第8話 長い長い相続手続きの終わり
申請した所有株の情報が送られてきた。次男が持っていた銘柄は下記の通り。
・IFULL株
うんうん、予想通りだね。
・MRF(投資信託)
うんうん、って、なんだとぉ!
パナソニックどこ行った。
っていうかさ、投資信託って何さ。分からないことは証券会社に聞くべし。
どうやら証券会社に口座を持つと自動的にリスクの少ない有価証券で運用してくれるらしい。まあ、元本保証のない銀行口座みたいなもんだと理解した。
株はどうやら去年にいろいろ売っていたらしくって、残っているのは「IFULL」のみで、残金が投資信託で運用されているということらしい。なるほど。
ちなみに、故人の所有株が分からないときに調べる方法もあるらしい。『証券保管振替機構』ってのがあって、6,050円で調べてくれるんだけど、また書類書くのかよ。いやあ、他にも株なんて持ってるのかなあ、ないんじゃないのかなあ。いいや、これだけしかないと信じよう。
じゃあ相続手続きをしてみようか。必要になる書類はこの3つ。
①法定相続人全員の戸籍謄本(父・母・長男・長女・次女・三女・四女・長姪)
②遺産分割協議書(全員で「長男に相続させる」ことを了承する内容)
③相続手続申請書(証券会社の指定様式)
①は法務局で「法定相続情報証明制度」の申請ができていれば系図1枚で済んだのに。
そして②は全員株なんて知らないから、一度長男が全て相続した後で売却・分配することで了承済み。
さらに③は証券会社から郵送されることになっているのだが(HPを探したがどこにもなかった)、もらった封筒には入っていなかった。どういうこと?
証券会社に問い合わせるとここから先は「相続支援課」が担当するらしい。あれ? じゃあ今までのは何だったの? それともめんどくさい客(?)だと思われて敬遠されちゃった?
しばらくすると相続支援課から電話が入ってきた。
まず相続者である長男の連絡先を聞かれた後、相続に関する必要な書類を送ってくれることになった。もちろん俺ではなく長男のところに。うん、最初っから相続するって言ってんのに何で何回にも分けて書類を送ってくるんだろう。
しかも相続確認で送ったことのある戸籍謄本の束を再度提出する必要があるんだと。この前送ったじゃん。なんで一回で終わらせないのかなあ。課が違うからかなあ。
とはいえこれでようやく相続資料が揃うわけだ。
株の相続については
①相続者が証券会社の口座を開く
②開設された口座に被相続者の株を移す
③株を売却する
という流れになる。
というかさ、証券会社の口座を開くのに1か月かかると言われたんだけど、そもそも相続者である長男は無職の年金生活者なんだし、審査って通るのかなあ。
それにしても色々めんどい。
母が亡くなった時、俺自身が相続人で直系卑属であったことから、銀行での手続きもあっという間に終わったんだけど、今回手間取った理由は「土地」「株」になじみがないことと、俺が相続人じゃあないってことだったよ。
生前贈与できればそれが一番簡単なのかな。後は遺言書。なにしろ土地なんか持ってると残された者が苦労するからね。俺の場合は「墓」をどうするかの問題もあるし、現金化が難しいものは持たない方がいいのかもね。
証券会社から郵便が四女の元へ届いたとの連絡が入った。これ、俺が請求したわけじゃあなくって、株主(次男)への定期連絡だった。中には所有株の明細が入ってたんだけどうっそ、購入時から比べるとだいぶ減ってるよ。まあ、7月末に一度ドカンと下がってニュースにもなってたから仕方がないんだけど、しかし「LIFULL株」だけどんなに値段が下がっても売らなかったってのは、縁故的なにかがあったのかね。
この時点で購入時から比べるとマイナス90万の評価だったよ。
マイナス90万!?
