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第三話 友人

「人間は簡単に逆らえない感情を持つものです。好きになってしまったのは、致し方のないことですよ」


「そうか……」


 胸が――張り裂けそうだ。


 マスクをしているから気付かれないだろうが、私は唇をキツく噛み締めていた。彼が話している間に呼吸を整えなければ、声の震えが伝わってしまう。


「婚約解消を言い渡す際は、なるべく傷付かないようにしたいと思うんだが……アイシャは多分、私に興味はないと踏んでいる」


「……ど、どうして……そう感じるのですか?」


「元々は政略的に決められた婚約であってお互いの意思じゃない。学園でも接する機会が少なく、彼女の気持ちも読みづらかった。恐らく他に好きな男がいるのだろう」


「そんなことはなっ……!」


 突然取り乱すような言い草にレイス様が「ん?」と反応した。


「いえ……何でもございません」


 ダメだ。上手く平常心を取り繕うことが出来ない。


「あの、アイシャ様に……直接お気持ちを尋ねられてはいかがでしょうか?」


「その必要はないだろう。相談したいと言っといてなんだが、もう俺の中であらかた答えは出ている」


 私と別れて、オリヴィアと結ばれたいと言いたいのね――。


 確かに“相談”とは、人に話す前にほとんどが自決してしまった状態である。

 大体の人が自分が出した答えに対し、誰かに後押しして欲しくて相談という名目で話を持ちかける。実際、過去に色んな人の相談を受けてきたが、最終的には私の助言と反対方向へ進む人がそれなりにいた。


 それを意識するようになってから、私は相談相手の本心を読み取り、賛同することを心掛けてきた。そういった面が評価されてきたんだと自負している――。


 では、今回のレイス様の件についてはどうだろうか。



 無理……。



 心の底から賛同したくない。


 オリヴィアなんかに……レイス様を奪われたくない。


 今、彼の目の前でマスクを外して正体をバラすわけにもいかない。偽りの姿で彼と過ごしてきた時間が長過ぎた。なんとか今は“友人”として彼を説得したい。


 でも、人は本能で成り行きを決定するとテコでも動かないと私は知っている――それでも。


「言葉を交わさなければ、分からないこともあります。話していく中で、相手の本音が隠されているのに気付くのはよくあることです」


 少しの間を置いたレイス様は、訝しんだ表情で口を開いた。


「……どうした? 今日は妙に突つくじゃないか」


「その……友人として意見させて頂いてるだけです」


「なるほど、そういうことか。つまり友人としての君の意見は、婚約解消を反対しているのか?」


「いえ、反対というワケではなく……もう少し吟味してからでも遅くはないのかなと。感情が先行すると周りが見えなくなったりしますから」


 何マトモなこと言ってんのよ。どうして素直に『反対です』って言えないのよ私の馬鹿!


「そうだな……もう一度、頭を冷やしてよく考えておこう」


 こうして、終始焦燥感に駆られた時間はあっという間に過ぎ、レイス様は小屋を後にした――。

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