不審者?
「アイン、あれって絶対…」
『不審者ですね。
しかしあの反応は魔法少女か怪人の物ですが、殆ど確実に魔法少女でしょうね。』
僕は安心したがすぐに気を引き締めた。
いくら同じ魔法少女でも、こっちは野良の魔法少女だし色々と悪目立ちし過ぎている節があるから、いつ攻撃されるか解らない。
この時僕は、後ろから来る不審者に気を取られてしまっていて、前にいるバーバリアンキングの攻撃に気づかず、火の玉が鎧兜に当たる。
ボクゥゥゥ…という音と共に爆風を食らい、その場に倒れてしまった。
「ちょっと貴方何やってるの!」
僕は思いっきり尻餅をつきながら、目の前を通り抜ける金髪ロールの不審者を見ているだけだった。
「ハァァァァ……!」
その人は、倒れて起き上がろうとしている僕に向かって飛んで来る火の玉を、盾で守りながらも止まることなく、いとも簡単に接近して左肩から右脇腹へ剣を凪ぎ払い倒した。
「す、すみません助けて頂いて。」
僕は少し土埃のついた服を軽く払ったあと、頭を下げる。
「…礼は要らないけど、あの時見た時とは大違いね。
服装も戦闘の腕も。」
『それは貴方がいきなりそんな怪しい格好で来るからでしょう。』
アインが最もな事を言ってるが、確かに戦闘中に迂闊にもよそ見していたのも事実だと思うので、アインに小さい声で「はいはい」と返しておきながら、ふと気になった事を言った。
「えっと、貴方と会った事ありましたっけ?」
すると、その人はサングラスとマスクを取りコートを脱ぐと、隠れていた金髪ロールが露になる。
「これで誰か解ったでしょう?」
「…まさか貴方はあの時の!」
その人は僕の見間違いでなければ秋葉原に行った時に一緒に戦った、あのお嬢様っぽい人だった。
「誰か解ればよろしい。」
「お嬢様見たいな人!」
僕は素直な感想をつい言ってしまったが、その発言を聞いたその人は、いきなりジト目になりながら不機嫌そうになった。
「…確かにそうだけど、そう呼ぶの止めてくれない?
しかも、ワタシには嘉多山 柳子って言う名前があるの!」
「ごめんなさい!」
僕はその怒りに押されて、即座に謝った。
しかし、嘉多山さんは謝った位では怒りは収まらなかった。
それどころか、少しヒートアップしているようにも見えた。
「ふん!それだったらワタシの言うことを聞いてもらうわよ!」
「…へっ……」
僕はいきなりの事で全く頭が追い付かなかった。
「明日の17時、新宿の魔法少女協会の支部に来なさい。
そこで私と一対一の決闘をしなさい。
もしも逃げたら、地の果てまで追って来ると思いなさい!」
そう言うと、嘉多山さんはさっさと行ってしまった。
『…マスター、どうするつもりですか?』
家に帰り、自室に入るとすぐにアインにそう聞かれた。
「嘉多山さんの指示に従うしか無いと思う。
あの人多分プライドとか高そうだし、もしも逃げたら本当に僕達の事を地の果てまで追って来そう。」
僕は嘉多山さんの機嫌の悪そうな表情を思い出しながら、そう思った。
『ですが、マスターは野良の魔法少女であり、嘉多山とか言う奴がポロッと秋葉原の件を喋れば状況は最悪になります。
そう考えたら、逃げるのが得策だと思われます。』
「…確かにそうだね。
けど、逃げたとしても嘉多山さんから追われる事になり、僕達を追う理由に秋葉原の話をしてしまうかもしれない。
そうも考えられない?」
『それもそうですが……』
アインは少し引き下がったが、まだ納得は行ってないようだ。
「それだったら、嘉多山さんに勝ったら秋葉原であったことを黙ってもらうようにすれば良いんじゃない?」
『…確かにそうですね。では、そうしましょう。
けれどマスター、万が一負けたらどうしますか?』
「…へぇ、アインが弱気になるなんて珍しいね。」
僕が少しからかうように言うと、アインは真面目に『可能性は殆ど無いですが、全く無いという訳ではありませんから』と答えた。
「それじゃあ、アインがそう言うんだったら勝てる可能性は大きく上がるし、サポートが無いと殆ど戦えない僕だけど、負けないように全力を出すつもりでいるから、きっと勝てるよ。
人の思いは武器よりも強いと思うからね。」
嘉多山 柳子 勝ち気な性格で、たまに強い言い方が多くなる一人称が『ワタシ』




