第4話 なんだよ自分でやれってか
戸籍関係の知識は素人ですので、間違っていたら教えていただけるとありがたいです。
司法書士の元に行ってきた。
電話ではいろいろと相続の相談に乗るよと言ってたけど、実際に話したらそんな感じでもなくって、「農地は売れないよ、売りたくても売れなくて困ってる人いっぱいいるよ」だの「どうしようもないね」だのどうもやる気が見られない。結局そういった相談は業務外で、単純に行政手続きの手伝いをするだけってことなんだろう。土地の相続に必要な書類の一覧表をくれて「これだけ持ってきてくれたら見積もり出すよ」ってことだった。なんでも土地の評価額が低そうだから7万ちょっとで手続きしてくれるらしい。え? 司法書士の費用って1件の単価が決まってる訳じゃなくって、相続資産の総額で決まるってこと? 相続額の○%が報酬になるって事? それじゃあ安っすい仕事に対してその態度も納得するわ。
なんていうか、事務的なこの司法書士には頼みたくないが、面倒なので任せることにして市役所で必要書類を集めることにした。
司法書士に言われた必要書類はこんな感じ。
【被相続人】(次男)
・生まれから死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
・死亡時の住民票または戸籍の附票
【相続人全員】(長男・次女・三女・四女・長姪)
・戸籍謄本
・本籍地記載の住民票
・印鑑証明書
【登記物件】(田んぼ)
・評価証明書等
案外少ないし市役所で揃えられる書類ばかりだ。これならすぐに集まるだろう。
だけどね、ここには罠があってこれらの書類は直系、もしくは相続者でなければ申請できないんだ。土地の評価額を聞くことでさえ相続者ではない俺には無理で、結果ヨボった父を引き回すことになった。無駄に広い市役所本局。階段を上り下りして各課でイチイチ申請用紙に必要事項を書いて書類請求するんだけどそういえばさ、マイナンバーカード作るときの理由が「役所の業務を効率化するため」って言っていなかったかな。マイナカードが身分証明としてしか役に立っていないんだがどういうことなんだろう。
そしてね、渡される申請用紙には馴染みのない言葉が書いてあるんだよ。戸籍・除籍・原戸籍・附表・一部事項証明なんてね。あれってわざと難しく書いてあるよね。いったい何を請求すりゃあいいんだよ。
調べてみると申請用紙は各自治体で違っていて、親切な自治体は分かりやすくできている。俺が申請した自治体は古いままだったのでとてもわかりにくかったよ。
***
ここでちょっと戸籍について説明するよ。
戸籍ってのは定期的に改正されていて、現在使われている戸籍が「現在戸籍」、改正前の戸籍が「改製原戸籍」と呼ばれている。ちなみにこの「戸籍」の正式名称も電算化に伴い現在は変わっていてややこしい。
旧)戸籍謄本 → 新)戸籍全部事項証明書(戸籍に載っているすべての情報(親兄弟子供など)が記載されたもの)
旧)戸籍抄本 → 新)戸籍個人事項証明書(戸籍に載っているうち特定の人物の情報のみが記載されたもの)
旧)除籍謄本 → 新)除籍全部事項証明書(結婚や死亡などで全員が抜けた状態の戸籍)
旧)除籍抄本 → 新)除籍個人事項証明書(上記の内特定の人物のみが記載されたもの)
戸籍の改正はたとえば電算化とか、書式が変わったりするときに行われるもので、そのとき使われなくなった古い戸籍が「改製原戸籍」と呼ばれるものだ。戸籍の改定はこんな頻度で行われている。
明治5年式戸籍(明治5年2月1日施行、壬申戸籍)
明治19年式戸籍(明治19年12月1日施行)
明治31年式戸籍(明治31年7月16日施行)
大正4年式戸籍(大正4年1月1日施行)
昭和23年式戸籍(昭和23年1月1日施行)
コンピューター戸籍(平成6年12月1日施行)
こんな風に明治までは遡ることができるんだけど、明治5年式戸籍には「身分(例えば華族だとか穢多・非人だとか)」が記載されているため現在は閲覧不可になっている。これより先が知りたければ、おそらくお寺で墓石の刻印を調べることになるんじゃないかなあ。
今回必要になった「生まれから死亡までの戸籍(除籍)謄本」ってのは、例えば昭和20年生まれ、昭和44年に祖父を亡くし昭和45年結婚、令和6年死亡の女性がいたとすると必要な戸籍は次のようになる。
①大正4年式戸籍 昭和20年に生まれてから同23年改正までの戸籍
②昭和23年式戸籍 昭和23年戸籍改正から同45年に本人が結婚し除籍するまでの戸籍
③昭和23年式戸籍 昭和45年結婚により夫の戸籍に移ってから平成6年改正までの戸籍
