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【完結】キスの続きを、まだ知らないままで。  作者: 泉水遊馬
【第7章:「名前のない痛みを、あなたと越えて」】
19/32

7-3

 静寂の中に、熱が溶け込んでいく。


 灯の髪が枕に散らばり、しおりの指が、その黒髪を丁寧に梳いていた。彼女の目は、愛おしげに灯の輪郭を追っている。指先が、首筋から鎖骨へ、そして胸の曲線をなぞるたび、灯の肌が細かく震えた。


「どうして……こんなに、優しいの?」


 灯の声は掠れていた。目元が涙で滲み、恥ずかしさと幸福に頬を紅潮させている。


「灯が、綺麗だから」


 しおりはそう言って、また唇を重ねた。何度目か分からないキスだった。だが、そのすべてが違っていた。最初は確かめるように、次は味わうように。今は、ただ一緒にいたいという気持ちがすべてに変わっていた。


 その夜、部屋の灯りは落とされたままだった。

 カーテンの隙間から漏れる都会の街灯が、ぼんやりと輪郭を照らす。


 灯の手は、柔らかくベッドの上で縛られていた。真っ白なシルクのスカーフ。苦しさはない。ただ、自由を預ける安心と、羞恥の高まりが、彼女をいつもより素直にさせていた。


「動かないで。今夜は私が全部、灯を愛す番だから」


 しおりの声が、濡れた空気を裂くように響いた。


 官能の波がまた、ふたりを深く沈めていった──。


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