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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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兄ダイ

「───ドカンッ、ドカンッ、ドカンッ」


 黒く陰鬱な目をした男が楽しそうに口角を上げる。

「爆発で飛び散った火花は、ドこに向かうか分かるか?」

 生徒に質問をする教師のように問いかける男は、手元に持ったナイフを回転させる。しかし、男の足元に転がされ手足を拘束された者が答えることはない。


「………簡単な話ダ。古ダイ遺物は飛び散った火花に反応してダイ爆発を引き起こす。あの盆地はヒトと共に散るのダ」

 背中に拘束された腕を揺らして、苦しげにその男──クルックは背後の人型ショートを睨む。

「説明ありがとうございます。ところで呼吸がしにくいので、いい加減この拘束解いてくれませんかねぇ……?」

「断る。それが俺に物を頼むタイドか? なら折ってやった足を切り離してもいいんダが?」

「……っ」


 ───玩具みたいに遊びやがって。


 内心で思ったことを言えばおそらく今度こそ殺される。クルックは痛む右足をちらりと見てから大人しく口を閉じる。

 地面に転がされてから、ひたすらショート側の作戦を説明された。しかもわざわざクルックに問いかけ正解を答えるのを待ち構えるように。

 しかし、足の負傷に加え周囲を犬型ショートに囲まれた今、脱出は不可能だろう。ただでさえクルックのプラグは戦闘向きではない。


「───いい加減、認めたらドうダ?」

「………なにを」


 低い声で応答したクルックは憎らしげに眉間に皺を寄せる。


「お前がこちら側ダ。ということダ」


 黒髪で白衣を着たショートは自らの胸元を指さしながら、ナイフをクルックに向ける。その切っ先を徐々にクルックの顔に近づけ、あと数ミリ動けば眼球に傷がつく距離にまでショートが腕を伸ばす。


「………はっ、なにを」

「もちろん、ヒトの肉体をしたお前は所詮ヒトに過ぎない。ダが、お前のその中身は我らと似通っている。違うか?」

「………違いますねぇ、残念ながら僕の中身は俗にまみれた汚い人間なので。あなたのように、離れた戦場を盗み見れる程の高等なものではないですからぁ?」

「よく回る口ダ」


 スパッ、とクルックの唇が縦に切れる。そこまで深い傷ではないが、口の中に鉄の味が広がる。むしろ喉が乾いていたので丁度よかった。


「なら、質問をしてもいいですかねぇ」

「………ほう」


 ショートは、唇を切った程度では黙らないのか、と微かに呟いて懐に入れていた紙にペンを走らせた。


「いつの間に隊員達の体内に爆弾を?」


 ペンの動きが止まる。

 それを好機と見たか、クルックは一段と大きな声で問い続けた。


「あなたはこの盆地に来るまでの間に残した人体のパーツを爆発させ証拠隠滅を図りましたよねぇ? どうやら薬品を使い、人間側に悟らせないような工夫を施すのがあなたのやり方。であれば、隊員に爆弾を仕込んだのはあなたでは?」

「……やはりお前は賢い。ますます欲しくなるな」

「で? いつ仕掛けたんですかねぇ?」


 クルックはショートからの賞賛を完全に無視して、質問の答えを急かす。ショートはその反応に少しだけ眉を上げたが、ナイフを引っ込めると同時に遠く離れた盆地を見上げる。



「──今さっきダ」

「っ、は……?」


 ──今さっき? 今さっきと言ったかこいつ?


 クルックはあまりの衝撃に目を見開いた。三十分以上ここで問答を繰り返していたはずだと頭に言い聞かせるが、まさか目の前の人型ショートがもう一人いる訳ではあるまいな。


「っあ、ああ……なるほどぉ? 動物型のショートを使ったんですねぇ?」

「………」

「っ?」


 しかし人型ショートは何も答えない。その反応を見て、クルックは既視感を覚えた。ショートは視線を落とすと、クルックの無事な方の足を見る。


 ───まさか。


 クルックの左足首にショートの手が添えられ、そしてそのまま──


「っ~~~~~!!??」


 足首が外側に九十度に曲げられ、骨の折れる音がクルックの耳にも届いた。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い───!