④コンピューター戸籍 平成6年から死亡までの戸籍
生まれてから死ぬまでの情報を追いかけるためには、こんなにたくさんの戸籍がいるんだね。ちなみに改製原戸籍は750円、戸籍謄本は450円する。
書類が全部そろったら、あとは司法書士に頼むだけだ。
***
次女&四女の家へ状況報告に行った。
どのみち相続者全員の戸籍謄本がいるので、それを取ってくれるようにお願いする必要がある。だって直系しか手に入れることができないんだから。
銀行口座関連の相続を行っていた四女は「全部持ってるよ」って書類をくれたのはいいんだけど、「司法書士に頼むと高いよ、自分でやればタダだよ」なんて軽く言っちゃってくれやがったよ。おいおい、それ、誰がやるの? 俺、実家に帰るのに1回1万円かかるんだけどまさかそんな俺にやらせないよね、第一俺って相続者じゃないし。こんな時こそ次女の出番だ、姉パワーで四女の横暴を止めてくれ。
次女が「当然やってくれんだろ?」みたいな目で俺を見ていた。
まさに逃げ場なし! まったく欲しくない土地の相続を手間暇かけてやらなければいけないって何の罰ゲームだよ。
だってさ、土地の評価証明書を市役所で貰ってきたんだけど400㎡の田んぼ、いくらの評価だったと思う? なんと驚きの38,000円だった。400㎡だよ? イメージしにくければ25mプール(325㎡)より一回り大きいと考えればいいよ。日本の戸建ての平均面積が130㎡くらいって考えると、家3件建つくらいの土地が38,000円って、日本の田んぼ、どうなってんだよ。
そしてその38,000円の土地を国庫返納するためには20万円(ちなみに審査料として14,000円が別に要るよ)が必要になるってのもどういうことだよ。
ついでに次男の通帳を見せてもらったんだけど、その田んぼ、いくらで貸していると思う?
通帳履歴を見ると、なんと年間5,000円弱。「弱」ってのは毎年同じ額じゃあないからで「なんで?」って思うんだけどそれよりもこの金額、月じゃあないよ年間だよ。しかも3年に1度、借り主に5,000円程度のお歳暮を贈っていて「それ利益になるの?」ってレベルなんだよね。それでも固定資産税を引いて「マイナスにはなっていない」というのだけど、どうなってんだろうね日本の土地。
これ、資産になるのかな。プラスだから資産なんだろうな。
もうメンドクサイ。放棄したい。だってさ、いずれこの負債は俺のところに回ってくるんだろ?
もういいや、やれって言うのならやってやろうじゃないか。あの司法書士に頼むのがしゃくだってのもあったし、土地相続の必要資料は揃ってるんだからすぐに登記申請できるでしょ。
なんて思ったのが甘かった。
法務局のHPに相続に関する手続き方法について説明があるんだけど、司法書士に貰った「必要なものリスト」とは大分違ったものが書いてある。どういうことだよ、理解不能な部分も多いし読んでも分からないので直接聞いた方が早いと、俺の住んでいる地域の(実家まで出向くのは大変なので)法務局までやってきた。
なんだけど。
土地の登記に関する相談は予約制でしかも1人20分までという制限付きだった。しかも予約一杯で最短でも2週間後の予約になるときたもんだ。どうなってんだよ。門前払いだったよ。
どうもね、2024年の4月から土地の相続が義務化されて、3年以内に相続しないと10万円以下の罰金が科されるようになったらしい。しかも過去相続分も遡って適用されるんだと。まあ、放置された農地が山ほどあるし何とかしなければいけないのは分かるんだけどさ、みんな要らなくて放置してるんだからもう少し楽に返納させてくればいいのに。
さらには帰りがけに「(相談は)一回じゃあ終わらないよ」なんて言われる始末。うへえ、そんなに面倒な手続きなの? そりゃみんな司法書士に頼むよなあ。
とりあえず実家近くの法務局に相談予約を取り、HPを見ながら登記資料を作成してみたんだけど、その前に起死回生の1手として「遺言書」でも探してみるかな。だって遺言書があれば長男(ひいては俺)が相続しなくても済むんだし。
土地の相続と戸籍謄本などの入手について
土地の相続
参考(法務局HP):https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html
戸籍謄本の申請
参考(中央区HP):https://www.city.chuo.lg.jp/a0012/kurashi/touroku/juuminhyou/shoumeisho/kosekitohu.html