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16話 選択肢

兄が襲来した次の日の放課後、私とリリはレイジから呼び出されていた。欠損した記憶を一部思い出したらしい。

他人に聞かれたら困るということで、私達はレイジの借りた多目的教室に集まっていた。防音効果もある部屋らしく話を誰かに聞かれる心配はない。


「ここでの会話は絶対外に漏らさないように頼むよ、もちろん俺も他言しないしここでのやり取りで不敬だなんだというつもりはないから安心してくれ。それで思い出した事だけどアンジュと会話した後、俺の体は俺の意思で動かなくなったんだ。そこからは意識はあるけど体が勝手に動いているなんとも奇妙な感じだった、途中から夢か現実かわからないくらい自我が薄れて……リリアンヌ嬢の一撃で目が覚めたって感じかな」


「……う」


レイジの言葉にリリが気まずそうに視線を反らす。それを見たレイジは楽しそうにくすくすと笑った。

リリをからかうとはこの王子、いい性格をしているようだ。


「一撃貰ったことについては罪にしたりしないから安心してくれ…でも、アンジュ嬢の事を含めて一連の事は父に報告させてもらった。王家の情報網を使ってアンジュ嬢についていろいろ調べる事になったよ」


アンジュがどんな思惑で魔法を使ったのか分からないが事態は深刻らしい。

それもそうだろう、仮にも王子を意のままに操れる力を持っているのだから国としても野放しには出来ない。


「もし二人とも何か気が付いたことや不振に思ったことがあれば言って欲しい、俺はまだ未熟だけど…この国では安全に平和に過ごせるよう手配するから」


「……正直なところ…驚きました」


私がそう告げればレイジは首をかしげる。


「魔法のことかい?それともアンジュ嬢のこと?」


「貴方のことです、レイジ様」


「俺?」


私の言葉を予想していなかったのかレイジは目を瞬かせる。


「えぇ。初めて会ったときからチャラい…………じゃなくて、軽薄で不誠実そうで人の事馬鹿にするわ見下すわ最悪な王子だと思っていたのですが」


「容赦ないねぇ、アリス様……さすがの俺も傷付くよ」


「え、そんなに繊細なんですか」


「酷い!!最悪王子の自覚はあった分、余計に抉られる!」


きゃんきゃんと喚くレイジのリリが目を見開く。


「自覚があったのですか…!?てっきりもうどうしようもない残念な脳内お花畑……いえ、救いようのない大馬鹿なのかと」


「リリアンヌ嬢まで!?わざわざ言い直した意味あるのかい?しかも直接馬鹿って言ったよね、俺一応王子様だよ!?」


ここでのやり取りは他言されない、しかも不敬にはしないと言われたので私もリリも遠慮なく言いたいことを言わせてもらう。


「まぁまぁ、リリの言葉も事実ですから。でもそこまでしっかりと考えていらっしゃったと知って見直しました。小指の爪ほどですけれど」


「例えが分かりにくいのにほんの少しだけって言うのはしっかり伝わったよ、素直に喜べない!」


「あらまぁ…誉め言葉ですよ?」


「微妙な誉め言葉ありがとうっ!あー、もうっ!」


息を切らしてしまいそうな勢いでツッコミをいれた後、レイジはぐしゃぐしゃと頭をかいて顔をあげる。


「……とにかく酷い態度だったのは謝るよ、アリス様。見下してしまった事、とか…君の大事な人を悪く言ってしまった事も…改めて、すまなかった。それからリリアンヌ嬢、君の忠告も聞かず嫌な思いをさせてしまった事……本当にすまない…俺には王族としての自覚が足りなかった」


そう言って頭を下げるレイジの姿に私とリリは顔を見合わせる。

彼なりに真面目に謝り間違っていた自分を認め、変わろうとしているのだろう。


「…もし、気がすまないのなら殴ってくれても構わない。俺はそれだけの事をした、甘んじて受け入れる」


リリの顔を見れば殴るつもりは無いのだろう、彼女は首を横に降る。


「顔を上げてくださいな。私達は貴方を裁こうだなんて思ってませんから」


「私もです、本当に反省してらっしゃるのなら態度で示していただければ謝罪など不要ですわ」


私とリリがそう告げるとレイジはゆっくりと顔をあげて頷いた。


「わかった、俺はこれからもっとしっかりとした王家の人間になる事を約束する。…それでその良かったら…君達二人に俺の友人になってほしいんだ。俺は…今まで友人と呼べるような人がいなくて、間違ったことを正してくれる人もいなかった…だから俺が迷った時に助言したりして貰えると助かるんだけど……」


こちらの様子を伺うように私とリリにちらちらと視線を寄こすレイジ。

それを見ながら私はリリにこっそりと耳打ちする。


「『王子が仲間になりたそうにこちらを見ている』って感じね…レイジ様が改心したらリリの破滅フラグもひとつ折れるんじゃないかな?」


「なるほど…ならここは『友達になる』の選択肢かしら」


「うん、間違いないと思う」


私達はレイジの方に向き直るとこくりと頷いた。

その時のレイジの笑顔はお菓子を与えられた幼い子供のようにキラキラしていた。

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