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第5話 遺言書を探そう

 少し時間ができたので「書くと言っていた」らしい次男の遺言書を探すことにした。


 というかね、相続手続きは遺言書を探すことから始めるのが一般的らしいんだけど、そもそも遺言書を書く人なんてほとんどいないよね。聞いたことないし、遺言を残さなければいけない家なんてむしろ問題あるイメージしかないよ。調べてみると遺言を残すのは死亡者の8.8%らしい。うん、少ない、よね。


 そんな遺言書は、あればその内容通りに相続される。


①遺言書がある

→遺言書通りに分配


②遺言書がない

→法定相続人で分配


 次女も四女も「なかった」とはいうものの、やはり故人の遺志があるなら尊重してやりたい。というのは表向きで、遺言書に「四女に残す」って書いてあったらそれで土地の所有者は決定でしょ? 俺には回ってこないでしょ?


 ついでにもっとひどいこと言うよ?


 四女が相続した後に資産を使い切って亡くなった場合、この「要らない土地」は四女の遺産としてこっちに戻ってくるわけだけれども、その時こそ相続放棄すればいいんだよ。その時は甥姪の代になってるし全員で相続放棄すればきれいさっぱりなくなるでしょう。うん、我ながらひどい考えってのは分かってる。


 言い換えれば長男が相続したとしても、俺が長男の財産を没収して毎月のこずかいで生活させるようにすればいいわけだ。これなら長男が死亡した後、残った土地は相続放棄できる。


 うん、ひどいなあ。




 気を取り直して遺言について調べてみると、遺言書の保管先ってのはこの4つがある。


①自宅

②執行者(弁護士など)

③公証役場

④法務局


 この中で③だけが他者が作成する遺言(公正証書遺言)で、その他は自分で書く(自筆証書遺言)遺言になる。遺言には「法律で定められた方式」があって、それにそぐわないと無効になるので、まあ、③で作ってもらうのが間違いないかなあ。もちろん有料だけど。


 ①は探しても見つからなかったって言うし、②は雇ったなんて聞いたこともない。


 ③の公証役場は公的な遺言を公証人が作成して預かってくれる機関なんだけど、なんと預かるだけで死亡したときの親族への通知は一切しないらしい。えっ、そこ、一番大事なトコじゃないの?


 全国の公証役場で遺言の「あり」「なし」は検索してくれると言うのだけれど、そんなことより死亡時の通知がないって、せっかく書いたのに人知れず眠りっぱなしになっている遺言書が結構あるんじゃないのかな。


 遺言の検索は10分もあれば終わるらしい。だけどその検索には、相続者が所定の書類を揃えて事前予約して赴く必要があるとのことだった。きたよきたよ、事前予約の上相続者じゃないと教えませんってヤツが。どこも同じだな。


 ④の法務局は自筆の遺言を預かってくれるところで何と無料だ。こっちは死後に通知があるらしいので、そう考えるとこっちの方が便利かなあ。自分で遺言書くのはハードル高いし、実は受け取り側にも高いハードルがあるんだけど。こっちも確認には、相続者が所定の書類を揃えて事前予約して赴く必要があった。そこは変わらないね。


 ということで同じ日に予約だけとって保留とする。



 ***



 株の相続に関する資料が四女のところに送られてきたらしい。そりゃそうだ、だって俺が送り先に指定したんだもん。ところがその資料が封も切らずに長男(俺にとっては父)の元にやってきた。俺に手続きしろってことだよね、もう完全にやる気ないよね。俺が横領したらどうするつもりなんだ。


 そりゃ親族だからさ、やるよ、やるけどさ、やっぱ相続者がやるべきじゃね?


 証券会社から送られてきた資料には、相続手続きの方法とそのために必要な書類が書いてあったんだけどそれ以前にね、こちとらどんな株をどれだけ持っているかさえ分かっていないの。まずその情報が欲しいんだけどなあ。証券会社の担当者に電話するとそれもやっぱり「相続者」でなければ請求できないとのこと。そりゃまあ詐欺の可能性もあるし止むを得ないんだけどさ、自分で進められないのがもどかしい。


 証券会社もさあ、相続するって言ってんのに相続資料だけ送ってきて、持ち株の内訳を教えてくれないってどういうことなのよ。


 請求に必要な書類は実家に置いてきちゃったから、長男に送ってほしいと電話するも分かってるんだか分かってないんだか受け答えに不安しかない。しかも必要な書類って土地の相続でも使う書類なんだよなあ。今の郵便って遅いじゃない? 実家→我が家→証券会社→実家→我が家と一回りする間に法務局で予約した登記の相談日が来ちゃうよ。


 結局送ることもできず停滞、停滞、何もかもが進まない。うわぁ~ナニコノ状況、早く終わらせてさっぱりしたい~。



***



 そしてようやく遺言調査の予約日がやってきた。


 まずは公証役場。公的な遺言を残すならここ。相続権を持つ者が身分を証明して請求すれば、全国の公証役場の遺言データを調べてくれる。調べてもらうのはものの10分で完了した。早い。何だよ、わざわざ予約取って出向かなきゃいけないほどのことだったのかよ。


 結果、遺言なし。


 証明書を発行できるって言われたけど断った。でも、せっかくだか貰っときゃよかったかな。


 次に向かったのは法務局。自筆遺言書を残すならここ。こちらは収入印紙代が800円かかった。そして申請書類を書いたりして結局2時間くらいいたかなあ。10分で済んだ公証役場とのこの違い。なんなんだろう。


 そしてやっぱり遺言はなかった。


 まあ予想はしてたよ。でもこれでいい。すっきりしたしね。



 ***



 四女がやっている銀行関連の相続手続きが全て終わったとのことで、相続者全員の戸籍関連資料がこっちに回ってきた。あれ? この前貰ったので全部じゃなかったのか。でもこれでようやく保有株の資料請求ができるよ。


 でもやっぱり「相続者」じゃない俺には手続きすらできないわけよ。つまりね、保有株の情報も俺のところに送るわけにはいかないらしくて、全ての手続きにおいて証券会社→長男(相続者)→俺(代理)っていう郵送の二度手間が発生するわけだ。


 だから直接交渉できる四女にやってほしかったんだけどな。


 代理人申請するにも相続者全員の承認がいるので、バラバラに住んでいる兄弟たちに書類回して、署名捺印してもらうだけで時間がかかっちゃうし。


 なんにも進んでいないのに時間だけが過ぎてゆく。



 ***



 市から「固定資産現使用者申告書」っていうのが四女の元に届いたって、封も切らずに俺のところに回ってきたよ。うん、この前も似たようなことがあったよね。そしてこれからも同じことが起こるよね。四女め、「私、部外者ですから」っていう主張をバシバシ感じるけどお前こそ当事者だからな。


 内容は「土地の所有者が死んだので誰が引き継ぐか申告しろ、この手紙を受け取ったら2か月以内にしろ」ってものだった。なんだよ、相続は3年以内だろ? そんなにせかすなよ。


 電話をすると「登記完了すれば登録はいらない」とのこと。まあ、相続しないでほっぽっておく人のための対策なんだろうけど、税金徴収に関する催促だけこうやってやって来ることにやりきれないものを感じるのは俺だけではあるまい。

遺言について


参考(日本公証人連合会HP):https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02


参考(法務局HP):https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

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