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1話 留学


「……あなたが好きです」


桜の花がひらひらと舞い落ちる校舎裏。

そこで一組の男女が向かい合っていた。

目に入ってくるその光景に、聞こえてくるその言葉に、強く胸が締め付けられる。

飛び出したくなる衝動をこらえて私は物陰に身を潜めた。



どうして…!なんでこんな事に…!



そう思ってしまうのも仕方ないと思う。

向かい合う男女……男性の方は私の婚約者様で、女性の方は可憐で儚げな少女――この学園を舞台にした乙女ゲームのヒロインなのだから。











◇◇◇◇


「という訳で、フォトン国の王女殿下を我が校に留学生として迎えることになりました。アリス王女殿下、簡単にご挨拶をお願いできますか?」


「はい」


教師からの紹介に私は一歩踏み出し生徒達の前で挨拶をする。


「ただいまご紹介いただきましたアリス・ディアナ・フォトンと申します。皆様、どうぞ宜しくお願いします」


「えー…フォトン国と我がフローライト国は長く友好を深めてきた国どうしでありまして―――」


話し始めた教師になんとか自己紹介と言う山場を乗り切った私は小さく息をはく。


私の名前はアリス・ディアナ・フォトン。

フォトン国の第一王女であり転生者でもある。

私が転生したのは乙女ゲームのちょいやく王女。兄が攻略対象者だったが、ヒロインに攻略されることはなかった。そのうちゲームの期間が過ぎ、私は幼いころから想いを寄せていた兄の護衛騎士であるジェード・オニキス様と婚約することが出来た。


やがて十七歳になった私は、両親の薦めで隣国であるフローライト国の学校へと留学した。


一年間留学して国内の事だけでなく世界に目を向け、次期国王である兄を支えることが出来るようにと両親はフローライト国で一番歴史のある学校へと送り出してくれた。この学校は貴族や王族はもちろん実力があれば身分関係無く入学できる学校で、生徒の三分の一は平民らしい。

寮は貴族と平民で別れているがクラスはごちゃ混ぜになっていた。

私が編入したクラスも例外ではない。





教師の説明が終わり、連絡事項の伝達が終わると授業が始まるまで十分ほど時間がある。

自分に与えられた席に腰掛け授業で使う教科書を準備していると、一人の女子生徒が話し掛けてきた。


「アリス様、はじめまして!私、アンジュって言います!良かったら仲良くしてくださいね」


薄い桃色の髪をふわりと揺らし無邪気に微笑みながら声をかけてくるその生徒――アンジュの姿に教室の中はしん、と静まり返った。



え、なに?



声をかけられた事よりも静まり返ってしまった事に驚いて、中々返事ができずに居ると私とアンジュの間にもう一人の女子生徒が割り込んできた。

こちらは艶のある黒髪を肩まで伸ばしたいかにも真面目そうな女子生徒である。


「貴女何を考えていますの、こちらの方は他国の王女殿下ですのよ。いくらクラスメイトといえその様な無礼な物言い、不敬ではありませんか!フローライト国の品位が疑われてしまいますわ!」


声を荒げる女子生徒にアンジュはたちまち目を潤ませて一歩後ろに下がる。


「そんな言い方、酷い…リリアンヌ様…私はただ他の国の方とも仲良くできたら素敵だと思って…」


「国を越えて友人関係を築くことは確かに素敵なことだとは思います。けれどもう少し自分の立場を考えて発言されてはいかが?貴女の様な平民がこの国の基準だと思われてしまえば我が国の恥ですわ!」



えーっと、私はどうしたらいいんだろう。



二人の生徒のやり取りを見ながら助けを求めるように辺りを見回してみても、クラスメイト達は目を反らす。関わりたくないのだろう。



放っておきたいところだけど声をかけられたのは私だし、私が何とかしなきゃいけないのかなぁ。



面倒くさいと思いながら立ち上がり事態を収集すべく一歩近づいた。


「二人とも落ち着――」

「リリアンヌ嬢、そこまでだよ。アンジュ嬢も、落ち着いて。彼女が困っているだろう?」


私の言葉に被せるように口を開いたのは一人の男子生徒。

落ち着いたダークブルーの髪に整った顔立ちの彼はフローライト国の第二王子、レイジ・フローライトだ。

レイジは私の方を見るとぱちんとウインクを飛ばしてくる。



この国に来て挨拶した時にも思ったけどチャラい王子だなぁ、見た目は結構恰好いいのに……。

ま、うちのお兄様のほうが断然素敵だけどね!



私の兄はとにかく顔も性格も完璧だ、唯一欠点があるとするならば重度のシスコンであることだろう。

身近に完璧な王子が居るのでつい比べてしまうのは仕方がないと思う。

曖昧に笑いかけるとレイジは言い争っていた二人を宥めて自分の席に戻らせた。

チャラくてもさすがは王子と言ったところか。



でも初日からこんな事になるなんてついてないなぁ……。



吐き出しそうになるため息をなんとか押し止めながら、私は今後の留学生活が穏便に過ごせるように願うのだった。

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