第21話 不動産営業マンの囲い込み(かこいこみ)とゴリゴリ営業の圧(あつ)
お読みいただきありがとうございます! 第21話です。
【ここまでのあらすじ】
キッゾニア史上最大規模の「地鎮祭」で、『来賓』という地味な役割になってしまった翔太先輩。不満を募らせるが、湊に「来賓も式典を支える重要な役割」だと諭され、納得。どんな立場でも誇りを持つことの大切さを学んだ。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。先輩の単純さを、もはや長所だと感じている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。拍手も仕事だと悟った。自己肯定感が少し回復した。
――自分の役割に誇りを持ち、自信を回復させた翔太先輩。次なる挑戦の舞台は「不動産」の営業マン! 彼の信じる「昭和の営業スタイル」は、令和のキッゾニアに通用するのか!?
「家! 家を売るぞ湊くん! 男なら、一国一城の主になる夢をサポートするのが仕事だろうが!」
今日、僕と翔太先輩が足を踏み入れたのは、新設された『不動産仲介センター』だ。パリッとしたスーツ(子供用)に身を包んだ翔太先輩は、すっかりトップ営業マン気取りだった。
仕事内容は、キッゾニア内に建てられたモデルハウスの販売。
SVからの「お客様のニーズに合った物件を提案しましょう」というブリーフィングもそこそこに、翔太先輩は営業用の広告看板を掴んで街へ飛び出した。
「さあ、まずは数だ! 声をかけた数だけ、チャンスは増える!」
彼は、昭和の営業マンよろしく、道行く子供たちに広告看板を持って片っ端から声をかけ始めた。
「そこの君! 将来の資産形成、考えてる!? まずは話だけでも聞いてかない!?」
「お嬢さん、いいところに住むと、いい男が寄ってくるぜ!」
完全に、駅前で強引に客引きをする不動産屋のそれだ。
ターゲットの一人は、出版社のジョージアくんだった。
「ジョージアくん! 君のようなエリートこそ、若くして城を持つべきだ!」
「結構です。現在の賃貸物件の立地と平米数、そしてコストを考慮すると、購入のメリットは皆無ですので」
ジョージアくんは、一瞬で翔太先輩の提案を論破し、足早に去っていった。
次に見つけたのは、いかにもミニマリストで神経質そうな子。
「君も、そろそろ地に足のついた生活をだな…」
「僕は、家という“モノ”に縛られる生き方は選びません」
彼は、そう言って静かに目を伏せた。翔太先輩の熱意は、またしても空を切る。
その間、僕は事務所のパソコンで顧客データ(という設定の来場者アンケート)を分析していた。
(…なるほど。ターゲットは、3人以上で来場しているファミリー層。特に、下の子がベビーカーに乗っているグループは、将来的な部屋の数を気にしている可能性が高い)
僕は、的確なターゲットを絞り込むと、一組の親子に狙いを定め、丁寧に声をかけた。
「こんにちは。今、お子様が大きくなった時のことを考えて、キッズスペース付きの広いお部屋をご案内しているのですが、少しだけ、モデルハウスの中、ご覧になりませんか?」
僕のアプローチは成功し、親子はモデルハウスに興味を示してくれた。
事務所に戻ると、僕が一件の「内覧予約」を獲得したのに対し、翔太先輩の成果はゼロ。おまけに、強引な営業について数件のクレームが寄せられていた。
「な、なぜだ…俺は、こんなに頑張っているのに…」
落ち込む翔太先輩に、僕は静かに言った。
「先輩。今は、気合や根性で売れる時代じゃないんです。大切なのは、データに基づいた的確なターゲティングと、相手に寄り添う提案力です」
僕の言葉に、翔太先輩はぐうの音も出ない。
「これが…令和の営業スタイル…」
彼は、自分が信じてきた「足で稼ぐ」という昭和のやり方が、もはや通用しないという現実を、まざまざと突きつけられたのだ。
その背中は、急激な市場の変化に取り残された、ベテラン営業マンの悲哀に満ちていた。




