1ー1 郡司鈴鳴と戦闘機
2021年、10月28日・・・
某ロボットゲームのシリーズ30周年記念作品が発売されます!!
ワタクシ、断じてバンダイナムコのまわしものではありません。
スーパー〇ボット大戦が大好きなあなた! やったことはないけれどロボが好きなあなた!
ソフトがお高くて手が出せないあなた! 昔はやっていたけれどやめてしまったあなた!
そんなゲームには一切興味ない小説が読みたいあなた。
そんなあなたにお届けしたい、読み口の軽いロSF青春コメディ?となっています。
目指したのは読むスパロボ! バンダイナムコ様には最大限のリスペクトをもって、版権ギリギリを攻めた小説を作ってみました。 ※注・広義の二次創作ではありません!
1、 誰もが飼っている内なる獣は思春期に暴れる
塗り固めたような暗黒の宇宙。
郡司鈴鳴は無限に広がる闇に包まれて、狭いコックピットの中に身を縮めていた。
左右のフットペダルを交互に軽く踏み込む。純白の機体の二つのノズルから、ぼぉ、と炎を吐き出して肩を揺らす程度にコックピットが傾く。
挙動に合わせて操縦桿を左右に倒す。
翼と機体の各部から、ぷしっ、と姿勢制御エアをリズミカルに放出し、純白の機体が躍るように左右に回転を始める。
機体のフィット感は悪くない。今まで散々調整してきただけある。
不満があるとすれば、この機体に描かれた謎の美少女キャラ『モエギ』だけであった。
機体に描くに飽き足らず、目の前のモニターに支援AIとしてモエギが先刻から頬を膨らませている。
ごちゃごちゃと言っているのを思いっきり無視しているからだ。
ふと、まだ遠く離れた光の緩やかな動きを動態感知センサーが検知し、機窓と一体化したモニターに赤くマーカーが三つ灯った。
『敵機接近っ、もう、勝手にすれば。撃墜されたって心配してあげないんだからね』
モエギは顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向いた。
鈴鳴がギュッと操縦桿を握る手に力を籠めたとき、側面に映像ウインドウとともに脂汗にまみれた小汚い男が表示される。
毛穴からにじみ出た汗からはカメラを通じて匂いが伝わってきそうだ。
かの空飛ぶ豚、眼鏡をかけたポルコ・ロッソを実写化したらこんなひどいことになっていたであろうか。
『郡司氏、僕のモエがお怒りだよ』
「変なモン組み込んでんじゃねーぞ、ポルコ」
『郡司氏、次にモエをバカにしたら僕のから降りてもらうから、そこんところ覚えとくように』
「覚えとかねーよ」
そのとき、敵を示す三つのマーカーが三方に別れた。
「オ、意外と早ぇな。じゃ、鈴鳴、モエ9突貫する!」
狭いコックピットに小さく声を響かせて、モエは漆黒の闇を突き抜けていく。
目指すは次第に距離を寄せる光の編隊だ。
まだ輪郭も捉えないうちに、粒子砲による熱源の増大を探知して電子音のアラートが鳴る。
熱によって青く輝く粒子をまき散らしながら強烈に迫る数個の光の塊とすれ違う。
そのうちの一発はかなりきわどかったようで、熱せられた粒子が機体の表面に張りついた薄っぺらいモエギを焦がした。
支援AIのモエがきゃっ、と短い悲鳴を上げた。
『ぼくのモエがぁ!』
「黙れ! 今はオレ様のモエだ!」
敵部隊がそれぞれ三方向に別れた。
敵の編隊はお決まりの粒子砲三次元射で絡めとろうとしているのだろう。
いくら機動に勝ると言えど、流石に囲まれると鬱陶しい。
鈴鳴はすかさず正面のリーダー格の一機に狙いを定めて一気に速度を上げて突進する。
