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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

霧の出てる日は外に出てはいけない

作者: 霧山はるな



【起】


『霧の出てる日に外に出てはいけない』

この村にはそんな掟がある。

お腹を出して寝ると雷様にへそを取られるとか、食べてすぐ寝ると牛になるとか、そんなレベルのお年寄りから子供までみんなが知っているこの村のルールだ。


実際に霧の出ている日には、大人たちが絶対に僕たち子どもを家の中に押し込め、外に出ることは叶わない。

だから本当に外に出るとどうなるのか、そんなことは僕たち子どもはだれも知らない。


何が起こるのかもわからない。

本当に何かが起こるのかどうかも。


大人たちだけが知っている……らしい。


どうせくだらない迷信って奴だろう。

僕はそう思っている。


「大人たちは僕たち子どもに隠し事ばっかりだからなぁ」


きっと僕たちに内緒で楽しいことでもしてるんだろう。

都合のいい時ばかりお手伝いだなんだとこき使って、困ったときは僕たちを弱いもの扱い、できないやつ扱いする。


大人って、そういうものだ。


ミーンミンミンミン



「あっつ~」


ミーンミンミンミン

セミさんたちは今日も元気だ。

そんなセミの喧騒を割くかのように、一つの影が差す。


「たっくん! あ~そびましょ」


「さえちゃん!」


ふと顔を上げてみてみると、隣の家に住んでいる紗枝ちゃんが遊びに来ていた。

隣の家とはいっても、ここは超ド田舎なので子供の足で徒歩10分くらい離れてるんだけどね。


「たっくん! これあげる」


「ああ、いつものね、お構いなく~」


僕たちは大人たちの真似をして、互いの家に行くときは菓子折りとは名ばかりの飴玉を渡すのが暗黙の了解になっていた。


「って、この飴ハッカじゃん」


「だって紗枝ハッカ嫌いなんだもん!」


「嫌いなものを人にあげないでよっ」


「あははは~ごめ~ん」


紗枝ちゃんは無邪気な笑顔で誤魔化す。

まったくもうしょうがないなぁ。


紗枝ちゃんはいつもこんな調子で色々と適当というかお調子者なんだ。

まあ、もう慣れたけどね。


貰った飴はいつもその場で舐めてしまうのだけど、僕もハッカはあまり得意ではなかったので、今回はポッケにしまっておいた。

僕もいつかおいしくハッカを食べられるようになる時が来るだろう。


「あっそういえば、今日は何しに来たの?」


「ないしょ~」


「なんでだよ」


「ついてくれば分かるよっ!」


とだけ言って紗枝ちゃんは山のほうに向かって歩き出す。


ぶっちゃけ熱いからあんまり外歩きたくないんだけどな~と思いながら紗枝ちゃんのほうを見ると、紗枝ちゃんが「早く早く」と手をこまねいていた。


仕方ないので麦わら帽子と、お気に入りの水筒をもって紗枝ちゃんについていくことにした。



今日は空がどこまでも澄んで、日差しがチクチクと肌を刺してくるような暑い日だった。



【承】


「たっくん! こっちこっち~!!」


「待ってよ紗枝ちゃん」


「えへへ~冷たくて気持ち~よ!」


「うわっほんとに冷たっ」


紗枝ちゃんに連れられてきたのは山の中腹にある小さな川だった。沢ってやつなのかも?

この炎天下の中山道を歩かされたので余計に川の水が冷たくて感じられて気持ちいい。


「あはは~ここカニもいる~」


「紗枝ちゃん。あんまり深いところに行っちゃだめだよっ」


「は~い」


今日は大人がいない分。僕がしっかりしないと。

二人だけで山に入るのはたぶんあまり褒められたことじゃないと思う。でも、大人たちだって僕たちに隠れて晩酌?とかいうのしたり、おいしいものを食べたりしてるんだから、これくらいは許されるんじゃないかな? うん、きっとそうだ。