「っ、ぐ、ぁ………っふ、不正解、っのときに、骨、を折るなんって………っづぁ……」


 身動ぎ一つしただけで痺れるような痛みが脳天へと伝わる。これでクルックは両足とも折られ、無事なのは胴体と頭と、喋り続ける口だけだった。

 正解すれば甘い勧誘。間違えれば痛い仕打ち。タチの悪い催眠のようにも思えた。

 しかし、折った側のショートも不快な表情を浮かべていた。まるで正解するのを期待していたような様子で、クルックは歯噛みした。


「残念ダ。ダが惜しいな。もう少しダった」

「……っは、もう少し?」

 次第に呼吸を落ち着かせ、クルックは言い返す。


「ああ。ショートはショートでも、そこら辺の有象無象じゃない」




「──この俺が、ヒトに爆ダンを埋め込んダ」





 ひくり、とクルックの口の端が吊り上がった。


「……己を非力だと、言いましたよねぇ?」

「ああ、もちろん」


 そしてクルックはふと気づいた。周りにいた筈のショートの姿が見えない。視界が低いクルックはどうしたって犬の足を見ざるを得ないのに、その獣の足が見えない。

 その代わり、段々と足音が近づいてくるのが分かった。


「ダが俺達は()()()。ドうして兄ダイが二人ダけダと言いきれるんダ?」

 足音の数は一つや二つじゃない、そして、どうして自分がまだ生きているのか。不思議でしょうがなかった。


 無数の視線がクルックの背中を見つめる。



「こんにちは。いや初めましてのほうが正確か」



 ───こんなのを相手にどうすればいいんだ。



「俺の名前はダイモス。そしてここに居るのが………」



 クルックが顔を上げた先にあったのは、同じ人物の顔、顔、顔。黒髪に暗い眼差し、真っ白な白衣を身にまとった────









「俺の兄ダイ達ダ」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っはぁ………しくった」


 火がなおも燃え広がる屋敷。カリヤは壁に手をつく。その手のひらからは血が滴り落ち、背中には血が滲んでいた。

 ヒールが使えないことに今更気づいたカリヤはため息を吐く。


「サエカさんに治してもらえれば……って、無理か。とりあえずファザーと子供を連れ出さないと」

 屋敷に来てから人型ショートに襲われ、サエカのお陰で屋敷内に入れたものの、何故か正気を失ったタイガに殺されかけ、酸素の薄い環境の中、カリヤは混乱の極みだった。


 ───キク。


 タイガはそう何度も何度も叫びながらカリヤに襲いかかってきた。もしかするとアズキの言っていた、"大切な人"なのかもしれない。するとタイガが正気を失っていた理由も当てがつく。


『タイガは、大切にしたいと思った人を火事で失ってしまったの。そのショックのせいか、火事を見ると体が言う事を効かなくなる……そういう症状に悩まされている』



「………なるほど」


 タイガの唯一といってもいいほどの弱点。それを知った今、少しでも人間味のある部分があったのかと喜ぶべきだろうが、あそこまで暴れるタイガを目の当たりにしたカリヤは、そんな風には思えなかった。


 まるで、自分のようだ。と、思う。


 カリヤの人生における親友──フタミも、火事のあった夜に目の前から消えた。大切な人が居なくなる瞬間、その場所、光景がトラウマになるのは当たり前だった。

 だからこそ、タイガにはいつも通り接した。むしろ「俺は怒っているぞ」という意思表示を見せた。

 誰だってトラウマを抉られたら嫌だし、触られたくもない。

 ───ほんとは、助けられる力を持っていながら助けることよりも戦うことを優先するタイガが気に食わなかっただけだが。


 壁に手をつきながら角をまがると、廊下の壁に背を預けて倒れている男性とその男性に寄りかかる少年が見えた。


「! ファザー! 流星!」


 カリヤは痛む背中に鞭打ち、ファザーと赤髪の少年──流星の元へと駆け寄る。


「………っ、きみは………」


 頭から大量の血を流しているが、ファザーは意識があるらしくカリヤの声に反応した。流星は何故かぐったりとした様子でファザーに寄りかかっているが。


「俺だよ、カリヤ。屋敷が燃えてるのが見えて………早く逃げなきゃ、立てるか?」

「し、しばし待て……今は治療中なのだ。もう少ししたら回復すると思うのだが……」


 そう言われてファザーの手元を見る。緑色の光がファザーの手から放たれ、ファザーの足元を癒しているのが分かった。


 ────って、


「えええ!? ふ、ファザー……あんた、軍の人間だったのか!?」

「元だ」

「そ、そっか………」


 そういえばナガレ村の村長も、元ショート対策軍に所属していたと言っていた。ならばファザーが元軍人でもおかしくはない。おかしくはないが……


「もしかして俺たち居なくてもパトロールぐらい出来たんじゃ……」

「いや………、それは無理だ」


 ファザーはそう言ったっきり、黙り込む。傷が余程痛むのか。カリヤは改めて廊下を見回すと、爪で引っ掻いたような跡が残っているのに気がついた。それにしても息苦しい。


「……あとどのくらいかかるんだ?」

「すまない、なにぶんヒールが苦手で……それよりも彼はどこだ?」

「彼? ああ、タイガのことか?あいつなら一階に………」


 それを聞くと、ファザーを顔を顰めた。タイガはファザーと流星を見つけたところまでは記憶を持っていたし、何か知っているのかもしれない。


「ファザー、聞きたいことがある」

「なんだ」


 ────キク。そう叫んで、いや嘆いて暴れ回ったタイガ。なにかのきっかけがあったはず。カリヤは固まり始めた血を砕くように手のひらを強く握りしめた。


「タイガが言ってたんだが、キクって…………」








 身を乗り出そうとして、止まった。体が動かない。


「──?」


 ふと体の中心が熱くなるのを感じて、視線を落とす。自分の腹部。白い上着と緑色の腰巻が見えるはずのそこには、何故か赤く染まった腕があった。

 ごふっ、と喉の奥から血が溢れ出る。視界もぼんやりとしてファザーの顔が見えない。ファザーがなにかを叫んでいるのが聞こえたが、よく聞き取れない。


「───! ───!」


 ───なんだ、なにを言ってるんだ?


 聞き取ろうとして、前かがみに倒れ込めば腹部を貫通していただろう腕が引き抜かれる。



「っぁ」



 倒れる瞬間、自分の腹部が見えた。腕一本分の穴が空いた、自分の腹。背中の傷と手のひらの傷で痛みが麻痺したせいか、痛みが遅れてやってきた。


 けれど、多分その前に。







 ───目の前が暗くなる。


 


 


 



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