第7話 まだ終わってなかったの?
10月になり法務局から土地の権利書が届いたよ。
うん、思ったより早かったし不備はなかったらしい。これでようやく終われる……と思ったんだけどそういえばさ、弟に「農地の所有者が変わったら農業委員会に届出が必要」って言われてたような気がする。調べてみると確かに『農地法第三条の三』にそう書いてある。うわあ、土地関係は終わったと思ってたけどまだ終わってなかったよ。
倒しても倒しても立ち上がってくる不滅の主人公を相手にしているようで精神力が削られる。
そもそもこの『農地法』のせいで農地の売買が難しくなっているんだ。一定の自給率を確保するため、農地は農業従事者にしか売ってはいけないことになっている。あれ? ウチって農業従事者なのかな? なんだかよく分からないので農業委員会に電話をかけるとこれがまた要領を得ない回答しか返ってこない。
①農地面積が小さくても「農業委員会へ届出」が必要か
→農地台帳へ所有者登録するため必要
②登記完了した時、それが農地なら「農業委員会へ届出」しろという案内がもらえるのか
→ない。(えっ、ナニソノ不親切仕様)
③じゃあ気が付かなければ届け出をしないことになるが良いのか
→2024年4月に法が改正され、相続した農地は3年以内に農業委員会へ届け出る必要がある
④届出をしないと罰則があるのか
→ある(「ない」という人もいてよく分からない)
⑤以前相続した土地の届出をしていないがどうなっているか
→規制前に所有していた農地には適用されない
⑥農業用水などの賦課金が必要な土地か調べてもらえるか
→できない(えっ、何のための農業委員会なの?)
⑦届け出は郵送でも良いか
→郵送の場合、名義人の宛名を書いた返信用封筒を同封すること
⑧直接出向けばその日に完了できるのか
→登録に7~10日かかる
⑥の質問なんだけど、遺品の中に「土地改良区」の会報があったんだよね。土地改良区ってなんだよって思ってたんだけど、どうやら農業用施設(農業用水路とか)の整備を行っている団体らしい。ってことはそのための賦課金(費用)も払わなくてはいけないのかな。仕方がないので土地改良区にも電話だ。
こちらはとても丁寧な対応だった。うん、今回の関連各所の対応を5段階で点数付けするならば
・市役所本局市民課 1
・市役所本局資産税課 5
・市役所支所 5
・公正役場電話 4
・公正役場窓口 4
・法務局遺言電話 5
・法務局遺言窓口 5
・法務局登記相談 2
・法務局登記窓口 3
・農業委員会電話 1
・土地改良区電話 5
・証券会社電話 1
こんな感じかな。市役所は本局より支所に行った方が圧倒的にいい。どこでもそうであるかは知らないけれど。
で、調べてもらった結果、次男の田んぼは土地改良区に当たり、賦課金も発生しているとのこと。こちらの所有者申請も行わなくてはいけなくなった。
っていうかさ! 確か土地の国庫帰属制度を調べたときに「土地改良賦課金が課されている土地は国庫帰属できません」って書いてあったよ!
マジか! 俺、一生田んぼの草刈り&固定資産税と賦課金の支払いをすることが決定したよ……。
ちなみに賦課金は年間2,500円で来年は特別賦課金がかかって3,100円とのこと。
あれ?
土地の賃料が年間5,000円だったよね。
そして必要経費(?)として3年に1度借主に5,000円のお歳暮を送っていたはず……。
ちなみに農地にかかる固定資産税は評価額の1.4%だそう。相続した土地の評価額が38,000円だから固定資産税は532円ってことだね。するってえと。
【年間の収支】
5,000円(賃料)-2,500円(賦課金)-1,700円(お歳暮)-532円(固定資産税)=268円
なんと年間268円の売り上げ。来年なんか332円の赤字じゃねーか。
***
土地改良区の賦課金は必要書類を送ってもらったら、長男が手続きしてくれた。あとは農業委員会なんだけど、いくら話を聞いてもよく分からない。電話で話す人の回答がみんな違うんだよね。とりあえず登録しちゃえばいいんだろ、ってことで実際に出向いて登録したよ。
ついでに長男が元々持っていた農地ね、「10a(10アール=1,000㎡)以下の土地は登録の必要なし」って言われてたから登録してなかったんだって。でも今は面積にかかわらず登録しなきゃいけないらしから、一緒に登録しようと確認してもらった結果、既に登録済みになってたよ。
ん? どういうこと?