急加速についていけない敵小隊の粒子砲の弾幕をすり抜けて、光の粒だったものが一瞬にして輪郭を帯びる。それは一瞬にして10メートルほどの人型機動兵器に膨れ上がった。
鈴鳴は敵の武装に意識を集中する。
敵からすると距離が近くなれば的は大きくなるが、こちらも敵の銃口が良く見える。
瞬きすら許されない刹那の読み合い。この瞬間が、鈴鳴はたまらなく好きだった。
敵機が腕に構えた銃口と同時に、わずかにショルダーランチャーの角度が傾いたのを鈴鳴は見逃さず逆の挙動をとる。
案の定、敵の肩から発射された弾頭は虚空に消えていく。
同時に敵の機体のすぐ頭上を青い火の玉がすり抜けた。
直前に放ったモエの粒子砲もまた挙動に補正をかけられずに、的を捉えなかったようだ。
本当なら今の接触で仕留めておきたいところである。
鈴鳴は小さく舌打つ。
全方位簡易動態モニターを監視しつつ敵の存在を確認すると、スピードタイプへの典型的対応策として各機集合し始めていた。
こちらの接近を待ち伏せての集中砲火に切り替えたというわけだ。
流石AI。判断が速い。
鈴鳴は旋回して背中合わせの機械の塊のど真ん中にミサイルを二本撃ち込む。
両翼から放たれた圧縮粒子ミサイルの一本は撃ち落とされ、もう一本が三機の隙間を爆光で埋め尽くす。
フォーメーションを崩された一機がモエの粒子砲に貫かれ、直後には爆炎に包まれた。
『おー、やるね郡司氏』
「たりめーだっ」
そう叫んだ矢先、左翼を青い光が突き破る。
『おー・・・やられたね、郡司氏』
頭にきている暇はない。姿勢制御に支障はまだないようだ。
敵はこれを機に押し込もうと二機揃ってこちらに突撃してくる。
鈴鳴も血が騒いで二機へ向かってスロットルを全開にする。
『郡司氏、接近戦はあまりにも不利じゃないかなぁ? 一旦作戦練り直せば?』
「うっせぇ、見てろよ、ポルコ!」
粒子砲の砲火を潜り抜けて、敵の構えた粒子サーベルの光が目視できる距離にまで迫ると、敵は振りかぶった粒子サーベルをモエの鼻先に下ろす。
が、前転をするように、しかも体操選手のように軽くひねりなんかをくわえつつ、鈴鳴の操縦する戦闘機はサーベルから数十センチの距離を舞う。
空気のない宇宙ならではの曲芸飛行。
さらに二機目の横凪の一閃もまた翼の上っ面を削るほどの紙一重で回避する。
さながら白鳥が舞っているかのようである。
接触する事前に切り離していた機雷たちが、鈴鳴操る戦闘機の過ぎ去った直後に遅れて流れ着いて炸裂した。
煙を吐きながらあらぬ方向に敵の機体が流れていく。
『はぁ~・・・僕はきみが嫌いだけど、こればっかりは流石と言わざるを得ないよ』
ポルコの褒め言葉に応える間もなく、残りのリーダー機が放った粒子バルカンの光の粒がモエの背中を追い越した。
リーダー機はモエの背中を追いすがってくる。
必死に上を仰ぎ見て、敵のリーダー機を視界に入れて動きを観察する。追われているときほど相手の位置と挙動を見失いたくない。
そんな鈴鳴の横顔を左から青白く光が照らした。先ほど粒子サーベルが掠った翼の内部の配線から発光している。
避けそこなった。
そう感じた矢先に敵のバルカン砲のエネルギーが切れたのだろう。
砲撃が弱まるや、すかさずエンジンの軽い逆噴射で速度を落として敵の懐に迫る。
赤々と輝く粒子サーベルの光が鈴鳴の瞳の中で瞬いていた。
振り下ろされるサーベルの軌道を読む。
横回転でサーベルをすり抜け、敵人型兵器の懐へ入った。
「もらったぁっ!」
腹部に取り付けられた粒子砲の銃口が真っ青に燃え、AI操る面影の顔面をしっかりとらえていた。
そのときだった。
