第1話 事のあらましと相続のルール
これをエッセイにするか迷ったんです。だって面白くなりそうもないし、実際に面白くもない。
でも、検索してみると相続エッセイって少ないんですよ。
じゃあ、記録代わりに残しておこう、そんな軽い気持ちで書きました。
きっと対象年齢は50~80歳くらい……。
2024年6月、叔父が亡くなった。
広告デザイナーだった叔父は、絵を描くのが好きな俺からしてみると親近感しかなかったが、それでも幼少時に父の転勤で実家を出てからは疎遠になり、ほとんど会うことはなかった。
思い出? たくさんあるよ。部屋に入るなってさんざん言われて逆に興味がわき、しょっちゅう覗いていたこととか、部屋に独特の臭い(体臭?)があって、何の臭いか興味津々だったりしたこととか。多くの子供がそうであるように、俺も実家住まいの叔父が大好きでつきまとっていたが、あちらからしてみればいい迷惑だったかもしれない。
叔父に貰ったもので一番思い入れがあるのは『ちびっこカムの冒険』っていう本。線画の挿絵が書いてあるその本に、叔父が彩色してくれたのを小学校の時にプレゼントしてくれたんだけど、当時の俺にはその価値が全く分からなくって、ほとんど放置状態だった。クラスの生徒が持ち寄って作る学級文庫でも人気なかったしね。
大人になって、自分が絵を描くようになって初めて分かるこのプレゼントの凄さ。
水彩絵の具だと紙がベコベコになりそうだし、マーカーじゃあ裏に写っちゃう。おそらく水の量を控えめにして塗ったんだろう。そのために似たような紙で何度も試し描きをしたに違いない。今更だけど、凄いプレゼントをありがとう、大人になった今でも心に残ってるプレゼントだよ。
その他にも、実家にモンキーパンチのサインがあったりゲゲゲの鬼太郎の単行本があったりしたのは(モンキーパンチと水木しげるってあたりがイラスト好きな俺の心をグッと掴む)この叔父がいたからで、漫画や音楽とは無縁な我が家にあって、唯一サブカルに理解を示していたのが叔父だった。そんなに子供好きでもないのかな、積極的に遊んでくれた覚えはないんだけど、とにかく俺はこの叔父が好きだった。
俺が父の転勤で引っ越した後、実家の敷地の一角、元は母が美容院を営業していた建屋をアトリエに改造し、そこで仕事をしていたが、定年退職した父が祖母の面倒を見るため帰ってきたのを機に家を出て、最終的には2人の姉と一軒家で同居生活を送っていた。
それが突然のガン。闘病生活半年で亡くなったのだ。妻子がいないため葬儀は兄弟が行うことになった。そして財産の相続が行われることになる。
と、ここで相続についての基本知識を説明しておこう。
【相続のルール】
遺言書があればその通りに、なかった場合は下記の順に相続する。
①配偶者(下記②がいれば1/2を、③なら2/3、④なら3/4の割合で財産を相続する)
②直系卑属(子、子が死亡していれば孫、孫が死亡していればひ孫……(養子含む))
③直系卑属がいなければ直系尊属(親、親が死亡していれば祖父母、祖父母が死亡していれば曾祖父母……(120歳程度まで生存確認))
④直系尊属もいなければ兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡していた場合は甥・姪)
直系卑属とか直系尊属なんて言葉、初めて聞いたよ。
では次に、今回の被相続人(叔父)と法定相続人たちを相続順に紹介しよう。
【法定相続人】
①配偶者:なし
これを寂しいと思うか、自由に生きたと捉えるかは人それぞれだろう。ちなみに愛人とか内縁の妻なんかがいても、法的には他人で相続権はないから。いや、叔父にそういう相手がいたかどうかはともかく。
②直系卑属:なし
妻がいないのに子がいるってことになると、叔父への見方が180度変わりそうだけれど、そんなことはなかった。例え隠し子がいたとしても認知していなければやっぱり他人扱い。つまり戸籍で関係が証明できるかどうかがポイントとなるわけだ。養子も同じ。
③直系尊属:死亡
普通であれば亡くなってるよなあ。でも親に相続っていうのはやっぱり寂しいものがある。
④兄弟姉妹:あり
・長男(妻死亡・息子2人)
腰と耳が悪くヨボヨボ歩く。車好きでオールドミニを運転しているのだが、重ステでブレーキも異様に硬い。足の力が衰えているためブレーキを踏ん張ることができず、隣に乗ると赤信号の度に悲鳴を上げることになる。
