11ー2
夜の帳がゆっくりと降りる。
街の明かりが遠く滲み、窓の向こうでは風がやさしく揺れている。
しおりと灯は、静かな部屋のなか、ベッドの上でセックスの余韻に浸っていた。
着ていた服は、もうとっくにどこかに落ちている。けれど、今は何も纏わなくても、何ひとつ恐れはなかった。
「……あなたと、ここまで来られて、よかった」
灯の指が、そっとしおりの頬に触れる。熱を持つ肌が、確かに「今」を伝えてくる。
「これから先、なにがあっても……ずっと、離れない?」
「約束する。あなたが私の手を離さない限り、私はどこにも行かない」
その約束は、言葉ではなく、唇の温もりで交わされた。
静かに、でも深く。まるで互いの魂に触れるように。
指先が髪をなぞり、肩を包み、背を引き寄せる。
肌と肌が重なるたびに、互いの輪郭が曖昧になり、やがてひとつになっていく。
灯は、しおりの首筋に顔を埋めながら、震える声で呟く。
「愛してる……誰よりも、深く」
その言葉に応えるように、しおりは灯の髪を撫でながら、唇を重ねていく。
激しさではなく、祈るように、丁寧に。
何度も、何度も、相手の存在を確かめ合うように。
シーツのなかで交わされる体温、指の圧、浅くなる息遣い――
官能とは、ただ情熱を燃やすことではない。
それは、「心を預ける」という祈りのような行為だった。
時間の感覚が溶けていく。
世界には、もうふたりしかいないかのように。
――やがて、深く、長い、静寂が訪れた。
互いの腕のなかで、呼吸を整えながら、ふたりは見つめ合う。
灯の瞳は潤んでいて、それでもまっすぐにしおりを見つめていた。
「……ねえ、これが最期でも、きっと後悔しない」
「ううん、最期じゃない。これからずっと、一緒に生きていくって決めたから」
灯がそっと頷く。
そして、最後にもう一度だけ、しおりの唇にキスをした。
それは、ただ甘やかなものではなく――
「ありがとう」も、「さようなら」も、「生きててよかった」も、
すべてを込めた、透明な、たったひとつのキスだった。
やがて灯は目を閉じ、しおりの腕のなかで微笑んだ。
部屋には静かな夜の音と、ふたりのぬくもりだけが残されていた。




