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学園の闇(4)攻略の終焉

 プレイヤー、ダンによる、うさぎちゃん攻略は淡々と進行する……。

 私は、ひたすら『予言の書』に記されている通り、うさぎちゃんを演じ続けた。


「月のない夜は心細いから……暗い夜道を照らす羊飼いのランタンを……」

「ここにある!」


「かの悲劇の英雄が大事な友を切ったと伝えられる、魔剣アロンダイトを……」

「これです!」


「妖精界の女王様のお茶会を彩る、麗しくも甘美なる菓子、ターキッシュ・デライト……」

「はいっ!どうぞ!!」


「……」


 やっぱ、これって恋愛じゃないよね……。


 私はモチモチした食感のやたら美味いカラフルな菓子をモグモグ頬張りながら、そう思った。


 プレイヤーは完全に、お使いロープレのムーブに徹している。

 しかも、これは最短クリアを目指すタイムアタックの勢いだ。

 恋愛特有の情緒の動きなんて欠片もない。


 彼は一体何を目指しているんだ……。


 最初はやきもきしていたバーナードも、嫉妬する余地が無さ過ぎて――

「今日のイベントでの不思議ちゃん指数は八十ってところかなー」

 ――とか、コメントした上に、撮影用魔道具を用いて私のうさぎちゃん姿を記録して、モニタールームで兄チャールズと共に鑑賞会を行っている……恥ずかしいんですけど!

「後日、父上母上にも見せる約束だ」

「やめてよぉ――!!」

 親にコスプレ姿見せるのは勘弁してください、お兄様。

 お願いします。


「それにしても、プレイヤーの気質は千差万別と言われてるけど……これは典型的な“ゲーム脳”って奴だね。この世界を現実と認識していない可能性まである。対話が通じなかった場合が厄介だな」


 この調子だと新年を迎える前に、エンディングに到達しそうだが……真意が分かるのは、その時だろう。



 例の違法薬物“アルラウネ”の売人の元締め探しは佳境に差し掛かり、バーナードとチャールズによる学園内捜査は詰めの盤面に入ったらしく、二人は手続きと根回しに奔走していた。

 その為、私はバーンの分まで購買部での業務を引き受けていて、忙しい日々を過ごしていた。

 何とか取れた休憩時間で私は学園内を歩いていると……


「ドルキャス――!うわっ――!!」


 ヒューバートの声だ!

 私は声の方へ向かうと、彼は廊下に倒れていた。

「大丈夫ですか?!」

 慌てて駆け寄ると、彼は私に縋り付いた。

「アリィさん!……ドルキャスが、アーク・デクスターに無理やり連れて行かれた!警備隊に連絡してくれ!!頼む!」

 彼はデクスターに暴行を加えられたのか、怪我をしているようだ。

「分かった!待ってって!」

 私が慌てて走り出すと、廊下の角を曲がった瞬間、誰かにぶつかった。


「きゃあ!!」

 衝撃で尻餅をついた。

「あら、ごめんあそばせ」

 私は目の前に差し出された手を掴んで起き上がると、そこに王女クリスティーンが立っていた。

「どうしましたか?アリーナ・ダール。そんなに慌てて……非常事態ですか?」

「あっ……ドルキャスが!ドルキャスさんがアーク・デクスターに攫われたんです!!」

「なんですって……?!」

 クリスティーンは素早く窓に寄って下を見下ろす。

 彼は魔導エレベータを利用したのか、ドルキャスを担いだ手下と共に既に校舎の外に脱出していた。

「急ぐ必要があるようですね」

 王女はそう言うと、窓を開け、そのまま飛び降りた。

「ええぇぇーーー!!ちょっと、ここ、四階ぃ――!!」

 私は慌てて階段を駆け下りて、外へと向かった。



 私が外に駆けつけると、クリスティーンはデクスターの手下達を叩きのめした後だった。

「観念しなさい、逃げても無駄ですよ」

 彼女はドルキャスの前に立ち、デクスターを追い詰める。

「くっ……ええーい!邪魔立てするな!いくら王族といえども、学園では規律委員に逆らった上に暴行する権利はない!!」

 どうやら、後がないことを悟った彼は逆ギレする事にしたようだ。

「無抵抗の女生徒を白昼堂々と拉致しておいて、今更何を言っているのですか。このような蛮行を良しとする学園法は存在してません」

「黙れ!この国において、貴族が平民をどう扱おうと文句は言わせん!」

「その理屈ならば、王族であるわたくしが、貴方のような愚民をどう成敗しても良いという事になりますよ?その覚悟はあるのでしょうね?」


 私は座りこんで震えているドルキャスに駆け寄り声をかけた。

「大丈夫??」

 彼女は涙目で口をパクパクしている。

 私は彼女をハグして必死に宥めた。


「それに、彼女は平民の出身ながら、宮廷魔術師であるジョン・D師とジェミニ伯爵の後援を得ております。それを理解した上で、このような事を及ぼすのならば、わたくしは貴方を国家に仇なす反逆者として裁かなければなりません」


