自分を試したくなって
「一人辞めったって本当なの、アイル君」
「うん、自主退職だよ。ルタさん」
ルタはアイルのいる机の上にお盆を持っていくと、お茶を淹れる。
「ありがとう」
お礼を言うアイルにルタは微笑むと、日差しが差し込む窓辺へと向かう。
ルタは手をかざしながらカーテンに手を伸ばす。
窓の外には先ほど辞めていった人が歩いている。
「なんで辞めたか、聞いても良い?」
「自分の力を試してみたいんだって。新天地でね」
「新天地、か」
「彼が決めたことだからね。精一杯の誠意で見送ったよ」
「そっか。寂しくなるね」
「うん。僕もちょっと考えてることがあるから」
お茶を一気に飲み干し、アイルは仕事に取り掛かる。
「アイル君、辞めるって本当?」
机を整理して荷物をまとめているアイルに、ルタは呼びかけた。
「うん。僕も自分も試してみたくなってね」
「でもアイル君は職場の中心でしょ?辞められたら――」
「大丈夫だよ、引継ぎはしてあるから」
引き留めようとするルタの声を、アイルは振り払う。
「なら……」
言いかけて、アイルは小さく首を横に振る。
「ルタさんはここに残っても良いし、新しい道を探しても良いよ」
「そんなこと急に言われても」
少し考えた後、ルタは口を開く。
「自分のペースで決めると良いよ。ルタさんが決めることだからね」
ルタはさらに考え込む。
アイルはその間に机の上はきれいに拭く。
「僕は新天地に向かうから。縁があったら、また会おうね」
机が新品さながらになると、アイルは優しくルタに話し部屋を出て行った。
「あら、アルタイスアさん。ご機嫌いかが?」
アイルが退職してから、同僚の女性が幅を利かせ始めた。
(アイル君の席に着いた人のお気に入りって噂あったよね)
「あらあらどうなさいましたの?アイルさんがいたころとは雲泥の差ですわね」
同僚の女性がルタを煽ってくる。
「やるべきことはちゃんとやってますよ」
ルタは言い返す。
「そんなの社会人として当然でしょう」
「なら、それで良いですよね」
ルタは会話を打ち切り、仕事を再開する。
「お疲れ、ルタさん」
友人が話しかけてきた。
「聞き流したほうがいいよ。あの人の話はさ」
「だけどさ、すぐアイル君出してくるんだよ。アイル君とは幼馴染なだけなのに」
「そういう人なんだよ。最近人がどんどん辞めちゃってさ。私も辞めようかな」
友人との会話が続ける中、ルタも決意する。