というか言ったことを次の瞬間忘れるようになってきてとても危うい。葬儀の時も叔父の法名を坊さんが言ったそばから何度も聞き直していて、実に危うい。
・長女(死亡)とその子(長姪とする)
既に死亡している長女には娘が一人おり、今は結婚して2児の母。あちこち転籍しているのと、県外住まいのため必要書類をもらうのが大変な人の1人。当然法定相続人の中で一番若く、代襲者であることもあって取り分は少ない。法的には平等になるはずだが、関係者が納得しているのなら俺が口出しすることではないだろう。っていうかお前は相続者なんだからお前が相続手続きしろよな。
・次女(夫死亡・息子2人)
二人の息子は独立。一度は息子の家に入ったのだが嫁との折り合いが悪く、四女・次男と共に一軒家で暮らしていた。行動力がある……のかな? 車も持っていない(というか免許を持っていない)ため基本的には何にもできないというかしないが「姉である」というその一点だけで発言権は強い。
おそらく「姉」の最終形態(変身を2回は残しているとみた)をまだ見せてはいないが、決して見たいものではない。
・三女(夫死亡・息子1人(1人死亡))
息子と共に生活している。免許を持たず移動は全て息子に頼っているが、それでなくてもヨボ度は兄弟の中で一番で、ほぼ歩かない(歩けない)生活を送っている。書類をもらうのが大変な人の1人。何かを頼むのは無理なのですべて息子に頼むことになる。
誰よりも「おばあ度」が高く、HPもだいぶ少ないように見えるがおっと、HPが少ない時にヨボゲージが満タンになると超必殺技『おばあ昇天拳(コマンド:↑↑↑↑BBA↑↑BBA)』が飛び出すかもしれない。あぶないあぶない。
・四女(バツイチ子供なし)
兄弟の中では一番若いため、必然的に全ての仕事が回ってくるがそれでも「おばあ」と呼ばれる年齢に達している。やることが多すぎてちょっと疲れて鬱気味になってしまったようだ。子供がおらず長姪を我が子のようにかわいがっており、自分の資産は長姪に残したいと考えている。次男とは一番仲が良かった兄弟。
遠慮がないというか口は悪い。でもね、俺はこの叔母が大好きなんだ。叔母が結婚する時には泣いたなあ、その頃からの刷り込みが今も残っている。
・次男(死亡)独身 今回の被相続人
バツイチ子なしの四女を慮って、財産を四女に残そうとしていたようだが、どうやら遺言を書く前に病死してしまったらしい。細かくいろんなことに手を出していたようで、それらの全貌はいまだ明らかになっていない。
とっても神経質でメモ魔。自筆のメモ書きを見たが定規を当てたかのように揃った行、活字かと思えるほど揃った文字。キッチリ3か月に1度更新されているPCのパスワード。それらを見るだけで結婚できなかった理由の一端を推察することができる。
いや、俺の一族は基本的には同質なんだけどね。父の神経質があまりにもひどいのに参った母が、俺の教育方針を「ずぼらな子に育てる」にしていなかったら、俺も同じ道を歩んでいただろう。
ちなみに喪主は長男が勤め、実家の墓に入ることになった。だから葬儀の仕切りとか、寺との交渉とか、墓石の文字入れなんかは長男が全て取り仕切った。
兄弟3人(次女・四女・次男)で同居していたこともあって遺品の整理なんかは次女と四女が行うことになったんだけど、そんなダブルおばあで粗大ゴミを何度も運び出したかと思うと頭が下がる。デザイナーだった叔父の遺品には何やらわからないオブジェクトやたくさんの画材があったようだが容赦なく捨てたようだ。またPCはレンタルしていたらしく、PCとインターネットの解約は次女の息子たちで行なった。
うん、携帯電話・インターネットの解約、年金の手続き、クレジットカードの解約などなど、銀行口座の解約や死亡届の提出以外にもやることはたくさんあって、正直「おばあ」がやるには荷が重い。
ちなみに俺は長男の息子。父が死んでいれば俺も相続人だが、父を飛び越えて相続することは(遺言書でもなければ)できない。だから俺には全く関係ない話なんだ、と思っていたのだが。
相続については素人ですので間違ったことを書いているかもしれません。詳しい方がいらっしゃいましたら指摘して頂けるとありがたいです。