モエの左翼が軽く火を噴いた。
青く光っていた部分が誘爆したのだろう。
その爆発の力で余分に横回転してしまい、面影の胸元に飛び込んでしまったのだ。
当然、粒子砲は無機質な敵の表情をかすかに溶かして、黒い宙に吸い込まれていった。
「ま、まじぴょん?」
翼をがっちりと面影に掴まれたモエ、直後には鈴鳴が座っていたあたりを真っ赤に燃える粒子の束が貫いていた。
2151年 6月
ここ入間新制高等学校は、航空自衛隊入間基地の近くに20年まえに新設された6年制の専門高校である。
世界情勢の悪化による軍備拡張に伴って、自衛官の増員を目指して全国に新制高校が設立された。
普通の高校に比べ軍事関係の学習を強化してはいるものの、卒業後に自衛隊へと入隊するか、防衛大学へ進学するか、普通の大学へ進学するかは学生の自由となっている。
卒業者はもれなく予備自衛官の資格が得られ、学生寮付き、かつ学費も無料となかなか好待遇である。
国としては自衛官の大幅な増員と軍事への教養の向上が期待でき、学生としては金銭的かつ軍事関連の就職先斡旋という大きなメリットがあった。
当然入学希望者は多く、間口も広く設定してあるため一学年の生徒は千人を超えるマンモス校である。
その巨大な校舎にある小さな一室。
第35番電算室。
800番まである電算室は学生が申請することで利用許可がおりる。
電算室には生体情報を読み取って肉体を再現し、意識そのものを乗せて仮想現実につなぐことのできる装置『バイオ・ヴァーチャル・コンバーター』がある。
学生たちは『Bio Conビオコン』と呼称している。
この偉大なる文明の進化のお陰で仮想実地教育による通常では難しいような経験をたくさん積むことができるようになり、教育の速度は大きく前進していた。
そんな最新鋭の機器の備わった一室にもかかわらず、三畳ほどの狭い部屋に菓子の空き袋や丸めたティッシュ、空のペットボトルの詰まったゴミ袋が部屋の奥に古代建造物のようにうず高く堆積し、床には脱ぎ散らした衣類が幾何学模様を呈して散らばっている。
重厚なヘッドセットをつけ椅子に肉塊を沈めて甘い荒息を吐き出す男がいる。
結構な体脂肪率なのだが、なまじっか身長があるためわかりにくいが、中年のような肉の浮き輪がベルトの上に乗っている。
体脂肪率からポルコとあだ名される赤松真也である。
いじめのような名前に思えなくもないが、本人は原作ではイケメンだと気に入っている。
彼の机には不気味なくらいたくさんの美少女フィギュアが笑顔を振りまいて、そんな彼女たちを二つのモニターの光が照らしている。
片方には先ほどの戦闘のダイジェストが、片方には月面に居住区を建設開始した旨のネットニュースがつらつらと綴られている。
そんな魔物の住まうおぞましい一室だが、決して誤解してはいけない、この部屋の主は彼ではないのだ。
机の傍らにメイド服姿で屹立し、豊満なバストを突きあげ満面の笑顔を振りまいたまま微動だにしない美少女がいる。
美少女魔法機動騎士モエギ・モモ・モンスーン三世。
人工知能を搭載したメイド型バイオロイドであるにもかかわらず、魔法が使え、かつ自我が芽生えて娘でもないのに貴族であったご主人の跡取りとなって、屋敷に眠るムラピー5という人型機動兵器を狙う悪者と戦うという、意味不明な設定を盛りすぎたのアニメの主人公だ。
彼女こそこの部屋の主である。
というかただの等身大フィギュアである。
魔窟にある生体読み取り室の扉が、盛大に埃を巻き上げながら勢いよく蹴破られた。
「郡司氏、何度言えばわかるんだい? 人類は手で静かに扉を開けられるようにドアノブを開発したんだよ」
