12話 嫉妬
リリと別れ自分の部屋に戻りかけたところで学校に読みかけの本を忘れてきたのに気が付いた。
本だけならわざわざ取りにいく必要はないのだが本の栞は昔ジェード様から貰った大事なものだ。万が一無くしたら私が泣く。
大事なものなら鍵のかかる場所にしまっておけばいいとメアリーに言われたけれど私が栞を使っているのを見たジェード様がもの凄く嬉しそうにしていたのを見てから、本を読む時には必ず使うようにしている。
使い続けるうちにあの栞は私のお守りになっていた。
まだこの時間なら学校は開いてるよね。急いで取りに行こう!
私は足早に学校に戻った。
◇◇◇
夕日が照らす教室に入り、自分の机から本を取り出して読みかけ部分に挟まっていた栞を確認する。
よかった、ちゃんとあった!
安堵した私は本を胸に抱えてまた来た道を戻る。
誰も居ない教室を出て廊下を曲がろうとした時人の話し声が聞こえた。
声からするに女子生徒だろうか?
廊下の角からこっそりと様子を伺ってみると薄桃色の髪が見える。
こちらに気がついていないけれどここから見える横顔は間違いなくアンジュだ。
その隣に立つ人物に視線を向けて私は心臓をぎゅっと掴まれた様な感覚に陥った。彼女と一緒に居たのはジェード様だった。
誰もいない廊下で二人は向かい合っている。距離も何となく近い気がした。
……どうして二人きりでいるの?
心の底から嫉妬心が顔を出すのを感じて思わず本を抱える手に力を込めた。
何を話しているのか気になって耳を澄ませる。
「……だから私は分からない所を教えて欲しいだけなんです。放課後とか昼休みとか……少しの間でいいのでお時間もらえませんか?」
「……先程から何度も言っていますが、分からない部分があるなら授業で質問の時間を作るとお答えしています。その方が他の生徒達の理解も深まりますから。わざわざ二人きりで時間を取る必要性は感じません」
「二人きりの方が集中して教えてもらえるじゃないですか、その方が理解だって深まります!」
会話から察するにアンジュがジェード様に二人きりの個人授業をお願いして、ジェード様がそれを拒んでいるといったところか。
食い下がるアンジュの様子からしてレイジの言っていたアンジュはジェード様に興味があると言うのは本当のようだ。
私の婚約者なのに……。
モヤモヤするけれどジェード様がアンジュを拒絶してくれるのは嬉しくもあった。
「ね?いいでしょジェード先生。お願いします」
拒絶し続けるジェード様に痺れを切らしたのかアンジュは甘えた声で話しかけながらそっと手を伸ばしジェード様に触れようとする。
気が付けば私は飛び出していた。一気に二人に駆け寄るとアンジュをジェード様から乱暴に引き剥がす。
突然現れた私の姿にアンジュは目を丸くしている。背を向けているから見えないけれどきっとジェード様も驚いているに違いない。
「私のジェード様に触らないで」
そう告げるとアンジュを睨み付けた。