実況再び
「かかってこいや、クソショートがああああああああああ!!!」
ショートの雄叫びにも負けないくらいの大声を張り上げ、カリヤは一直線に走り出した。
対するショートは、カリヤが走ってくるのを見るやいなや腕の筋肉を強ばらせ、再びパンチを繰り出そうとする。
カリヤの何十倍もあるその体から放たれるパンチの威力は、実際に受けたカリヤからしても脅威となっていた。
だが、カリヤは臆せずむしろお返しとばかりにパンチの動作を見せる。
「UGAAAAAAAAA!!!」
次の瞬間、ショートとカリヤのパンチが交じり合う───
「なんてな」
はずだったが、カリヤが瞬時にショートの股下をスライディングしたおかげでショートの殴打は空振りに終わった。
「真正面から受けるわけねーだろばーーか!」
そしてカリヤは角を曲がり、挑発するようにショートに罵詈雑言を浴びせる。
「ほらほら、図体ばっ~~かりでかくても当たんなきゃ平気だもんね~~だ!!」
追撃とばかりに、ショートによる突進がカリヤを襲うが、間一髪の所でカリヤは避けることに成功した。
「あっかんべーーー!!!」
その後も、ショートの攻撃を避けては煽り、避けては煽りを繰り返しながらカリヤはその場から離れるように移動をしていった。
その煽りが加速していくにつれ、ショートの攻撃も回数を増し、初めはなんとか避けることが出来ていたカリヤもいくつか擦り傷を負っていた。
よし。これでいい。これで逃げ続ければいつか人のいる通りで助けを呼べるはず。
そうすりゃ、あの男の子の無事も確保できる!
しかしどれほど時間をかけても人通りに出ることが出来なかったのに、これが最善だと思っているはずのカリヤ自身が、本当にこれでいいのかと思い始めてくる。
もしかしたら、ショートを倒すことが最善なのかもしれない。と、カリヤの持つ本能が言っている。だが、カリヤは自分のやろうとしていることを曲げない。いくらかっこ悪くとも命を守るための行動なのだと自分を戒める。
「わっ…………と………今のは危なかったな……っ」
なんとなくだが、ショートの動きも予測しにくくなっている気がしたカリヤは、突破口を模索しはじめる。
「倒すのは無理だ。うん、絶対無理だ。
駅で俺を助けてくれたあの女神みたいにぴょーんって飛んで、バンバンッてショートを倒せたらカッコイイし即解決するんだけどなー……
如何せん俺って弱いし、取り柄といえば勘ぐらい……って、ネガティブになるな俺ー!」
と、走りながら模索しているカリヤは、通り過ぎた家に目が釘付けになった。
「この家、窓が一つしかないな……小さいし、外から鍵がかけられそうだ……」
カリヤの脳内で再び実況者が暴れ出す。
おっとカリヤ選手、家へと駆け込む! それを追うショート! が、しかし!!
おや? そこにはカリヤ選手の姿はいなーーい!
おおっと!! 外から鍵がかけられたー!! ショート、出られなくなってしまいましたーー! これは痛ーーい!!
このままカリヤ選手は逃亡に成功ーー!
ハッピーエンドまっしぐらだぁあーー!!
「これだ」
カリヤは素早くその案を採用した。
つまりはこういうことだ。
①家に駆け込む
②窓から脱出
③鍵をかける
④ショート捕獲
「完璧かよーーー!」
と、カリヤが歓喜の声をあげるちょうどその時ショートがカリヤの視界に現れた。
「………いっちょやってやるぜ……」
ショートはカリヤを探して殺気立った目で辺りを見回している。その様子を窺い、ショートに気づかれないように近づき、ショートに声が届くように口に手を当てる。
「おーーい!! ここだよーー!! 捕まえるもんなら捕まえてみろーー!!」
声が聞こえた瞬間ショートは勢いよく振り返り、四足歩行にて駆け出す。
「きたきたきたぁ!」
カリヤは瞬時に家の入口へと駆け込み、ショートが入りやすいように大きく扉を開く。
「さて、と窓窓………」
嬉嬉として捕まえる想像をかきたてながら、カリヤは窓のある方へと、棚や机を利用しながらかけ登り、窓に手をかける。
「……………あれっ……?」
開かない。鍵も取っ手もない。
「いや、まさか、そんな」
横や縦にスライドしてみる。も、開かない。
「は、はは……いや、そんな」
カリヤの手には汗が滲み出す。
急に冷静になったカリヤは、この窓が開かない窓だと悟ることが出来たがこの後どうすればいいのか分からなくなる。
入口も出口も、あそこだけ。
他に外に出る手段は………手段は………
入口に迫る大きな影は、カリヤがいる部屋の端からでも認識出来た。
逃げる手段は、なくなった。
「GAAAAAAAAAAAAA───!!!!!!」