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第十話 願い

 眩しいほど日差しが降り注ぐ、雲ひとつない晴天の下。


 私は辺境伯の元へ挨拶に向かうため、駅で汽車を待っていた。


 同行する侍女の中に、一番親しかった侍女長はいない。私が『占い師』として活動していたことを唯一知っている彼女は、私に同行するフリをし、店の後片付けに行ってくれている。


 「自分で片付けるからいい」と反対しても、侍女長は「これ以上虚しくなることを、お嬢様にさせたくない」と気を遣ってくれた――。


 汽車を待つ間は静寂な空気に包まれ、誰一人口を開く者はいない。いや、私の存在が……そうさせているんだ。


 遠くから煙が近づいてくるのが見える。


 汽車が目の前を通過し、ブレーキ音を響かせながら徐々に速度を落としていく。「お足元にお気をつけ下さい」と、侍女に手を引かれながら汽車に乗り込む。


 最後尾で窓際の席に座り込み、ふと空を眺めた。すると、レイス様から婚約解消を言い渡された丘が目に入ってしまった。


『アイシャ……俺との婚約を……解消させて欲しい』


 瞬時に蘇ったレイス様の言葉で、心臓を切り裂かれるような痛みに襲われる。


 傷付きたくないから、感情を……心を持たないようにしてきたのに。占い師としてお客様から『ありがとう』を言われるだけで充分だったのに。


 レイス様の素顔を知って、灰色の世界が鮮やかな色彩を取り戻したような感覚になった。しかし、それは儚い夢となって散った。目が覚めるとまた無機質な世界に戻っている。


 これが現実。


 多くの人の悩みは、根本を突き詰めると大体は『自分が他人からどう思われているのか不安』というもの。


 カッコいい、キレイ、優しい、面白い……。


 ダサい、ブサイク、捻くれている、つまらない……。


 好かれたい、嫌われたくない、頼りにされたい、認められたい……。


 一人で生きていけるなら気にしなくてもいい。でも社会に出ればどうしても他人と関わらなければならず、人間関係の不安からは逃げられない。


 戦争が盛んだった遥か昔は『生きていけるのか、食べていけるのか』という、感情よりも“生存をかけた苦しい時代”だった。当時は皆で協力し合い、余計な悩みなんてなかったという。


 それから数百年が経ち。


 世界の情勢が安定して人工が増えるにつれ、人々の悩みは多様化すると共に、より個人の“幸せ”を求めるようになっていった。


 私はそんな時代の世界に生を受けた。


 両親から「好かれたい、甘えたい」と願ったが……それは叶わなかった。


 押し寄せる孤独に打ち勝つため、感情を持たないようにして自分の存在を世界から――隔離した。


 それでも心のどこかで“生きている価値”を見出したくて、占い師の活動をしてきた。現実が思い通りにいかないのは、十分理解してるつもり。感情を殺せば楽になれることも。



 なのに……どうして?



 どうしてあの人の顔を忘れようとすればするほど、より鮮明に思い出してしまうの?


 頭ではわかってるのに、心が従ってくれない。


 “誰かの大きな手”によって、胸が押しつぶされそう。



 会いたい。



 会いたいよ――。


「――嬢様? お嬢様……どうかされました?」


 向かいに座る侍女の声がけで我に帰った私は、小さく首を横に振った。


「……ううん、ごめんなさい。少し気分が優れなくて。ちょっと風に当たってくるわ」


「そうですか……間も無く出発致しますので、お気を付け下さい」


「ありがとう」


 私はゆっくり立ち上がり、扉を開けて展望デッキに出た。


 冷たい黒塗りの手摺りに寄りかかり、長く繋がれた線路を見下ろす。父が携わっていた鉄道計画で敷かれた線路によって、私は皆から離れた遠い地に行く。


 自分では無表情だと思っていても、侍女に心配されるほど落ち込んで見えたのかな。何とも虚しさだけが体中に染み渡る。


 しばらく呆然としていたら、前方で汽笛の音が鳴り響いた。それからゆっくり汽車が動き出すと、再び侍女の声が聞こえた。


「お嬢様、危ないですので中へお戻り下さい。ご気分はいかがですか?」


「ええ……もう大丈夫よ、今行くわ」


 私のいる展望車両が駅を通り過ぎ、中へ戻るため振り返ろうとした、その時――誰かが駅のホームから飛び降りたのが見えた。


 乗車予定してた汽車の出発に、間に合わなかったのだろうか。


「お嬢様、お早く」


「ええ……でも」

 

 もう一度飛び降りた人物をよく見てみると、こちらに向かって走ってきている。まぁ、なんて危険なことを。


 その人は男性で乱れた白いタキシードを着ており、何やら赤い花束を持っていた。


 待って。


 あれは……まさか。



「アイシャーーーーー!!」



 レイス……様? ――。

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