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攻略対象エントリー

 あらゆる手続きと根回しが終了し、気が付くと、季節は夏の終わりとなっていた。

 後は学園へ入学する日を待つのみだ。


 私はバーナードと黄昏の庭園で雑談をしながら、来月から始まる学園生活や、主な登場人物達について語り合っていた。


「それにしても、ストーリーに登場しないが、ゲームには出てくる人物が重要だったとはね……予言の書の記述だけでは解釈が不完全ということか……」


 彼は今回の一件で、自らの予言の書の捉え方を考え直す機会になったらしい。


「予言の書……いわゆる『スタータイド』“原典”の復元に関しては機関でも長い間議論がなされていた」


 科学よりも魔術が発達した世界とはいえ、地球のテクノロジー再現は無理ゲーなのでは。


「でも、どうしようもないんじゃない?……それは」

「詳しいことは秘匿事項なので言えないが……実は機関はスタータイドの“ソースコード”を保管している」

「えええっ???」

「ただ、それを復元して再生する装置がこの世界に存在しないんだ。それをどうするかで、意見が二つに別れている」


 ソフトウェアだけがあっても、それが動くハードウェアがなければ意味はない……。

 この剣と魔法の世界で“ソースコード”なるモノがどういう状態で保管されているのか、あまりにも謎すぎる。


「一つはハードウェアとそれを支えるテクノロジーも含め完全に復元する事を目指すグループ。しかし、その工程で多くの禁忌に手を染める必要がある。それは、この世界では認められない大罪だ」


 パソコンやゲーム機は人類の長い歴史からすると瞬く間に発展した技術ではあるが、そこには破壊的なイノベーションを数多く内包しており、保守的なこの世界では到底受け入れがたいだろう。


「もう一つは、ソースコードの復元は保留して、予言の書の記述に基づき現行の魔術工学を使って擬似的に再構築するグループだ。僕は今まで、こちらを支持していたが……今回の件で少し考えを改めた」

 バーナードは深い溜息を吐く。

「……しかし、機関のセキュリティも万全ではない。禁忌の技術が漏洩でもしたら、取り返しのつかないこととなる。実に悩ましい……」


 話を聞くだけでは、機関が所有しているテクノロジーレベルは不明だし、どういう事項が禁忌なのかも分からない。でも、提案するだけならいいのかな?

「エミュレータとか作れないのかな?」

「エミュレータ?」


 地球で、古いソフトウェアを動かすための旧式のハードウェアが入手出来なかった時の対策の一つとして、現行のコンピュータの中に仮想のマシンをプログラムとして構築し、その上で古いソフトウェアを動かすという手法がある。


「魔術工学でそれが可能かは分からないけど……」

「考え方としては興味深いな……それだと、ハードウェアを用意する必要はないし、その分禁忌の抵触も少なくなる……考慮の余地はあるな。教授にも意見を聞いてくるよ」

 彼はそう言うと、にこやかに席を立って、上機嫌で自室に戻っていった。


 私は夕焼けを眺めながら、出会いが近づいた攻略対象たちに想いを馳せた。



 時は今、九の月。


 早朝のセレスティアル学園にて私とバーナードは佇む。


 ゲームに登場する購買部のアリィの姿となった私は、セレスティアル学園のシンボル、天球儀のモニュメントを見上げている。


 希少金属と青い水晶を使った大型の装置は、古代の技術によって有史以前より休まず動作し続けている不思議な機械だ。


 私がモニュメントに見入っていると、隣に立っているバーンの姿をしたバーナードが私の肩に手を置いた。


「さぁ、行こう」


 いよいよ、二人は学園の内部へと足を踏み入れた。



 私たちが今いるのは、学園内にある隠し部屋の一つ、秘密監視室。

 魔道具を通じて学園内に複数あるポイントを定点観察できる、いわゆるモニタールームだ。

 この場所が、これからの諜報活動の拠点となるだろう。


 一番大きなモニターには、正面玄関の映像が流れている。


 期待と不安を胸に抱いた生徒たちが続々と学園の正門をくぐり抜けて来る。


 大半はゲーム内でモブとして扱われる少年少女だが、その中には、明らかに特別なオーラを纏った十三人がいる。




 それが、運命に選ばれし十二人、“攻略対象キャラクター”。


 そして、世界の運命を選択する者、“プレイヤー”だ。




 最初に現れたのは、辺境伯令嬢ケイトリン・フォスター。


 赤毛を一つに束ね、背筋を伸ばし颯爽と歩いている。

 その緑の瞳は好奇心に輝いている。


 英雄の娘で、自らも騎獣に跨って魔獣と戦うスーパーヒロインだ。

 王太子リオンの婚約者候補の一人でもあり、彼女が王妃になる事を望む国民は多い。

 ゲーム内で文武両道の優等生キャラとして、在学生たちからの尊敬の念を一身に集めた正統派ヒロインとして、プレイヤー人気も高い。



 次に入場したのは、平民の特待生マイクル・スミス。

 黒髪を短く切り揃えた意志の強そうな少年で、その青い目で学園の雄姿を目に焼き付けている。

 彼は貧しい平民ながら、その優秀さを地方領主に見出されただけあって、入学以降、ケイトリンと成績を競い合い、後にお互いを認め合う仲となる。

 ゲームで攻略対象となった時のストーリーも王道の貴種流離譚で、正統派ヒーローとしてプレイヤーの高い人気を得て、二次創作等では良く“主人公”として扱われた。



 そして、さらに二名の攻略対象キャラが入場。


 東方のハヤブサ公国からの留学生レイ・ソーマ。

 青味がかった長い黒髪に紫と白のメッシュを入れた、切れ長のアーモンド型の黒い瞳の神秘的な美少女。

 努力と研鑽を尊ぶ意識高い彼女はケイトリンと仲が良く、身軽で機敏な為に、良く『ニンジャガール』と呼ばれ揶揄われている。



 それと、平民で大商会会長の次男ヒューバート・ウォーカー。

 淡い黄緑色の髪で毛先だけが緑というレタスみたいな頭の少年で、小柄だが、その目は抜け目なく輝いている。

 商才で成り上がる野望を抱く彼にとっては、名門であるセレスティアル学園もビジネスの実験場でしかなく、頻繁に怪しげな商売を立ち上げてはプレイヤーを混乱に巻き込んでいた。