まあ、俺には知識がないから、相続した瞬間、時期が悪かろうが損してようが即売りしてやるけどね。ぼやぼやしてると「おばあ昇天拳」が炸裂しちゃうかもしれないし。
さらに証券会社から長男の元へ「取引口座を作るので2つの金融機関のどっちで作るか決めて」って電話があったらしい。どういうことかわからないって長男から相談の電話があったんだけど、振り込み用の口座は申し込み時に指定してあるし、一体何のことやら分からない。長男に聞いても埒があかないので証券会社に電話してみる。
話を聞くと2つの口座が必要になるらしい。
①振込用口座(利益などを株主に振り込むために必要な株主本人名義の口座 なんでもよい)
②株式購入用口座(証券会社が株を購入するために株主の資金を預かるための証券会社名義の株主専用口座 証券会社指定の金融機関から選択)
今回問い合わせのあったのは②のことで、購入する気はないから実際は使わないんだけど、システム上必要だとのこと。っていうかさあ、それ、ヨボってボケった長男に言っても理解されないからコッチに連絡して欲しいんだよなあ。まったく、規則とはいえすごい2度手間感。
とはいえ手続きだけは進んだようでしばらくすると戸籍謄本の束が返ってきた。順調に進んでいるのかと思いきやまた電話。なんでも株の取引方法には2通りあるらしい。
①コールセンターを通した受注(自分で売買 売買手数料3,300円/1回)
②担当者を通した受注(担当者が売買 売買手数料16,300円/1回)
そりゃ①でしょう。だって1回売って終わりなんだし。
ところがコールセンター対応にするためには「取り扱い説明」を聞かなければいけないらしいんだけど、対象者が高齢のボケッターの場合は保護者(?)も一緒に聞く必要があるんだと。えっ、そのために俺実家に行かなきゃいけないの? 実家に帰るのに1万円かかるのに? その時点で安さのアドバンテージがなくなっちゃうじゃん。
結局1回だけの取引しかしないこと、取引するのが長男でなければならないこと、説明聞くのと取引の時と2回帰省すると2万円かかること、の3点から、対面方式で申し込むことにしたよ。もうこれで終わりだよね、もう何にも出てこないよね。
そしてついに、口座開設と相続完了のお知らせが(もちろん長男のところへ)やってきた。な、な、長かった~。
これで持ち株をすべて売却すれば完了。なんて思っていたよ。でもね、証券会社からやってきた郵便物の中に不穏な文字が書いてあった。うん、そんなこと全くアタマになかったよ。
「確定申告」
うへえ、そうなの? そういうのやらなきゃいけないの?
とりあえず担当者に聞いてみるとこんな回答が。
「現在価格が購入金額を下回っていて『損失』ですので必要ありません」
なんだよびっくりさせやがって。でも「損失」かあ、そうはっきり言われると自分のものではなくても心が痛い。
これであとは担当者に電話して「売って」と言えば全てが終わる。
なんだけど……損失かあ。
株に何の興味を持っていない俺でも自分の(じゃないけど)所有株があるとその動向が気になるもんだよね。で、毎日見てたの。毎日見てたんだけど……。
11月くらいから株価が上がってね? これってまだ上がるんじゃね? 損失回避できるんじゃね?
同じように株情報を毎日見るようになった父も「もうちょっと置いとく?」なんて言い出して、いやあ、人間の欲って恐ろしいね。こういう人は株なんかやらない方がいいよ。
とにかく年末までには終わらせたかったので、担当者に「200円超えてたら売ってください」と電話してようやく終了した。
あとは相続者同士で面倒なお金の分配が残ってる。
銀行振込にすればいいのにさあ、なぜか現金で受け取りたがる相続人たち。だって現金を引き出すだけでも手間だよ? 詐欺かと思われちゃうよ? 実際銀行に聞いてみると大量の現金引き出しには事前予約が必要で、しかも警官立ち会いの元、家まで警護がつくんだって。おいおい物々しすぎるだろ、それじゃあかえって泥棒に目をつけられちゃうんじゃあないのかなあ。
結局お金は長男が数回に分けてATMから引き出したよ。(それでも詐欺にひっかっかってないかと銀行から電話が来たらしい)
相続人への分配率は経費を差し引いた金額を、実際に動いた長男、次女、四女が決めていった。とくにもめることもなくすんなり決まったよ。俺はと言えば相続人ではなかったけど、実際にかかった経費と、田んぼの管理費として20万はもらうことにしたよ。っていうか田んぼ……高速道路か新幹線でも通らないかな……。
でも本当にこれで終わり。なんだかんだで半年かかったね。長かったぁ~。
ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。
所有株式の調査について
参考(証券保管振替機構HP):https://www.jasdec.com/procedure/shareholders/disclosure/
↓ 相続について分かりやすくまとまっています ↓
政府広報オンライン
・知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】
:https://www.gov-online.go.jp/article/202403/entry-5848.html