 デクスターは王女クリスティーンから発せられる圧に怯むも青い顔で反発する。

「ふ、ふざけるな!、実権のないお飾りの王族の癖に偉そうにするな!!お、俺にだって、後ろ盾の一つや二つ――!!」


「ほう、どこの貴族が悪事の背後にいるのかね?詳しく聞かねばならないな」


 いつの間にか、チャックが警備員を率いて周囲を取り囲んでいた。


「規律委員アーク・デクスター!特待生ドルキャス・フェニックスの拉致未遂事件、並びに、違法薬物の闇取引の首謀者として連行する」


 チャックが令状を掲げて罪状を言い渡すと、彼は「ひぃ」と声を漏らす。


「既に、規律委員会の取調室にて、隠された違法薬物を押収済みだ。下部構成員からも証言も得ている。観念して同行してもらう」

 進退窮まった事を悟ったデクスターはがっくりと項垂れて、無言で警備員に連行された。



 アーク・デクスターは規律委員の立場を悪用して、孤立している大人しい平民に冤罪を擦りつけた挙句に脅迫して、薬物の売人としてコキ使っていたようだ。


 ひどい話だ。


「モニタールームからの調査で元締めが見つからなかったという事は、我々の監視範囲外で受け渡しが行われていると考えるのが妥当だ。規律委員会の取調室はその一つだ」

 バーナードの冷静な推理と地道な調査で事件は解決した。


 デクスターは大胆にも取調室で売人に指示と薬物の受け渡しをしていた。

 取調室は内側から鍵を掛ければ完全な密室で、彼は規律委員会に咎める者がいないのを良い事に好き勝手に使用していた。

 問題を認識した学園長も、今回の事件を契機に、規律委員会の実態を調べ上げ体制を整え直す事を公に約束するつもりらしい。


 それにしても……第一印象で人相が悪い人物とは思ったが、本当に悪い事をしていたとは……。


「……顔で判断していいんだー!」

「……いや、流石に不味いと思う」

「いやいや、そのくらいの意識で警戒心を抱くのが正しい。というより、男は全員悪人だとの認識でも全く構わないぞ」

「それもそうだな……」

 何、シスコン兄の狂った理論に納得してるの、バーナード君。



 しかし、それであったら、一体、ヒューバートとドルキャスの二人は何をコソコソ隠れた行動をしていたのか?


