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楽くんはいつも楽しそう  作者: ゆず
2/2

楽と犬1

同じクラスの緑楽(みどりがく)は変わっている。

とはいっても学校での彼の評判は自分が思っているのとは正反対で、頭脳明晰容姿端麗、性格も良いと上々だ。

相変わらず男女問わず囲まれている楽を遠巻きに眺めながら、同じく隣でうっとりと彼を見つめている友人に興奮気味に肩を叩かれていた新和幸(にいわさち)はため息をついてその手を制止した。


「興奮しすぎだよ、アコちゃん」

「だってだってっ、見てよあのビジュアル! ホント神! 天使! 同じ人間なの!? って感じ!」


鈴木(すずき)アコは、その小柄な体を目一杯使っていかに彼の容姿が素晴らしいか洗脳してくる。

まあ確かに、外見は本当に素晴らしいのは否定しない。

そこらの芸能人よりもよほど造作が整っていることは、一目見れば誰であれ納得するだろう。

例え人間誰しも外見的好みがあろうと、圧倒的芸術性のある美しさには陶酔してしまうものだ。

異国の血が入っているであろう色素の薄い金糸のような真っ直ぐな髪に、日本ではあまり見られない翡翠のような鮮やかな緑色の瞳は肌の白さも相まってやけに記憶に残る。

身長こそ160cmを少し超えた幸より少し高いくらいだが、頭が小さく手足が長いのでスラリと若木のようだ。


「同じ人間かは置いといて」

「だよねだよね! やっぱ天使様だよね、人間があんな完璧な訳がない!」


当たらずとも遠からず。気付いていないわりに鋭いな、と考えながら彼女の胸元まであるみつあみを指先で掬い上げた。


「でも彼よりアコちゃんの方が可愛さでは勝ってるよ」


座っているので必然的に上目遣いで彼女を見れば、その柔らかそうな丸い頬を赤く染めた。


「はぁぁぁぁ、幸ちゃんイケメンすぎる。私の一番は幸ちゃんだよ!」


ぎゅうっと腕に抱きつかれながら、幸は小さく笑い声を上げた。









※※※


夕御飯の前に日課の犬の散歩をしながら、顔見知りの散歩友達の何人かと挨拶を交わしていく。

柴犬の雄のゲンキは犬も人間も大好きなこで、すれ違う人間全員に尻尾を振って愛想を振り撒いている。

同じく犬の散歩をしていたおばさんに可愛い可愛いと撫でてもらったせいか、二割増しにルンルンとお気に入りの土手沿いを歩いていた。


「良かったね、今日もいっぱい撫でてもらったねゲンキ」


元々劣悪な環境から救出された保護犬なのだが、悲しい過去があったことなど感じさせないほど彼は人間が大好きだ。

明るくお茶目なゲンキを迎えいれてまだ一年も経っていないが、幸にとって彼はかけがえのない家族の一員で、ゲンキを失うなど考えられないほど大切な存在だ。


「あれ、幸? と、ゲンキもいたんだ」

「楽くん」


振り向けば緑楽がそこにいた。

夕日を背後にニコニコしている彼は、相変わらず絵画の天使のように神秘的だった。


「ゲンキ久しぶり。大きくなったね」


楽に気づいたゲンキは尻尾をちぎれんばかりに振りまくりながら、へあへあと嬉しそうに舌を出しながら彼に突撃した。

なんなくゲンキを抑え込んだ彼は、ゲンキの頭をワシャワシャと勢いよく撫で回す。


「相変わらずお前は人間が好きだね。寛容というか、お人好しというべきか。ふふふ、飼い主に似たのかな」

「さぁどうかな」


綺麗に笑いながらこちらを見た彼に幸は肩を竦めた。


「顔つきもイケメンだね、これも飼い主に似たのかな」

「教室の聞いてたの?」

「耳が良いからね、聞こえるんだよ」

「地獄耳だなぁ」

「相変わらずモテモテだ」

「やめてよ、楽くんが言うと嫌味だよ」


ゲンキに頬を舐められながら、彼はわざとらしく心外だとでも言う風に眉を上げた。


「ボクは事実を言っただけだよ。君は女の子たちに大人気でしょ」

「あれは、一過性のものだよ。少し背が高くて中性的な同性に憧れているだけ」


顎先より少しだけ長い髪に、同年代の少女よりも高い身長。

外見も切れ長の目のせいか中性的に見えるようで、同性から好かれることは珍しくなかった。


「この間君に告白したコの気持ちも一過性の勘違いだと?」

「言い方に毒がありすぎる。ていうよりどうして知ってるかな」

「ボクだからね」


さも当然の摂理に疑問を持つなとでもいうような彼の態度に、確かに自然の摂理から反しているような彼に何を言っても無駄かと思い直す。


「まぁ、基本は皆宝塚見てる感覚だと思うよ。中には確かに真剣な子もいるから、否定はしないけど。私は気持ちに答えられないからね、ただ君の大切な気持ちをありがとうと言うしかできないよ」

「それは女の子だから?」

「そうだね」


幸の返答に彼は鈴の音を転がすような軽やかさで嗤った。


「君は男でもそうでしょ」

「生憎男の子に告白されたことがないからね」


意味がわからないと片眉を上げれば、楽は何かを呟いた。


「難儀なコだよ」

「何か言った?」

「ううん」

「ふぅん? まぁ、楽くんだって男女問わずモテモテでしょ」

「そうだね」

「付き合わないのは君が()()()()()()()()?」


外見的な意味ではなく、存在的な意味で。


「まさか、単に好みじゃないだけ」

「好みとかあるんだ」

「君はさ、ボクをなんだと思っているのか、本当に小一時間ほど問い質したいな」

「人間に興味ないのかと」

「ボクも男の子だからね。それに元々人間だもの」

「男の子…………」

「何か言いたそうだねぇ?」


圧のある笑顔に取り繕うように笑みを浮かべて首を振る。


「まぁ、いいや。君も一応女の子だしね、暗くなる前に帰った方がいい」


そう言ってゲンキを一撫ですると、彼は頷いた。


「やっぱりゲンキを君に預けたのは正解だったね」


そう思ってもらえたなら、きっとゲンキは他人から見ても幸せそうに見えるのだろう。

幸はそれが嬉しかった。

悲しいゲンキの過去が少しでも幸福で埋まっていってくれるなら、それだけで引きとった甲斐があったものだ。

去って行く楽の後ろ姿を見送りながら、幸はゲンキと出会った日を思い出していた。

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