 ここで、正門前で群れていたモブの学生が左右に大きく分かれ、その開かれた人の波の合間に、堂々とした集団が闊歩した。


 王太子リオン・ボイジャとその取り巻きだ。


 ライオンのたてがみのようなダークブロンドを風に靡かせた彼は正に王者といった感じだ――見た目だけは。



 彼の右側にいるのは側近候補で腹心の侯爵令息ハリー・スパークス。

 金髪に褐色の肌の美男子で、ゲーム内では恋の狩人……俗に言うとチャラ男だ。

 プレイヤーの攻略対象が女性の場合、彼が恋のライバルになる可能性は非常に高かった。



 その左側にいるのは側近候補で、騎士団長の子息、ジョージ・ハマー。

 勉強が苦手な脳筋キャラで、ゲーム攻略面では特筆する点はない。

 強いてあげるなら武闘系のイベントでライバルとして対立するくらいだが、彼は魔術も苦手なので、苦戦した記憶はない。



 彼らの背後をピッタリ付いて回っているのは、NPCでリオンの婚約者筆頭の公爵令嬢イザベラとその取り巻き令嬢だろう。

 彼女は王太子妃となることに執念を燃やしており、プレイヤーの選択がリオンルートの場合、妨害キャラと化して執拗にプレイヤーを苦しめる。



 居合わせた学生達は気難しい王族達が去ってホッとするが、直後に現れた美女に目を奪われる。



 伯爵令嬢サラ・エンジェルは後にチアリーダーになって、学園のアイドルとなるパリピキャラだ。

 フワッとした長いプラチナブロンドにナイスバディーの持ち主で、見るもの全てを魅了する生まれながらの人気者。

 プレイヤーの攻略対象が男性だった場合、彼女がライバルになりがちで、特にハリーとは高度な恋の駆け引きを楽しむ関係のようだ。



 その後、正門に猛スピードで駆けて込んで来たのは、獣人の少女、バイキング連邦議会国からの留学生ワジャジャ・モジョー。

 猫耳の少女で、連邦でも辺境部族の出身だが、英雄王ギルバートの血を引く勇敢な野生児だ。

 見た目通り無邪気で活発な彼女だが、科学や魔術にも強い興味を持ち、ライバルになると可愛らしい姿とは裏腹な実力に苦戦する。



 彼女に遅れて、正門に駆け込んだ男女三人は、息を切らして深呼吸している。



 黒縁メガネの少年、男爵子息ニコラス・グランド。

 科学万能主義のギーク少年で、おかしな発明品を作っては、学園に騒動を起こしている。

 要するにオタク男子だ。



 もう一人は、平民の特待生で特別枠で入学した少女、ドルキャス・フェニックス。

 彼女はニコラスと対象的に魔術に特化した才能を持っている魔女の末裔だ。

 セミショートの無造作な黒髪と白い肌の中性的な容貌で、右目の下に赤い爪痕のような紋様がある無口で内気な少女、一言で言うと、“ゴス”だ。


 

 そして、もう一人――


「彼がプレイヤー、ダン・スターマン、だ」


 バーナードがプレイヤーと言った彼は、見た感じ普通の少年だった。

 茶色の髪と目の中肉中背の彼は、真剣な眼差しで、天球儀のモニュメントを凝視する。

 彼は拳を強く握り、何かを決意するように胸に手を置いて、祈るように佇んだ。




 主な登場人物が一通り勢揃いした……と、思ったその時、


 モニュメント前の広場に大きな影がよぎり、少女の奇声が辺りに響き渡る。


「いやっふぅぅぅぅぅぅ――!!!」


 突然、空から降ってきた少女はモニュメントの上部に華麗に着地した。



「わたくし!参上――!!!」



 膨らんだ袖のワンピースに白い手袋と赤いハイヒール。

 大きく外ハネしたピンク色のセミロングの髪に、頭部にはミニクラウンを斜めに装着し、不敵な笑みを浮かべた美少女だった。

 彼女は高く腕を掲げて宣言する。


「この学園は今日より、わたくし王女クリスティーンが席巻するわ!!」


 クリスティーンは辺りを見渡し、口端を上げてニヤリとした後、高らかに言い放つ。


「刮目せよっ!愚民ども!!!」



 ……。


 忘れていた……いや、忘れたままで居たかった……。


 ゲーム『スタータイド』最大の問題児。


 メインヒロインにして、残念無念ヒドイン。


 悪意なきドヤ顔で妨害の限りを尽くし、多くのプレイヤーのヘイトを溜めまくった。


 ――王女クリスティーン・ボイジャ。


 ついに爆誕しやがった。


 第1章はこれでおしまい。


 第2章学園編へと続きます。

 プレイヤーは誰を攻略するのかなー?()


 うさぎちゃん「良かったら、いいね!とブックマークをよろしくねー!」

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