「う~ん。虫かごを持ってくれば良かったかもね」


そうすれば捕まえたカニとか虫とかを持って帰って近所のおじいちゃんたちに自慢できたかもしれないのに。


「たっくんの水筒に入れる?」


「紗枝はなんてことを言うんだ! お気に入りの水筒をカニや虫だらけにされてたまるか!」


「ええ~ざんね~ん」


紗枝ちゃんはすねたように口をとんがらせているが、次の瞬間には川の中に魚を見つけてニコニコと楽しそうに笑っている。

こういうの、天真爛漫っていうんだろうなぁ。


「一応、紗枝ちゃんのほうがお姉ちゃんのはずなんだけどなぁ」


「ん? たっくん何か言った?」


「い~や、なんでも! そんなことより、あそこの岩陰にアメンボいるよ」


「あ、ほんとだ!」


迷いなくアメンボに飛びつく姿はまるでカエル。

瞬発力だけなら間違いなくナンバーワン。大人たちにだって負けなそうだ。


「そういえばアメンボって本当に飴みたいに甘いのかな~」


「え? 知らないけど」


何その話? 有名なの?


「……えっとどうなんだろ、っていうかアメンボって食べられるのかな?」


「ん、なんか甘いにおいがするかも~むしゃむしゃ」


捕まえたアメンボを迷いなく口の中に放り込む小学4年生。こいつ、前世はきっとカエルだったに違いない。


「うげ~。まずそっ」


「ん~? なんかあんまり味はしない~でも足と羽? が邪魔で食べにくいかも、ぺっぺっ」


バラバラになったアメンボの残骸は川に流されていった。

小学生って、残酷だ。


「ちゃんと口濯いでね」


「あ~い。ぐちゅぐちゅ、ぺっ」


川の水で口をゆすぐ紗枝ちゃん。

ここら辺はめっちゃ山の中で水がきれいだからいいけど、いつかおなか壊しそうだな~。

紗枝ちゃんももう小学生高学年なんだし、おしとやかさ? っていうものを身に着けたほうがいいかもね。


【転】


「……」ブルッ


ずっと水につかっていて体が冷えたのか、寒気がした。

っていうか、いつの間にかあたりが少し暗くなってる?


