第23話 接待(せったい)ゴルフと因縁(いんねん)の再会(さいかい)
お読みいただきありがとうございます! 第23話です。
【ここまでのあらすじ】
傷心の翔太先輩は、アートギャラリーで美しいお姉さんに褒めちぎられ、気分が良くなった結果、3000キッゾもするイルカの絵を衝動買いしてしまう。彼の唯一の誇りであったキッゾ貯金が大きく目減りし、その精神的ダメージは計り知れない。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。高額な絵(思ったより小さい)を抱えて震える先輩を、冷静に見守っている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。承認欲求が仇となり、大金を失った。今はただただ落ち込んでいる。
――3000キッゾの損失に、もはや起死回生の一発逆転を狙うしかない翔太先輩。そんな彼の目に飛び込んできたのは、先日地鎮祭を行ったばかりの場所に、もう完成しているという、謎の新パビリオンだった…!
「湊くん、見たか!? あの、この間地鎮祭をやったばっかりの空き地に、もうビルが建ってるぞ!」
翔太先輩が、目を丸くして叫んだ。
彼が指さす先には、先日まで更地だったはずの場所に、ガラス張りの豪華なクラブハウスが、すでに完成していた。
このキッゾニアの時空はねじれているのか? それとも、スーパーゼネコンの技術力が、物理法則を超越しているのか?
その新しいパビリオンの看板には、こう書かれていた。
『メンバーシップ・インドアゴルフ ~選ばれし者たちの社交場~』
そして、その入り口には『急募! VIPを“おもてなし”するキャディ!高時給30キッゾ!』という、破格の求人広告が貼られていた。
「じ、時給30キッゾ…! やるぞ、湊くん! これでイルカの損失を取り返すんだ!」
目の前のキッゾに、翔太先輩の心は一瞬で回復した。
僕らがキャディの制服に着替えてコースに出ると、そこには今日のVIPであるお客さんが、すでにパターの練習をしていた。
その顔を見て、僕らは息をのんだ。
名門私立小のジョージアくんと、いかにも金持ちそうなポロシャツを着たVIPくんだった。
そして、彼らの隣で、にこやかに談笑している女性キャディがいた。
ビューティーサロンのお局様、レイカ先輩だ。
「あら、あなたたちもキャディなの? まあ、足手まといにならないように頑張りなさいよ」
レイカ先輩は、|さっそく僕らに牽制球を投げてくる。
翔太先輩は、因縁の相手たちを前に、闘志を燃やした。
「見てろよ…。最高の“おもてなし”で、あいつらを感服させてやる…!」
ゴルフが始まった。翔太先輩は、父親から聞いたであろう接待ゴルフの知識を総動員して、VIPたちのご機嫌を取ろうとする。
「ナイスショット! ジョージア様の打球は、まるでレーザービームのようですなぁ!」
「おっと、今のパットは惜しい! グリーンの芝が、まだあなた様の実力についてきていないようです!」
しかし、その露骨なヨイショは、二人には全く響いていなかった。
ジョージアくんは「僕のショットの問題点は、インパクト時の体重移動です」と冷静に自己分析し、VIPくんは「ゴルフという、道具を使い、スコアを競う行為の本質とは一体…」と、哲学的な思索にふけっている。
一方、レイカ先輩は、全く違うアプローチをしていた。
「ジョージア様、次のホールは少し打ち下ろしですから、少し短めのクラブがよろしいかと」
「VIP様、お疲れではございませんか? 冷たいおしぼりでございます」
彼女は、相手を褒めるのではなく、相手が次に何を求めているかを先回りして提供する、「気づかい」のプロフェッショナルだったのだ。
その完璧な仕事ぶりに、ジョージアくんもVIPくんも、満足そうな表情を浮かべている。
翔太先輩の「ごますり」は、レイカ先輩の「おもてなし」の前に、完全に霞んでしまっていた。
(この人、ただの嫌な奴じゃなかったのか…!)
翔太先輩は、ライバル(と勝手に思っている)の、意外な実力とプロ意識を目の当たりにして、愕然としていた。
仕事が終わり、時給30キッゾを受け取っても、翔太先輩の心は晴れなかった。
彼は、レイカ先輩の前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「レイカ先輩…。俺、完敗です。あんたの“おもてなし”、すごかったっす…」
その素直な言葉に、レイカ先輩は少し驚いた顔をしたが、やがて、ふふんと鼻を鳴らした。
「当たり前でしょ。プロですもの。…まあ、あなたも、ただ大声を出すだけじゃないってことは、少しだけ見直してあげたわ」
その言葉は、彼女なりの最大限の賛辞だったのかもしれない。
翔太先輩は、この歪んだ時空の接待ゴルフ場で、キッゾよりも大切な「好敵手を認める」という、新たなプライドの形を学んだのだった。




