分のポケットから何かを取り出した。
それは、彼がかつて自慢していた、プロフェッショナルメンバー特典の「前日に予約が取れる権利」だった。
「これ、やるよ。俺より、君が持ってた方が、ずっと価値がある」
アミちゃんは、きょとんとしていたが、翔太先輩の真剣な目を見て、静かにそれを受け取り、深々と頭を下げた。
帰り道、翔太先輩は何も言わなかった。
僕も、何も聞かなかった。
彼は今日、このゴミの山の中から、どんな高価な宝石よりも、ずっと価値のある「何か」を見つけ出したのだ。
それは、誰かのために働くことの本当の意味と、どんな仕事にも宿る人間の誇り。
その日の彼は、僕が知る中で、一番カッコいい「働く男」の顔をしていた。




