何かが居た話
気付いたら、何かが居た。
ここがどこなのか。それすらを理解する前に、そのヒトガタの存在感に圧倒された。
「おきたかい、調子はどうじゃ」
「えっと、その」
「問題は無さそうかの。時間がもったいないわい。早速、話を始めさせて貰うぞ」
ソレは、僕の理解を待つ間もなく淡々と喋り始めた。
「お前さん、なんで此処にいると思うかい」
「なんで、って言われても… そもそも、ここはどこなんですか?」
「此処は言ってみれば夢じゃ。ワシらの無駄な仕事を増やさない為に、事前に対策してんのさ」
「はぁ…?」
そんな分かったような、分からないような説明をされても困るだけなのだが。
「えっと、どういう、何か僕に用事でもあるんですか?」
「そうでなきゃ、お前一人のためにわざわざ夢を作ったりはせぬよ」
夢を作る?何言ってんだこのジジイは。いや、光っててジジイかババアかもわからんけど。もしかして、これが白昼夢ってやつなのか。
「単刀直入に聞くぞ。お前、生きたいのか?死にたいのか?」
ドクッ。
周りの音が全て消え去って、自分の心臓が跳ねた音だけが、辺りに響き渡る感覚がした。体の先が冷たくなり、頭が回らず、視界が傾く。そんな本当かも分からない情報に、頭が埋め尽くされる。
「なッ…が…」
「そんな反応を待ってるほどお人好しじゃ無くての、早くどっちかに決めてくれんかね」
淡々と告げるその声色は全く変わらない。ヒトガタの顔は分からないが、冷淡な、周りが俺を見て、見下している雰囲気と同じものが伝わってきた。
「……死にたい」
「其れが答えでいいんじゃな」
何度も何度も考えた。でも結局、何もやれなかった。やらなかったが正しいのかもしれない。いっそ、この神様モドキが楽にしてくれるなら、それ以上は無いだろう。もう、何かをするには時間を無駄にしすぎた。
「くだらんのぉ、実にくだらん。ワシがわざわざ声をかけるべきと見込んだのに、それがお前さんの答えかい」
イラっときた。俺だって頑張ろうとしてるのに、知ったような口で上から言いやがって。
「できるならやってるさ!俺だって生きてるだけで周りに迷惑をかけて死にたくは無いさ!でもできねえんだよ!周りの人間が!普通に頑張って!普通にできてることがよ!」
「それで?死を選ぶというのかね?」
「ああ、もう十分だ!生きてるだけの死体になるくらいなら死んだほうがマシだ!失った時間は埋められねえんだよ!」
「そうかい、言うことはたったそれだけかい」
「………あぁ」
これで楽になれるなら、まぁいっか。
「さて、それじゃあ説教を始めるかの」
「は?」
マヌケな顔をしている俺を差し置いて、クソジジイはまくし立て始めた。
「時間の使い方って言うのはの、かけた時間の量が問題じゃないんじゃ。その時間がその先どういう効果をもたらすか、そこが重要なんじゃ。
例えば数年、心や体のために使ったとしてじゃ。そいつが先の数十年頑張るための下地になるんなら、十分意味があるとは思わんかい。
お前さん、まだ若いだろ。この先もまだ3倍以上の人生が残っとるんじゃ。お前さんがやるべきは、そうやってできなかった過去の自分を責めるんでなく、この先を生きていく為に自分を癒してあげて、生きやすい方法を見つけることなんじゃァないのかい。
そんなに自分を責める暇があるンなら、それを優しさに変えてあげたらどうかね。もしそうできたなら、お前さんみたいな性格であれば、優しくされてる自分への憤りを原動力に動けそうなもんじゃがの。
それと、じゃ。迷惑かけられてもお前の周りにいるやつを、もっと信じてあげい。ソイツの望みはなんじゃと思う。お前さんの幸せじゃ。迷惑をかけて嘆くぐらいであれば、もう少しくらい迷惑かけてでも、幸せになった姿を見せて恩返しする方がよっぽどマシじゃと思うがのぉ。
だいたい普通普通っての、お前さんが周りの普通の何を知っておるんじゃ。そんなに周りに劣等感を抱くからには、ソイツの悩みや苦しみも全部知っておるんじゃろうな。
ワシは飽きっぽくての、期待の無いヤツに時間をかけるほどお人好しじゃァ無くてね。生きる気力と能力がある人間にしか声をかけぬよ。
この話を聞かせるために、ワシは何分の時間を使ったかのぉ。その時間以上の効果が現れることを、ワシは期待しておるよ」
そうやって言いたいことだけ言い切ったクソジジイは、満足そうな雰囲気で天に上っていき、俺を見下ろしていた。
「……クソッ、最初から死なせる気ねえじゃねえか」
でも、不思議と、見下してる雰囲気を感じることは無かった。
俺はじじばばより綺麗でおっぱいが大きくておっとりしてて膝枕とかしてくれそうな雰囲気のソプラノボイスのお姉様辺りが出てきてくれると嬉しい。