歩き始める第一歩
「酔った……」
ルタは船室のベッドで寝込んでいた。
窓から差し込む日差しを、ルタは見つめる。
船が揺れるたびにめまいと吐き気がして、ルタはじっと天井を見つめる。
(揺れる場所で文字読んだからなのかな……)
波の音を聞きながらルタは首を横向け、机の上に置いた本を見つめていた。
数日後、ルタは波の音とともにウミネコの鳴き声を聞く。
ようやく回復したルタが甲板に行くと、陸が見えた。
やる気がルタの心に沸き立つ。
「終わったことは終わったこと!未来にむかって出発だ!」
船が港に到着すると、ルタは荷物をまとめていく。
「せっかくだし、使ってみようかな」
しまおうとした魔法の本を開き、ルタは魔法を唱える。
――魔導書、魔導書、魔導書よ
絆を結んで、この土地で
魔法を唱え終えると、ルタの顔が赤くなっていく。
「やっぱ恥ずかしいな……使うなら一人だけのときにしよう」
ルタは魔導書をしまうと、扉を開ける。
ちょうどほかの人たちが船を降りようとしていた。
ルタは道を譲り、その人たちの後ろを歩いていく。
「ラッキー。いいことあるじゃん」
前の人たちも新大陸で仕事を探すとの話をしていた。
下船手続き後も、ルタはそのまま歩いていく。
「次の方、どうぞ」
事務的に手続きが行われている建物に入り、ルタは順番を待つ。
自分の番になり、眼鏡をかけた受付の人に指導され、書類を記入するルタ。
書き終えて書類を提出すると、受付の人が眉をしかめる。
「この書類を持って、隣の建物にお願いしますね」
受付の人は眼鏡をかけなおし、次の人を呼ぶ。
やる気をそがれたルタは、言われたとおりに隣の建物に向かう。
「はい、成人前の就労手続きの書類承りました」
隣の建物で、手続きを終えたルタは目を丸くする。
「成人前、ですか?」
「こちらの大陸では、成人年齢は高くなっておりますので」
ルタは抗議するものの、受け付けの人はけんもほろろに聞き流す。
「場所が変われば、考え方も変わりますから」
「ひとまず、大人の人たちと一緒に活動して経験を積まれてください」
受付の人は席を立つと、ルタをロビーに案内してくれた。
ロビーには男性も女性もいて、全員がルタより体つきはしっかりとしている。
少したじろいだルタは、学生時代を思い出す。
「人数あぶれちゃったね。どうしよう」
「ふたりでやることもできるけど、どうする?」
ルタは周囲を見渡し、何かに気づいた顔をすると、再度首を横に振る。
「自分で決めて自分でやるの。私は今、一人なんだから。立派な大人なんだから!」
ルタは顔を上げ、グループに入れてもらうため、一歩踏み出す。