よくよく聞いてみれば「法務局で登記された農地は農業委員会へ情報が入るのでその情報を元に登録している」のだという。えっ、それってつまりわざわざ届け出しなくてもよかったってことじゃね? 登記さえすれば勝手に登録してくれるってことじゃね? 担当者、はっきり明言はしなかったけどそういうことじゃね? わざわざ休みを取ってやってきたこの苦労はいったい何だったのか。
せっかく実家に帰ってきたのでついでに、と言ってはなんだけど、田んぼの借り主にも挨拶に行ってきた。
その方もかなり年配(おそらく70歳くらい)だったんだけど、息子さん夫婦と一緒に米作りをやっていたのでうまくいけば俺の代は借りてくれるかもしれない。頼むぜぇ~、俺の草刈り生活がかかってるんだからね。けど、家から少し離れた場所の土地なので「買えない」そして「いつまで使うか明言はできない」とのことだった。
ついでに今年の賃貸料ももらったんだけど、秋の収穫を終えたあとに収穫量によって賃料を決める仕組みらしく、今年は8,320円だった。おお、プラス収支だ。
こうして土地の相続手続きはすべて完了した。
***
母が亡くなった時、銀行口座の相続手続きは俺がしたんだけど、法定相続人が「父」「俺」「弟」の3人だったので楽なものだった。土地やら株やらがなかったしね。3人で遺産分割協議書に実印を押して全員の戸籍謄本と共に銀行などへ提出するだけだった。何しろこの時の俺は直系卑属、バリバリの相続人だ。関係者の書類も弟以外は全て自分で取得することができたしね。
この時は弟のものだけで済んだけど、兄弟が多く、死亡者がいると大変だよ。今は電子化されているものは全国どこからでも取れる(2024年3月以降)けど、でも直系に限るからね。
ちなみに古い戸籍謄本を読むのはことのほか面白かったよ。
今回手に入れたもので一番古いものは、俺のおじいちゃんおばあちゃんの生まれたときの戸籍(明治19年式)で、その頃の戸籍主は当然慶応以前の生まれであり、その父ともなると安政だったり天保だったりの年号が出てくるわけで、そんな文字を見ると心が踊らずにはいられない。全然興味がなかったのに「家系図作ってみようかな」なんて思わせる不思議な魅力があるよ。
他にも「絶家」「再興」なんて文字があったり「失踪」している(聞いてみたら日露戦争が嫌で失踪したらしい)ヤツがいたりと、見ているだけでもドラマを感じずにはいられない。入手できるうちに一度集めてみるのも面白いかもしれないね。(現在の戸籍は150年保存だが、過去には80年保存や50年保存だった時期もあり、その時に破棄されていた場合は入手不可能)
今、和暦って使われなくなってきているけど、西暦で言われるより感覚的に「どの時代」かわかるのって貴重だと思うんだよね。なるべく使っていきたいなあ。
農地の相続
参考(農林水産省HP):https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/nouchi_souzoku.html
※相続土地国庫帰属制度に申請できない土地(例)が「6.どうしても農地を手放したい時には」に記載
農地法第三条の三
参考(e‐Gov法令検索HP):https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0000000229
土地改良区
参考(農林水産省HP):https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2507/spe1_01.html?utm_source=Facebook&utm_medium=social&utm_campaign=aff2507_spe1_01.html