それに、さっきまであれほど煩わしかったはずのセミの声が聞こえない。


「たっくん! 走って!!」


「ッ紗枝ちゃん!?」


紗枝ちゃんは振り返ることもなく、僕の手を強く引きながら目の前を走る。

僕も転びそうになりながら紗枝ちゃんの後をついていくが_______そこで異変に気付く。


「き、霧だ……!」


「たっくん! もっと早く!」


紗枝ちゃんはさっきまでの能天気な顔は見る影もなく、今は真剣な表情で息を切らしながら走る。

しかし、僕らが遊びに夢中で気づかない間に、霧はもう目前まで迫ってきていた。


あたりを軽く見回すと、森の木々の奥には白い霧が立ち込めている。

僕らも全速力で走ってはいるが、明らかに霧の速度のほうが速い。このままでは僕たちは霧に飲み込まれてしまう。


それに。


「ダメだ。霧が……村への道をふさいでる」


山を下る道は既に霧によってふさがれていた。

僕たちに残される道は……。


「どうしよう、たっくん。登るしかないの?」


山を登る。

言うは易し行うは難し、ここから先の道には獣道すらなく、完全に森の中に入る道しか残されてはいない。

遭難のリスクも高く、かなりの危険が伴う。


しかし、『霧の出ている日には外に出てはいけない』。あの言葉が警鐘のように頭の中に響き続ける。


「くそ、こんな時どうすれば……」


「あ、お化け屋敷ッ!」


「え? 紗枝ちゃん、こんな時に何を言ってるのさ」


「お化け屋敷だよっ。この山の真ん中くらいに確か」


「それだ!」


僕も紗枝ちゃんに言われて思い出した。この川を少しだけ上ったところに、さびれた洋館がある。

ツタも生えているし、しばらくはだれも住んでいないからか、タヌキやイノシシなんかの住処になっているが、古びた建物があるんだった。


一応は雨風もしのげるし、このまま霧に飲まれるよりはマシ、かな。


「仕方ない。あの洋館に行こう! 幸いここからならすぐだ」


「うんっ!」


僕たちは草をかき分けながら森の中の道を進んでいくと、あっという間に目的の洋館につく。


「よかった。ドアも壊れてる」


これなら中に入れる。


「……うん。そ、そうだね」


「紗枝ちゃん?」


「う、うん、ななななにかな?」


「もしかしてだけど、怖いの?」


霧も出てあたりも暗くなっているし、建物の中まで雑草が生え放題で、据えた臭いもする。

紗枝ちゃんの言うとおり、すごくお化け屋敷っぽい感じだ。


「べべべべつにこ、怖くなんかないもん!」


「そんなに涙目になりながら言っても説得力ないけど……うん。まあ、はぐれると困るし、手を繋ぎながら中に入ろうか」


「う、うん」


もたもたしてると霧が入ってきそうだし、いつまでも玄関周辺でのんびりしているわけにはいかないので、紗枝ちゃんの手を取って中に入り扉を閉める。


「壊れてて半開きって感じだし、どこかちゃんと扉の閉まる部屋お探したほうがいいかもね」


「しょ、しょうだにぇ」


あ、この子ダメそう。

生まれたての小鹿みたいにプルプル震えてる! そういえば怖い話とか苦手だったかも。


僕も別に怖くないわけじゃないけど、状況が状況だし、頑張らなくちゃ。


ひとまず中央の廊下を進んでいくと、右手にいくつか扉が見えた。


「紗枝ちゃん。どれかに入って霧をやり過ごそう」


「う、うんぅ」


意を決して一つ目おドアノブに手をかけるが……。


「鍵が、閉まってる」


次の扉も、また次の扉も。

のんびりしてると霧が入ってきちゃう。早く避難できる部屋を見つけないと。


右手の最後の扉には……先客がいた。


「ヒィッ」


「イノシシだ!」


部屋の中の窓が割れていて、そこから入ったんだろうか、イノシシの親子が我が物顔で居座っていた。

ブルルッルッ。威嚇するようにイノシシが息を吐く。

たかがイノシシと侮るなかれ、田舎じゃ大の大人だってイノシシに襲われて大けがをすることなんてよくあること。野生動物というのはすごく危険なんだ。


ましてや僕たちはまだ小学生の子供、刺激しないようにイノシシから目を離さないように後ろに下がる。


パキッ


紗枝ちゃんが怖がって目をつぶりながら後退したせいで、枝を踏んでしまったみたい。


それが引き金になったのか、イノシシがすごい勢いで突進してくる。


「うわぁ!!」


「キャッ!!?」


僕と紗枝ちゃんはびっくりして転んだことで幸い突進を回避できたけど、すぐさま再度突進をしてきそうなイノシシを見て、紗枝ちゃんが走り出してしまう。


すぐさま僕も後を追うけど______。


「紗枝ちゃん!!? そっちは!!」


「いやぁああああ!!」


前もまともに水に進んでいた紗枝ちゃんは、屋敷の左手奥にある扉にぶつかってしまう。

ギィイイ……バタンッ。

ガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!


その勢いでその扉が外れ、扉はすごい音を立てて階段を滑り降りていった。

紗枝ちゃんがイノシシアタック(突進)で破壊したドアの先には、薄暗い地下が広がっていた。


「いったぁあ……ん~?」


「紗枝ちゃん。大丈夫?」


「ん。平気……いたぃ」


「痛い痛いの飛んでけ~、ちょっと腫れてるけど、たぶん大丈夫」


「ん。紗枝強い子……大丈夫」


めっちゃ涙目だけどね。


「紗枝ちゃん、立てる?」


「うん。たてる!」


「じゃあ行こう」


「えっ? 行くってどこに!? もしかしてこの下に行くの!?」


「うん。ここに入るしかない」


「やだぁ……暗いし、蜘蛛の巣張ってるし、なんかなんかだし、こわい」


なんかなんか? 結構余裕なのかこの子?


