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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

曇り

作者:

落ちはありません

 思えば俺は彼女と出会うために生きてきたのかもしれない。

生まれてから、恋だの愛だのにうつつを抜かす連中を下らないと思っていた。

 これが恋だろうか。

初めて他人が欲しいと思った。

生まれつき容姿が整っていて、勉強もできた。

大学に入学したとき、両親が他界し苦労した事もあったが、

稼げる仕事を始めて、悠々自適に暮らしていける金はもう手に入れていた。


「初めまして、このたび304号室に越してきました芳賀です。どうぞよろしくお願いします。」


わざわざ引っ越しの合図など奇特な人だ。

インターフォン越しの会話では一言二言話して終わったが、そう思った事は覚えている。


次に会ったのは作業場近くの定食屋だ。

盛岡から上京してきた学生で、教育学部に入学し将来は小学校の教師になりたいと

店主のばあさんと笑いあっていた。

その笑顔で俺は彼女に恋をしたのだと思う。


人には余り関われない仕事の俺はただ何となく彼女と関われたらいいと思っていた。

愚かだった。


半年ほどの出張の帰り、俯きながらマンションに入っていく彼女が見えた。

気になって声を掛けると以前の溌剌とした様相は見る影もなく、

何かに悩んでいる事は明白だった。

声を掛けただけで急激にふり帰った彼女は何かに怯えているようだ。

明らかな他人に声を掛けられても怖いかと思い謝ろうとしたが、彼女から少し

話を聞いて欲しいと言ってきた。


これはチャンスだと。そう思ってしまった。

ほどんど覚えていない隣の男に相談するなどただ誰かに話したかっただけで、

大した悩みなどではない。

殆ど全ての悩みは金で解決するし、俺は金持ちではある。

歪んだ関係であっても、一度できてしまえば、

そこから彼女を自分の物にできるのではないかと頭をよぎった。


俺の部屋に連れ込むと話を聞きだした。

大学のサークルに入った事。先輩に色々教えてもらい、信頼していった事。

先輩と付き合いだして、すべてが狂い始めたこと。彼は覚醒剤を使用していて、強引に打たれた事。

抵抗したが、今では自分で購入する様になった事。

覚醒剤の購入の為に金が要る事。

仕送りとバイトで賄っていたが、もはや首が回らなくなり、売春をしようと思っていた事。

そして自分を買わないかと提案してきた。

こうして自分に近づいてきた以上、私に興味があるのだろうと。


俺は彼女に提案した。

薬をやる。だから俺の物になれと。

欲望に目がくらんでいたのだろう。


儚げに笑みを浮かべ、了承した彼女を押し倒し、望み通り薬を打つと涙を流し悦んでいた。


生まれてからこれ程の充足感を得たことがあったか。

彼女を作業場に住まわせ、所有している喜びに浸っていた。

幾らでも薬が手に入る環境はひとまずの安心を与えたようだった。


大学も中退し、作業場で飼育されている彼女は俺の事を妄信する様になった。

俺はこのままの時間が続けばきっと幸福なのだろうと思い込み、満足していた。


半年後、オーバードーズで彼女が死んだとき、それほど悲しくはなかった。

死体の処理をどうするかとか、そんな事ばかり考えていたと思う。


死体を処理し、以前の生活に戻ったが、ふとした瞬間に考えることがある。

俺は彼女を手に入れることが出来たのだろうか?

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