最後の朝食
佐部タスクはバンドをしていた。
気の遠くなる時間、何度でも引いた。
目の前には、いつもCDで聞いていた、歌手。
そうして、すべてが引き終わった。
アルタイの物語も。
「ふう、いい歌ですね」
「ああ、さすがが、引いていた本人だがな」
その人は、数々の戦争をめぐっていた。
この人が言うには、戦場を何度もわたり歩いていないと、たどり着けないものがあるらしい。
俺は、そんな彼が、音楽に執着していることがよくわkらない。
「なあお前さん、音楽協会を救ってみないか」
まだ音楽については、初歩的だ。
そうしていると、おひるごはんの合図が鳴り響いた。
「行ってきます」」」
「一緒に行くか」
そこは病院施設。
俺はウクライナに行った。
そうしていると、PTSDになってしまった。
それまでの現実である。
「なあ、世界はどれほど俺の音楽を待っていると思う」」
「わかりません」
指をはじく。
空中で。
「よほど、音楽にハマってしまあったんっだな」
彼は、俺のつたない音楽でも黙って聞いていた。
そうして、歌声を強化していた。
残り有り余る時間。
徹底して、音楽のことを考えていた。
「なあ、ライドさん、これからどうするんだ」
「どうしようもねえよ」
俺はその言葉に、どれだけ音楽と戦ってきたのが、わかる。。
「青年、お間にもやりたいことがあるんだろう」
そうなんだ。
「マイが、戦場が待っていますから」」
「つくづく、かっこいいやつめ」
二人して笑う。
目の前を歩く、ライドさん。
俺はうれしかった。
入院生活も残りすくないものだとわかった。
周りの世話を、お笑い芸人の真似をして、過ごしている。
「たすく君」
寝る前に、一人の看護師が寝室まで、入ってきた。
「もう、何度もここにいてほしい」
「わかっている。でもおれは、戦場に行きたい」
彼女は押し黙っていた。
その空気を壊すように言ってみた。
「俺は大丈夫だから」
「そうね、最後のスマイルよ」
そういって、カーテンをしめた。
彼女のおなかの中には、俺のこどもがいる。
そうだ、血は同じものにしか、子供が宿らない。
おおよそ、ここの病院も、もう少しで育児休暇を取るだろう。
「じゃあ、大好きって言ったら、もうお島市になっちゃうから、お休み」」」
「はい」
俺は目を閉じる。
俺には、愛人のほかにも、子供たちがたくさんできた。
ゆくゆくの、病院で、本当の親もわかった。
『どうなっていくかは、お前しだい」
俺はわかっている。
マイが彼女だって。
たとえ、性別が一緒であっても。
「頑張るから、マイ」
マイは、ゆっくりと大学へ進学した。
いまはしっかり休もう。
そうして眠剤を飲んで寝た。
俺は、寝ているとき、暗闇が襲った。
その暗闇の中心、なにも見えない。
「なんだこれ」
三週間たっても、なんにも変わらない。
「そうか、俺死んだのかな」
焦燥感のような焦りが出てきた。
それが現実。
俺はどうすることもできなくなった。
だんだんと、恐怖に変わっていく。
俺はどうしたらいいのかもわからない。
でも、でも、でも、マイがいるんだ。
俺はこう叫んだ。
「我は、光だ」
その言葉で、後ろから、おびただしいほどの、光が、人々の光がわかった。
目覚めると、病室だった。
いつのまにか、そのことがどうでもいいくらいになった。
俺をかばって死んだ親父のことをおもいだす。
「親父、元気」
なんにも、反応がない。
しかし、意思を感じる。
『大丈夫だよ』
俺は、そうわかったから、コーヒーを飲みに行った。
目の前が、新鮮になっていくことがわかる。
そのことがどんなにどうしようもない。
マイ、マイ。
「もう少しだな」
マイの意思を感じる。
『タスク、さみしいよ』
その通りだ。
いつまでここに、いるつもりなんだろうか。
俺は、俺は。
「俺は現実に戻る」
そういって、いつものメニューを決める。
腕立て伏せをやっていた。
百回、サンセット。
すると、先生が朝からやってきた。
「おはよう、調子はどうかね」
能力者機関の最高峰の人間だ。
彼は、ウクライナ戦争で終わっていく人生たちを見ていた。
でも俺の勇気だけで、勇気だけで。
世界が変わっていくというのならば。
「委員長、俺はまだ大丈夫だよ」
自分が不死身ということで精神がやんでいくということもわかっている。
「どうかね、次なる戦場は」
興味本位で聞いていた。
「日本ですかね」
「大阪さ」
俺は笑っていた。
救える命があるというのならば……
「行きます! 残りの世界組織と戦います」
「いいね、敵は洗脳が得意であると」
「はい」
二人は笑いあう。
もう争いのない世界かもしれない。
しかし、その思惑は、間違っていた。
「人が死んでいく、怪死病というものをばらまいているらしい」
「どんな症状なんですか」
「納得すればそうなるらしいね」
先生の目は死んでいた。
じゃあ、じゃあ、先生が言うとなれば。
委員長先生が言うとなれば。
「行きます。僕が行きます」
「切符と、飛行機代は任せなさい」
先生は涙を流していた。
俺は世界がどんなに脆いのかもわかっている。
それでも、俺は戦う。
そうだ。
マイが、マイが待っているんだ。
「先生、彼女に電話をしてもいいでしょうか」