「でも紗枝ちゃん。たぶんここに行くしかないんだ。だって______もう霧がすぐそこまで来てる」


「ピィイイッッ」


僕たちがイノシシと戯れている間に、壊れた扉の隙間から霧が入ってきて、すぐ後ろの腰くらいの高さまで、霧が立ち込めている。

これはもう、たぶん戻ることはできない。


「い、行こう」


「ゃだぁああああ~」


と駄々をこねる紗枝ちゃんの手を引っ張って、無理やり階段の下に降りていく。

地下に何があるのかは僕も知らない。

懐中電灯や明かりになるようなものなんて持ってないから、今暗い中を進むのは僕だって怖い。


でも、『霧』の中に入るのはダメだ。

本能的に入ってはいけない、そんな気がするんだ。


だから、進むしかない。


「ゆっくり、ゆっくりだ……うわぁっ!!?」


「たっくんッッ!!?」


先ほど落ちていった扉につまずいてこけてしまったみたい。

でもおかげで、一番下についた。


「大丈夫、ちょっとこけただけ」


「ほっ……よかったぁ」


「小さな部屋……物置小屋だったのかな?」


暗くて全然見えないけど、なんとなく物が多いような気がする。

それに……。


「お、お水の音? たっくん、水筒からお水こぼれてる?」


「いや、触ってみたけど、水筒は壊れてないみたい」


お気に入りの水筒が壊れていなくてよかった。

きっと地下で古い建物だし、地下水とか雨水とかがたまっていたのかも。


それになんか臭い。ハエもめっちゃ飛んでるし。


「……たっくぅん、怖いよぉ」


「僕もだよ……あ、そうだ。紗枝ちゃんアレかしてくれない?」


「あれ?」


「紗枝ちゃんがいつも持ち歩いてる、ディズ〇ーランドの光るペンダント!」


「あ、うん。わかったぁ」


紗枝ちゃんの最近のお気に入りのペンダント。

両親と久しぶりに都会に遊びに行ったときに買ってきたんだと自慢していたやつだ。


スイッチを入れると光るので、ライトの代わりに使えるんじゃないかと思いついた。

僕、もしかしたら天才かも。


なんて自画自賛しながら紗枝ちゃんの首にかけているネズミ型のクリスタルのペンダントのスイッチを入れると、ピンク色の淡い光が地下を照らす。

ふと入口のほうを見ると、空気の流れの関係なのか霧は地下には流れ込んで来ていないようだったので、一安心する。


そんな風に安心したのもつかの間。

紗枝ちゃんの叫び声に意識を地下室の中のほうに戻される。


「いやぁああああああああああ!!!!!」


「紗枝ちゃんッ!? なにが……え、何、これ?」


僕たちの前には、無数に積み重ねられた赤い肉と黒ずんだ何かと白い骨の塊だった。

その周りをぷんぷんとハエが飛び交い、赤い肉の中からはウジ虫が無数に這い回っていた。


「うえぇええええええええッ、おえっ!!」


紗枝ちゃんは恐怖のあまり吐いてしまう。

僕だって吐きそうになるのを何とかこらえているような状態だ。


「も、もしかしてこれ、全部、人間……?」


奥のほうには頭蓋骨らしきものもある。

置いてある瓶の中には謎の液体の中に、目玉やら臓物のようなものが入っている。


水音の正体も、地下水なんかじゃなく、おびただしい量の血?


僕は最初、この地下には物が多いと思っていた。

でも、その『モノ』は物じゃなく、かつて『人間だったモノ』だったみたいだ。

この地下にはいたるところに刃物や人間だったモノの残骸、瓶詰めされた何かが所せましと転がっていた。そして、その上を黒い気色の悪い虫たちがはい回っていた。


「あ、あ……ああ」


僕はあまりのことに立ち尽くしてしまう。


「紗枝、ちゃん……ダメ、だ」


「……た、っくん?」


「ここにいちゃ、ダメだ!」


霧の中に入ってはいけない? 本能的に危険を感じてる? 知ったことか!?

そんなものよりも、今まさに、目の前に、入ってはいけない場所がある。その中にいる。


紗枝ちゃんの手を取って、霧に向かって駆け出す。


「大丈夫、ここまでの道なら覚えてる!」


それに、霧の中で視界が悪いとはいえ、10m先くらいは見える程度の霧でしかない。

このくらいなら、道なりに進んでいけば迷子になるほどじゃない。


もはやさっきまで、霧の何を怖がっていたのかわからない。

それくらい今、僕は万能感に満ちている。


「はぁ……はぁ……はぁ」


大人たちの言う事なんて聞かず、今みたいに霧の中を普通に帰ればよかった。

初めからそうしていたら、こんな目には合わなかったのに!


