再会
二話完結の短編です。
よろしくお願いしますm(*_ _)m
「もう永くないみたいなの」
それは、祖母の見舞いに行った母の言葉。
祖母が入院してから、一年は経っている。
──ぼくは、ずっと祖母に会っていない。
入院してから一度も見舞いにも行かず、会うのを避さけていた。
祖母は、ぼくを酷い孫だと思っているだろうか。
入院して、喉の手術をして話せなくなって、それから動けない祖母の身体。
──入院したら最期まで病院で過ごすのだと祖父は言っていた。
「どうする? 明後日は貴方も来る?」
母がそう聞いてくる。
正直な気持ち、ぼくには会いたいという気持ちはあまりない。
──やっぱり酷い孫だ。
死期が近づいても会いたいと思えないのだから。
自分が嫌になる。
窓に映る自分の顔は、皮肉っぽく歪んでいた。
「昨日は、あの子たちも来たそうなの」
「そうなんだ……」
あの子たちというのは、ぼくの従弟たちの事だ。
出来損ないのぼくとは違って、優秀で運動も出来て、性格も良い完璧な従弟たち。
──勝てる所のない、ぼくの可愛い従弟たち。
「……今日、おじいちゃんも言ってきたわ。貴方のこと」
「………そっか。ごめんね」
高校に入ったは良いけど、学校が合わず、不登校になって留年すると決まったとき、迷わずに通信制の高校へ行くことにした。
──祖父は、頭の悪い自分が高校へ入れたのが奇跡だと思っていたことだろう。
成績が全ての祖父は、世間体を気にする人でもある。
通信制に通って三年が経ってしまった。
人が苦手で、数回の登校日さえぼくには地獄に等しい。
祖父は、中卒でもいいから働いてほしいのだ。
──いつまでも高校生なのはみっともないから。
それは、ぼくにも分かっている。
「嫌だったら、私だけで行くから無理しなくていいよ」
どろどろとした黒い感情を飲み込み笑う。
「ううん、行くよ。ぼくもおばあちゃんに会いたいから」
──ああ、嘘つきのぼくを赦してください。
厳密には嘘って訳ではない。
会いたいって気持ちもある。
けれど、それは心から溢れる気持ちではない。
そんな自分が祖母に会いに行っていいのかもわからない。
それでも、逢いにいかなかったら、いつか後悔することになるかもしれない。
数日後。
数年後。
それこそ、明後日のことだったりして。
──何年か後に悔やむよりは、会いたい。
入院してからの祖母が変化していても、ぼくは目を逸らさずに話したい。
そう決めたんだ。
本当は、逃げ出したい気持ちの自分もいる。
◇ ◇ ◇
──時間が過ぎるのはあっという間で、とうとう見舞いに行く日となってしまった。
鏡に向かい、笑顔を作ってみる。
「…下手くそ」
なんと歪な笑いだろう。
──それでもいい。
祖母の前では普通に笑ってみせよう。
泣くのは駄目。
そう心に刻む。
「優、そろそろ行くよ」
「ん」
迎えに来た祖父の車の中、ぼくは流れゆく外の景色を眺ながめていた。
会話はない。
最初の『久しぶり』の一言で終わった。
一時間近く揺れた車が止まった。
田んぼ道から外れた先にあるその病院は、まるでホテルのように綺麗な場所だった。
床もピカピカで、照明が明るくて清潔な所。
──豪華な病院が、ぼくには不気味に映る。
計算された建物に思えて吐き気がする。
広いエレベーターに乗って、着いた二人部屋の病室。
ぼくは、痛む心臓を無視してドアを開けた。