第1話 パイロットの矜持(プライド)と懐古主義(かいこしゅぎ)
はじめまして!作者のカルラと申します。
数ある作品の中から、この物語を見つけてくださり、誠にありがとうございます。
「もし、子供たちの夢の国に、どこにでもいる職場の面倒な先輩がいたら?」
そんなくだらない妄想から、この物語は生まれました。
世代間ギャップ、謎マウント、時代遅れの精神論……。
社会の理不尽さを、令和時代の子供たちの世界でシュールなギャグとして描いていけたらと思っています。よろしくお願いします。
キッゾニア東京。
そこは子供たちが夢の職業を体験できるテーマパーク。
しかし、ここにもまた、大人の社会と何ら変わらない、面倒な人間関係が存在する。
僕、水無瀬 湊、5歳。令和2年生まれだ。
その精神は、なぜか20代の新卒社員のそれだった。僕は人気の仕事である「パイロット」に挑戦するため、行列に並んでいた。最新のスマートウォッチで待ち時間を確認し、脳内で午後のスケジュールを再構築する。タイパ、最優先。デパートで売っている1,000キッゾのサイバーサングラスを手に入れるためにも、無駄な時間は許されない。
その時だった。
背後から、やたらと自信に満ちた声が聞こえてきた。
「ほほう、パイロットとはいいチョイスだ。だが、このフライトシミュレーターはかなりピーキーなセッティングでな。初心者には難しいぞ」
振り返ると、腕を組んだ少年が僕を見下ろしていた。小学二年生といったところか。着古してヨレヨレになったパイロットの制服が、彼の年季を物語っている。
「まあ、心配するな。俺がついてる。桜木 翔太。平成29年生まれの小学二年生、つまり君の大先輩だ!このパビリオン、俺は今日で23回目だからな。目をつぶってても離陸できる」
(出た、回数マウントだ…)
内心で深くため息をつきつつも、僕は社会人としての処世術を発揮する。
「すごいですね、翔太先輩。よろしくお願いします」
「うむ。まあ、何でも聞きなよ」
満足げに頷く翔太先輩。幸先が悪い。実に悪い。
ブリーフィングルームに通され、SVのお姉さんが計器盤の説明を始めた。
「みんな、目の前のタッチパネルで機体の状況を確認してねー。とっても簡単だよ!」
すると、翔太先輩がわざとらしく大きなため息をついた。
「はぁ…。最近の若者は、なんでもかんでもタッチパネルだな。アナログメーターの針の動きを読んでこそ真のパイロットだろうに」
(いや、視認性と正確性はデジタルの方が圧倒的に上だろう…)
僕の心のツッコミをよそに、翔太先輩の懐古主義は止まらない。
「これだから令和生まれは…。なあ湊くん、昔はな、ここには『時計職人』っていう至高のパビリオンがあったんだ。今はもう、無くなっちまったがな…」
SVのお姉さんが「はいはーい、翔太くん、昔話はそのへんにして席についてねー」と慣れた様子で話を遮った。ナイス、SV。
フライトが始まると、隣からガコン、ガコン、という不穏な音と、翔太先輩の声が聞こえてきた。
「どうだ湊くん! このGを感じろ! これがマニュアルにはない、『経験』に裏打ちされたフライトだ!」
(うわぁ…子供っぽい…いや、子供なんだけど…)
僕が操縦桿を握りながら苦笑いを浮かべていると、翔太先輩の機体から警告音が鳴り響き、SVのお姉さんに「お願いだからオートパイロット使ってね」と諭されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第1話、いかがでしたでしょうか。
主人公・湊と、ウザかわいい翔太先輩の出会いの物語でした。
皆さんの周りにも、こんな「武勇伝を語りだす先輩」はいませんか?(笑)
これから二人は、キッゾニアという小さな社会で、様々な仕事と、さらに面倒くさい(?)人々に出会っていきます。
次回、翔太先輩が自慢する「1万2千キッゾ」の貯金の秘密が明らかに!
そして、彼の「プロフェッショナルメンバー」としての真の実力とは……?