くそっ、大人なんて、大嫌いだ。


そんなくだらないことを考えながら、僕は村までの道を駆け下りた。

後ろを振り返ると、先ほどのおぞましい光景が頭をよぎりそうで、怖くて振り返ることはできなかった。


でも、紗枝ちゃんの手だけは離さずに、強く握りしめて山を駆け下りていった。


そして、僕たちが村の入り口についたころ、唐突に霧が晴れ始め、「ようこそ霧の出る村へ」と書いてある入り口の看板のところで、紗枝ちゃんのお父さんが立っていた。


「やっぱり、霧の中外に出ていたのかッ!?」


いつも優しい紗枝ちゃんのお父さんも、しきたりを守らずに外に出たことに対して怒っているらしい。

たまらず僕も言い返す!


「霧が何だ! そんなことよりも僕たちはもっと怖いものを見たんだ! ねぇ、紗枝ちゃん!」


同意を得ようと紗枝ちゃんのほうを振り返る。


紗枝……ちゃん?


僕が手に握りしめていたものは、たしかに紗枝ちゃんの手で間違いなかった。


でも。


「……え?」


でも。

その手首から先には……何もついてはいなかった。

細いわりにたくましい紗枝ちゃんの腕も、あの天真爛漫の顔も、黒くてきれいな髪も……くりっとして大きな瞳も。


何もなかった。


ただただ、僕の降りてきた道には、紗枝ちゃんのものと思われる血が道しるべのように森の中に続いているだけだった。


「さ、紗枝……ちゃん?」


「いいんだ、いいんだ、タクミ。霧の中からお前が無事に帰ってきただけでも良かった。よかったんだ。そういう、ことにしようッ!!」


紗枝ちゃんのお父さんは僕を抱きしめ、静かに涙を流していた。


「紗枝……ちゃん?」


僕もまた、手の中に残っている紗枝ちゃんの『手』を握りしめて涙が流れる。

なんで、どうして? いつ、から?


疑問は尽きない、僕がどこで間違ってしまったのか、何を間違ってしまったのかもよくわからない。


でも一つだけ分かったことがある。


それは_____【霧の出ている日は外に出てはいけない】




あとがき


後日、霧が完全に晴れたころに村の大人たちが総出で紗枝ちゃんの捜索をしたが、紗枝ちゃんらしき血の跡も忽然と川のあたりで途切れ、遺体すら回収することはできなかったという。

僕の話を聞いた大人たちは、あの山の洋館の地下室も探したらしいが、あの屋敷には地下室なんてものはなく、人間の死体や血肉なんてものもなかったと説明を受けた。

ただ、洋館の廊下には、紗枝ちゃんのお気に入りのあのペンダントだけが落ちていた。


あれから8年たって、僕も高校生になった。あれからも何度も洋館に訪れたり、森の中を捜しまわってみたけど、何も手掛かりは見つからなかった。


時がたちすぎて僕にはもう、あの時のことがどこまでが現実で、どこまでが夢だったのかも定かではない。

過去のことは忘れて前に進むようにみんなが言う。


でも、そんなことはできない。

僕の中であの話は終わってないんだから。


「でももし今もまだ紗枝ちゃんが生きていたとしても、僕、いや、私だってわからないかもね」


あの頃より髪を伸ばした。身なりにも気を遣うようにした。胸も、体もあのころとは比べ物にならないくらい成長した。

村の男の子に何度も告白されるようにもなった。村1番の美人だ、なんていう人もいる。


でも、私は紗枝ちゃんを見つけるまで、自分の人生を生きることはできない。どうしてもあの時のけじめをつけたい。

紗枝ちゃんのお墓や仏壇に手を合わせるたびに思うんだ。

私だけがのうのうと生きてていいのかって。


だから今度は霧の出る日に洋館に行ってみようと思う。

もし紗枝ちゃんの手がかりがあるとすれば、きっとこれしかない、と思う。


「絶対になにがあっても紗枝ちゃんのことを見つける」


そして、あの事件を本当の意味で終わりにするんだ。

私はあの時のニッカ味の飴玉を見つめながら決意を新たにした。

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