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【完結】キスの続きを、まだ知らないままで。  作者: 泉水遊馬
第2章:「透明な部屋で、二人だけの温度を知る」
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2-2

あかりの手が、私の肌に触れるたびに、私は自分の身体が熱を持っていくのを感じていた。


 頬に、鎖骨に、胸の曲線に。

 彼女は指先で丁寧に、まるで文章を綴るように、私をなぞっていく。


 「……くすぐったい、です」


 つい漏れた声に、彼女は笑った。

 その笑い声は、なぜか涙が出るほど優しかった。


 「大丈夫。まだ、なにもしていないわ」


 そう言って、灯は私のブラウスを脱がせ、そっとスカートのファスナーに指をかける。

 その指の細さ、冷たさ、そして躊躇いのなさが、同時に私を震わせた。


 「ほんとうに……きれい。触れるだけで、くらくらする」


 「そんな……慣れてますね、灯さんは」


 「慣れてる、かもしれない。でも、あなたに触れるのは初めて。だから、怖いくらいに……新しい」


 彼女はそう言いながら、私の脚の間に跪き、

 柔らかく、しかし迷いのない舌の動きで、私の体に"愛されている"という実感を植えつけていく。


 呼吸が荒くなる。指がシーツを握りしめる。

 何かがこぼれそうで、でも言葉にできない。


 「あ……っ、そんな……そこ……」


 「しおり……気持ちいい?」


 「わからない……でも、やめないで……」


 涙が、知らないうちに頬を伝っていた。

 それに気づいた灯は、ふと顔を上げ、私の額にキスを落とした。


 「泣いてるの……? つらかったの?」


 「……うれしいだけ、です。誰かに、こんなふうにしてもらったこと、ないから」


 彼女は私を抱きしめ、私の背中に手を回し、髪を撫でながら言った。


 「私もよ。愛したいって思えたの、ずっと……なかったから」


 ――ふたりは、大人だった。


 だからこそ、抱えてきた痛みや、傷つくことの怖さを知っていた。

 そしてそれでも、誰かに触れたくなる夜があることも、知っていた。


 まるで透明なガラスの部屋で、互いの輪郭だけを確かめるように、私たちは何度も、名前を呼び合った。

 しおり。

 あかり


 交わしたキスは、熱を帯びた祈りだった。


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