嗅ぐや姫
遠い、遠い昔のお話。
……いや、どれくらい昔かは分からないが、匂いに敏感でどんな物でも嗅ぐ姫が居ったそうな。
その名も『嗅ぐや姫』。
この話では、そんな嗅ぐや姫の為に周りが奮闘する (?) お話である。
▪▪▪
ここは都から少し離れた場所にある、宮廷に献上する竹細工を作る名の通った名家がありました。
とある昼下がりの事、そこに居候している嗅ぐや姫はそこの主人を呼んでいました。
「爺や!爺は何処に居る!」
「うるさいわ、どうしたんじゃ」
主人が作業場から、居間に顔を出します。
「お腹が空きましたのよ!お昼はまだかしら」
嗅ぐや姫はそう言います。
「居候のクセに、生意気な……」
主人がそう呟くと、嗅ぐや姫は睨みます。
「……上質な竹、丈に見合わないこの家にありったけ渡しているのに」
「なぜそこで駄洒落を言うんじゃあ……仕方がない、婆さんに頼むか……」
主人が洗濯場に居る主人の奥さんの所に向かおうとしたら、嗅ぐや姫は止めます。
「ちょっとお待ち」
「なんじゃあ?」
主人は振り向きます。
「確か、宮廷に出入りしている料理人が居ましたでしょう?そのお方に、作らせて欲しいの」
▫▫▫
嗅ぐや姫の一言で、料理人2人が集められました。
料理場に待機するよう言われて、待っています。
「どうして、嗅ぐや姫の所に呼ばれたんだろうな」
料理人の一人、松がそう呟きます。
「どうやら、ここの奥さんの料理は匂いがつまらないから、珍しい匂いのする昼飯を食べさせろ……的な話らしい」
もう一人の料理人、梅がそう言います。
「んな無茶な要望を……」
そうこうしていると、嗅ぐや姫が料理場に顔を出します。
「御二人、集まっていますわね」
嗅ぐや姫が、そう言います。
「早速ですけれど、そなた方に『珍しい匂いの御飯』を作って欲しいの」
「は、はあ」
「見事、珍しい匂いの料理を作ってくれたら……宮廷に嫁ぎますわ!」
……その発言には、料理人達も唖然する。
「……嘘よ、嘘。そなた方の生活に困らない程度の、お金をお渡ししますわ。それでは、お待ちしていますわよ」
▫▫▫
「おい、どうする」
梅が言います。
「……珍しい匂いって要望、あまりにも大雑把すぎてなぁ」
松がそう返す。
「まずは、ここの奥さんに普段の料理を聞かんとな」
二人は、主人の奥さんを呼び止めて、事情を話します。
「あの子の無茶振り、悪いわね……それで、普段の料理は―――」
どうやら、麦飯と汁物、シンプルな野菜の漬物と日によって魚を出しているらしい。
「そうでしたか、態々ありがとうございます」
松がそう言います。
「それじゃあ、私は主人の仕事の手伝いを」
奥さんはそう言い、その場を後にしました。
「……なんか、閃いたようだが」
松の表情を見た、梅がそう言います。
「手伝ってくれ、梅。腕の見せ所、さ」
▪▪▪
約1時間後。
「うーん、お腹が空いたわ」
料理を食べる居間の方で、嗅ぐや姫はそう呟く。
「姫、料理が出来上がりました」
松の声が、襖の向こうから聞こえます。
「待っていましたわ!早く入りなさいっ」
襖が開き、二人の料理人が料理を出しました。
「………?」
嗅ぐや姫は、首を傾げます。
普段と同じ焼き魚料理にしか見えないから、です。
ですが、匂いを嗅ぐと……
「……これは、何かの果実?」
嗅ぐや姫は、そう呟きます。
「何の果実を使っているか、お分かりでしょうか」
梅が聞きます。
「……うーん」
必死に、匂いを嗅ぎます。
「……うーん、分からないわ」
ついに、嗅ぐや姫はそう言いました。
「正解は、この『柚子』と『檸檬』。とても珍しい果実で、とても酸味のある実なのです」
松がそう言い、実物を見せました。
「へえ、これが柚子と檸檬……あの、お魚食べてもよろしい?」
二人の料理人は、頷きます。
「……ほんのり酸味がありますわ。それなのに、美味しいわね」
▫▫▫
嗅ぐや姫は、出された料理をすべて食べました。
「美味しかったわ、とても良かったですわよ」
「……かなり質素な焼き魚料理でも、一手間で変わるモノなのです」
梅が、そう言います。
「そうですわっ!私を料理人に、してくださいまし!」
「「ええええっ!?」」
嗅ぐや姫は、本当に料理人の一人になったそうな。
めでたし、めでたし……?
とある会話で『嗅ぐや姫』が出たので、書いてみました。
名前のクセが強い、とどこからか突っ込まれそうですが(笑)
読んで頂き、ありがとうございました。