食事が運ばれてくる。
「いいよ」
先生はこの病棟を歩いて出ていった。
俺は言うことが決まらない。
「電話をかけてもいいでしょうか」
「わかった、この世界のことよろしくね」
「はい」
電話を任される。
マイは、この下の病棟で頑張っている。
数回鳴った。
マイの声が聞こえる。
「また、戦いが始まる」
数秒、マイの頭が真っ白になったのかもしれない。
俺はゆっくりと続きを始める。
「マイ、俺は戦わなければならない」
そのことを、言うのが本当はつらい。
でも。
「うん、わかったタスクのことだもんね」
マイは泣いていた。
俺たちはこういう定めだ。
マイはスタッフとして働いている。
じゃあ、この後は。
「マイはあの家で待っている」
「うん、俺は大丈夫」
何度も交わした会話。
「好きだよマイ」
「うん、私も」
二人は会いたいと俺もわかっている。
それでも、最後にこう伝えた。
「すべてが終わったら、また一緒に暮らそう」
「うん、喧嘩別れしたことは内緒にしてもらうね」
彼女は希望財閥のお嬢様である。
そんな彼女と周りのことはいいのかもしれない。
お互い、25歳だ。
職がある。
「大阪を救いにいくんだ」
「そうなんだ、じゃあ待ってるからね」
彼女がいたことなんてわからない。
でも看護師とバンドマンをしている彼女を知っている。
それがそんな関係だ。
「大阪のこと話してね」
「うん」
「最後に言いたいことがあるんだ」
「何?」
「帰ったら結婚しよう」
そうだった、結婚式がまだやっていない。
俺はそうだとわかった。
「じゃあ」
「うん」
「好きだよ」
「うん、私も」
「切るね」
思わず笑ってしまう。
彼女もつられて笑ってしまう。
「ありがとう、マイ、本当に愛している」
切った。
先生が入ってきた。
目には涙を流している。
「大阪にはね、誰にも治療できない病気が流行っている」
「アンノーンがばらまいていると、情報が入ってきます」
「その目、すごいね」
先生が泣いていた。
俺はどうすることもできないとわかっている。
神祖、ダンク、スタークが目覚めたという話らしい。
「ファイルはまとめておく」
「はい、先生」
俺は聞くようにこう言った。
「本当に、頑張って俺を治したんですね」
精神面のことだ。
治っているのかわからない先生の目つきになっていく。
「そうだね、治っているね」
投薬治療はかえってよくないとわかるのがPTSD。
「そうだね、ありがとう先生」
俺は手を触る。
そうだ、俺は……
……戦える。
「せっかくだから、ご飯を食べていき」
先生は白髪を触りながら、丁寧にそうしてくれといった。
わかった俺は、さっそく病棟の中に入っていく。
実は先生は、本当にどうなっていくかもわかっていた。
そんな先生だ。
すべての神祖は病気からなるものだと。
先生は根本的に、そういう人を救いたかったのかもしれない。
現代魔術。
それがどんなに優れているか。
二人がわかった。
パンがおいしい。
デザートもおいしい。
戦闘用のレーションがどんなにまずかったのかわかる。
簡易的な、ご飯もかなりまずかったとわかる。
データが目のインターフェイスに送られてきた。
大阪は戦場となっているらしい。
知恵を持った、ゾンビの群れと化している。
そんな光景を眺めながら、俺はもくもくとご飯を食べている。
吐き気もしない。
そんな自分のサガだ。
どうしようもないのが人生だろう。
そうして、押し込んで、パンを食べ終わった。
牛乳を飲む。
本当に、マイの家の料理がおいしかったのかもしれない。
大好きな彼女のために、その彼女の好きな世界のために。
「行くか」
時代は進む。
いろんな人間がいる。
そんな人間が時代を動かしているのは、感情かもしれない。
そんなことがうれしかった。
ほかの場所でもそうなっているのかもしれない。
あとほかのことも思い出した。
大阪で俺は生まれた。
大阪でこの体を作ってもらった。
大阪でパパという親父と出会った。
そこはすごいところだ。
数年前とは違うのかもしれない。
でも、人というものがあふれているのも大阪だ。
だから救いたい。
いくら能力者機関がなくなったとしても……
情があるんだ。
そんな自分が大好きだ。
そう思って、最後の朝食を食べ終わった。
大好きなマイの朝のお吸い物だとわかる。
それがこの病院の結束力。
もう、若者は数人足らず。
老若男女忙しい病院だ。
俺は立ち上がった。
だからみんなも、とは言えない。
最後の精神病院だともわかっている。
そんな世界だ。
実はみんな、能力を行使して戦ってきた、機関の人間たちだ。
結果はどうあれ。
俺は最後まで、戦う。
マイが待っているんだ。
そういえば、戦う時はいつもこんなセリフばかりを吐いていた気がする。
ちょうど朝焼けがきれいだとわかった。
俺は天国にいたのかもしれない。
これからは地獄なのかもしれない。
親父。
ありがとう、俺を救ってくれて。
そう頭の中でめぐる。
パパも俺に命を与えてくれてありがとう。
神祖、ダンク・スタークを叩きのめしにいく。
俺の生まれた故郷で!
「やるか」
+画像閲覧ページURL+
https://46517.mitemin.net/i940965/