「負けたぁぁぁああーっ!」
この雄たけびを上げる男こそ先ほどまで戦闘機に腰かけ、そして粒子サーベルで焼き払われた男、入間新制高校5年の郡司鈴鳴である。
ワックスで短い髪を固めてるのにも関わらず頭を平気でかきむしるため、いつも変な立ち方をしている。
「なかなか惜しかったんだけど、AIの挑発に乗っちゃあダメだよ。一旦距離を取るべきだったね」
バリバリ、とポテチを貪りながらもくもくと何事かの作業を進めている。
「装甲が薄すぎんだよ、なんとかなんねーの?」
「機体の装甲を厚くするより、まずは操縦者のOSをアップデ―トすべきだね。
装甲を厚くしたところで、機動力は落ち、デカくなる。
結局被弾するダメージの深さは変わらない。ハードを非難する前にソフトを改良すべきだね。
OS、つまり、郡司氏の、オツムシステムをね」
ぎりりと握りしめたタオルで汗をぬぐいながら、鈴鳴はこの魔窟にどこか違和感を覚える。
なんだろう、入ってきたときとはどこかが異なっている気がしてならない。
「そもそもなんで接近戦にこだわるわけさ。
動体視力がいいのは認めるけど、だったら〈面影〉に乗ればいいじゃない。
人型機動兵器の汎用性と脊髄反射による容易な操縦性能を誇る〈面影〉が、宙域戦闘の主流なんだからさぁ」
モニターに向かって延々と話し続けるポルコをよそにきょろきょろと室内を見渡し、そしてこの部屋の主に目が留まる。
たしか入ってきたときは学生服を着ていたはずである。
「なぁ、ポルコ。コイツ―――」
「ああ、モエのことかな。というか郡司氏入ってくるとき、僕のモエに挨拶するの忘れたでしょ。
郡司氏のせいで彼女不機嫌だから。
しかたなく、ご機嫌とるためにメイド服に着替えてもらったんだからね。
わかる? 結構大変だったんだからね」
さっぱり意味が分からない。
機嫌が悪いとなんでメイド服に着替えるのか。
っていうかポルコが着替えさせたのか?
いつ?
毎回服が違う気がするんだけど何着あるのか?
なぞのルールも気に入らなかった。
なぜ入室するたび『モエ』とかいう無機物に頭を下げなければならないのか。
モエの許しってなんだよ。
っていうか、モエってただのフィギュアだし!
鈴鳴の中で魔窟に積もりに積もった埃のような不平不満が静かに、だが真っ赤に燃える溶岩の如くあふれ出す。
そんなことに気づかないポルコはひたすらにモエのメイド服がいかに精巧につくられた芸術品であるかについて熱く語っている。
『触らないでよ、ブタ。アンタもね、キモ童貞!』
ふいにモエ(の内臓スピーカー)が罵倒した。
赤松ポルコと組んで二週間。鈴鳴の中で何かがプツリと音を立ててちぎれた。
だが、鈴鳴も大人である。物に当たったりなんてしない。
そうしそうになった自分をむしろ恥じるくらいだ。
危うくつかみかかりそうになったモエの襟を正し、軽く肩に乗った毛を払ってやる。
ふぅ、と一息つくと。うおらぁあ、と叫びながらモエの襟元を開くと胸を揉みしだいた。
ポルコは慌てて席を立ち、小汚い汗をまき散らしながら鈴鳴を押し出すと、モエを奪い取る。
「ふん、じゃあな、モエ。ナイスおっぱい」
鈴鳴は言い捨てて、第35番電算室を出て行った。
クスリとでも笑ってもらえれば幸いです。
さらに某ゲームに手を出してもらえるともっと幸いです。
ラノベの新人賞用に嬉々として作ったのですが、あとになって冷静になるとこんな恐ろしいものに賞を与える出版社は存在しないなと気づきました。
単行本一巻分くらいは溜まってるのでpv数に応じて投稿します。