 後日、日を改めカフェテリアにて、二人に問いただしたところ……


「申し訳ない……俺が変な事を頼んだばっかりに……」

「ヒューバートさん、悪くない……!」


 どうやら彼は年末以降のイベントに備えて、ドルキャスが持っている伝統菓子の秘伝レシピを再現して一儲けしようと目論んでいたらしい。


「これから、冬至にミトラ祭に新年にユノの日と続くだろ?美味しいお菓子の需要が高まるからさ、ドルキャス秘伝のクッキーを大量に作って大儲けしようって計画だったんだ」


 この世界でも、季節イベントとなると菓子職人は稼ぎ時とばかりに様々なお菓子を大量に売り出す。

 外界と隔絶した学園では飢えた学生を中心に巨大な需要があるだろう。


「お菓子と聞いては、見て見ぬ振りはできませんね、わたくしが味見をして差し上げましょう」


 突然現れて、腰に手を当てて仁王立ちするクリスティーン。


「えっ」

「お、王女様に献上する程では無いのですが……よ、よろしければ……どうぞ……」

 ドルキャスは可愛い小袋をおずおずと差し出した。

 クリスティーンが袋を受け取って開け、中からチョコチップクッキーを取り出し、口に放り込んだ。

「……えっ……ちょ、お毒味は……?」

 二人は固唾を飲んで、王女が咀嚼する様を見守る。

 クリスティーンはごっくん、と飲み込み、カッと目を見開く。

「うむ!確かに、これは秘伝と称するのも納得の味わいです。わたくし、王女クリスティーンが太鼓判を押しましょう。この事を存分に宣伝に利用なさい」

「「えっ?!」」

「その代わり!宣伝料として、わたくしには、定期的に献上品納めなさい。いいですね?」

 彼女は微笑んで二人にウィンクする。


「は……はい!」

 ヒューバートは小声で「やった……」と呟いてガッツポーズを取る。

「良かったですね!ヒューバートさん!!」

 ドルキャスは元気を取り戻したのか、はにかみながら言う。

「あ……あの、バート……」

「……?」

「バートって呼んでよ。“ヒューバートさん”なんて呼び方、他人行儀だし……」

「えっ……」

「俺たちは、もう友達だろ。これからも……ビジネスパートナーとして末長く協力して欲しいし……だから……」

「じゃあ……あたしのことも、キャシーって……おばあちゃんは……そう呼んでた……」

 彼女の顔は真っ赤になっていた。


「愚民バートは素直でありませんね。見ていて非常にまどろっこしいです。では、わたくしの事はクリスと呼びなさい。いいですね?バート、キャシー」

 どさくさに紛れて、クリスティーンは良い感じの雰囲気な二人の間にしれっと割り込んだ。

「えー、この姫様、頭おかしいんじゃないの……不敬罪だってのに呼べるかよ……」

「えっ……えーと……クリス様……?」

 ヒューバートは呆れ気味小声で呟き、ドルキャスは首を傾げた。

「“様”は余計ですが……まぁ、致し方ないでしょう。愚民バートのそれは褒め言葉として受け取めておきます。孤高の天才とは時に愚民には理解できない存在ですから」

「何か、やべぇのに目を付けられた気がする……」

「……ふふ」


 良く分からないが、事件は大方解決したようだ。


『良かったねぇ……ああ、良かった……』

 推しキャラの尊いイベントを間近で見学できて、私個人としては大満足だ。



 今回の事件は“余程の不祥事”に相当したらしく、アーク・デクスターは無事に学園を退学処分となった。


 また、事件の悪質性を鑑みて、背後関係を調べる為に、調査機関で本格的な取り調べを受けた後に、聖教会管轄の更生施設に収容される事が決定した。


 しかし、調査機関への輸送中に覆面の武装集団による襲撃を受け、彼は行方不明となる。


 違法薬物の流通は途絶えたものの、真の黒幕の正体は不明のままで、何とも後味の悪い結末となった。



 そして、ついに……週末を迎えた、満月の夜、学園の裏庭にて……。


 プレイヤーであるダン・スターマンによる、うさぎちゃん攻略はエンディングに近づいていた。


「私……星の世界に帰らなければならないの……」


 ついに、ここまで来てしまった……。


 これが、プレイヤーへの最後の選択肢だ。


「俺も連れてってくれ!!頼む!」

 ダンは拳を握りながら、大声で言った。




「俺は……俺は、どうしても宇宙飛行士になりたいんだ――!!」




 ……えっ。


 ……そうだったの??



 その時、頭上から光り輝く物体が地上にゆっくりと降りてきた。


「おおー!!UFO!……しかも、アダムスキー型!!」


 ダンは大興奮で未確認飛行物体をキラキラした目で見ている。


 ……リーブラ機関って、どういう組織なんだろうか……。


 前世を思い出してから最近まで、このような乗り物は見たことも聞いたこともなかった。

 わたしゃ、知れば知るほど、ここの世界観が本気でわからないよ……。


 空中に静止している空飛ぶ円盤から光の柱が地面に伸びて、中からバーナードが現れ、ゆっくりと降りてきた。

 私たちの前に立つバーナードは手を後ろ手に組み、プレイヤーに語りかける。


「ダン・スターマン君。良くぞここまで到達した」


 バーナードが労うように言うと、ダンは背筋を伸ばして、ビシッと音がしそうな敬礼をした。


「君の願いは叶えられる……だが、その為には……」

「何をなさっているのかしら、貴方達?」


 我々は声のする方にすかさず顔を向けると、塀の上で月を背景に王女クリスティーンが立っていた。


「これは一体どういう事でしょうか?説明していただきましょうか、バーナード殿下」


□冬至

 かぼちゃのお菓子を食べる。

 子供は、かぼちゃを被って、その辺を走り回る。

□ミトラ祭

 子供のお祭り。

 お菓子や動物の形のパンを食べる。

□ユノの日

 恋人の日。祝日では無いが、お菓子を交換しあう風習がある。


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