第3話 株なんかやってたの?
四女が持ってきたファイルに入っていたのは株式の資料だった。
そう、次男が資産運用していたらしいのだ。とはいえ誰も株のことなんて分かりゃあしない。なんか「有名なヤツ」と「そうじゃないヤツ」を持ってるらしいなんて四女が言うんだけど、なにそのアバウトすぎる情報。ファイルには株関連の資料が詰まっており、情報を見るためのネットアドレスとパスワード一覧表なんかも出てきた。まるで印字されたかのようにキッチリとIDとパスワードがA4用紙いっぱいに並んでる。うわあ、性格出てるなあ。
でもここまでキッチリパスワードの更新をやっている割には、誰でも見ることができる紙に記録するんだね。お茶目さんめ。
一緒にいた俺の弟がスマホでアクセスしてみたがどうやらログインできなかったらしい。こういうのってさ、故人のPCからログインしないと警告が出たりするんじゃない? スマホでの二段階認証が必要だとか。PCはリースしていたものですでに解約、スマホも解約済みとのことで、じゃあ諦めるしかないか。
資料の中には企業から送られてきた封筒が3つあった。
・パナソニックの封筒 おう、「有名なの」ってパナソニック株を持ってたのか。
・LIFULLの封筒 聞いたことがない、つまり「そうじゃないヤツ」ってことね。調べると「ライフルホームズ」の運営会社だった。なんだ有名じゃん。
・証券会社の封筒 おや? ここで買ったのかな?
証券会社に電話がつながらなかった(その日は日曜日)ので、とりあえず後日、再度電話してみることにしてその日は解散。資料は俺が預かることにした。
***
翌日休みをとっていた弟が証券会社に電話してくれた。
所有株の情報を教えてくれるかと聞くと「本人でなければできない」との返事。まあ、詐欺師かもしれないからね、教えられないのは理解できる。でもそんなことを言ってたら何もできないじゃない、本人はもういないんだからさ。じゃあどうするかっていうと、何をするにも一度「相続」する必要があるとのこと。なんだかそのための手順もはっきりしないし、弟も「相続人」じゃあないので取り合ってもらえないらしい。
弟によると「電話の相手が相続について詳しくない」らしかったがいやいや、そんなことってある? まがりなりにも企業なんだし誰かいるだろう、詳しい人が。その会社、大丈夫なんだろうか。なんでもそうだけどこういう会社って、入会手続きは手厚く親切なのに退会手続きはめんどくさいように出来てるんだよなあ。
ということで俺も翌日電話してみた。
保有株式の情報開示だとか、相続だとかの手続きをするにはやはり相続者であることを証明せねばならず、そのために株式所有者の死亡確認と相続者との関係証明が必要ってことで「故人の除籍謄本」と相続者の「相続関係を示す戸籍謄本」を送ることになった。その後の相続手続きの書類は次男の家(つまり次女と四女の家)に送ってもらうことにしたよ。だってこの先は相続者じゃないとできないことだし、あとはそっちでやってくれ。
これでようやく一つ片付いたよ。
お次は土地だ。
こっちも弟が話し合いの翌日に役所(農業委員会)を回ってくれて、要らない土地の処分について調べてくれていたんだけど、なんともできないっぽい。
【相続した農地の処分方法】
①相続して保有
→それが嫌でモメてるんだけどな。(農地の所有者が変わった時は農業委員会への届け出が必要)
②相続して売却
a.宅地に転用して売却(農業委員会で事前協議が必要)
→市と協議(農地区分等事前協議)後に許可申請して地目替えし、不動産業者を通して売却(だが、おそらく転用不可とのこと)
b.農地として売却
→JA等に売却依頼(だが、おそらく売れないとのこと)
③国庫帰属(令和5年に制度化)
→いいじゃないの。でもこれもキビしいハードルがあって無理そう。例えば「利害関係がクリア」ってのがあって、田んぼの借り主が国庫帰属に反対して頑張っちゃったらそれだけでアウトじゃないかなあ。
っていうか国庫帰属するためには負担金が最低20万円(国が10年間土地を管理するための費用)必要になるんだって……えっ! 土地を納めようって人からさらに金取ろうっての!? なんだよそれ、いっそ固定資産税滞納させたら差し押さえてくれないかなあ。
北海道の水源とか、自衛隊基地の隣の土地を外国人に売ってしまう人の気持ちが良く分かったよ。だってさあ、持ってるだけで毎年固定資産税をとられた挙句、雑草まみれになったら近隣住民から苦情は来るわ、国庫返納しようにも20万取られるわって、そりゃあ売れるなら悪魔にだって売るよなあ。
国庫返納なんてされたら固定資産税が取れなくなるので、わざとハードル上げてんじゃないの?
どっちにしろ相続しなければいけないわけだし、とりあえず司法書士に話を聞きに行く前にできるだけのことはやっておこう。
***
長男が土地の借り主に会ってきてくれた。結果からいえば買取もしくは譲渡は断られたらしい。俺も詳しくは聞かなかったんだけど「損はしてないんだからいいじゃない」なんて、軽くいなされたらしい。そう思うなら引きとってくれよな。そして、土地の境界線が消えていたらしい。
次男の持っていた土地(田んぼ)は細長い土地で、周り一帯の田んぼと共に借り主がいろんな人から借りて米を作っているとのこと。で、おそらくコンバイン(農業機械)なんかで田植えや稲刈りするときに「畝」が邪魔になるんだろうね、壊されてなくなってたんだって。
ええと確か国庫帰属の条件の一つに「境界が明らか(現地で確認できる・もしくは隣接地の持ち主と争いがないこと)」ってのがあるんだよね。ダメじゃん、もう。とはいえ借り主さんに問い合わせたところで「次男に許可とった」と言われればおしまいだし、どうにもできないな。いっそ「貰ってくれなければ国庫返納する」って脅せないかな。うん、間違いなく嫌われるけれども。
ちなみに隣の田んぼの持ち主(この方も同じ借り主さんに貸している)に「貰ってくれないか」と打診したら「むしろこっちが貰ってほしい」なんて言われたんだって。もう日本の田んぼ、終わってるわ。
とりあえず司法書士に相談かな。
農地の相続について
農地の相続・転用
参考(農林水産省HP):https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/nouchi_souzoku.html
相続土地国庫帰属制度
参考(法務省HP):https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html




