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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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自由の身

───水浸しの廊下に、水滴の落ちる音が響く。すでに天井からの雨は止み、廊下に立ち尽くしていた人物は、浅い呼吸のみを繰り返す人物を上から見下ろす。


 すでに重傷を負い、壁に身をもたらせる姿を哀れとも惨めとも思わず、男はそのまま先を歩いていく。

 廊下には至る所に爪で引っ掻いたような深い傷跡が残り、湿っていた筈の絨毯は所々焦げ落ちていた。


「ハンデにも………ならないと、いうのか……」


 神父は壁にもたれ、頭から流れる血を震える手で拭う。

 既に武器である十字剣は根元から折れ、廊下に転がされていた。


 神父の声に反応して、足を止めた男は返事をするように人差し指の先に火を灯す。



「何事にも練習あるのみ。ですよ」


 男はそのまま人差し指に灯した火を屋敷の壁に放ち、神父を置き去りに屋敷の階段を登っていく。

 階段を登った先、その奥にはまだ多数の子供らの気配があり、全員が一室に固まっているのを男は感じていた。


「今度ハどうやって観察しましょうか……以前ハただただ観察するだけでしたが、今回は殺し合いでもさせてみましょう」


「悪趣味ダぞ」


 男の独り言に口を出したのは、窓枠に寄りかかるまた別の男───妙にダ行の発音がおかしな片割れ。

 フォボスはにたりとした笑みを浮かべ、自分の片割れに声をかける。


「ダイモス、そう言うお前だって似たようなものでしょう?」

「一緒にするな。それより、やたらと時間がかかっていたが、なにをしていた?」

「因縁をね、精算していたんですよ」

「因縁…………あぁ、五十年前のあの若造か。くダらない」


 ダイモスはそう言い捨てると自らの黒くクセのある髪を掻き、窓枠から屋敷内へと飛び入る。


「ようやく人間ドもが、ばくダんのことに気づいたようダ。準備はデきているか?」

「えぇ、もちろん。先ホど、ちょうどよく練習が出来たので、フビは無いですよ。それに……」

「それに?」



「子供らのホかにも収穫がありそうなので」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うん!?」

「あら」


 オケナガス盆地の入口にて、ナガレ村から走ってきたカリヤとタイガの目の前に現れたのは桃色の髪を靡かせる女性──アズキだった。

 アズキがいることにも疑問を覚えたが、それに加えて盆地の様相が最後に見た時とは明らかに異なっていた。



「あ、アズキ…!? なんでここに……っていうか、なんだよこの檻……まさか、そういう趣味が……」


 ───ありうる。

 アズキとの邂逅時でさえ、初対面の人間を牢屋に閉じ込めた女だ。隊員を檻に閉じ込めることだってやりかねない。


「俺は嫌だぞ……!! もう指名手配されるのは懲り懲りだからな!?」

「……何が言いたいのかはなんとなく分かるわ。でもこれは私の仕業じゃないわよ」

「え……? アズキの他にこんなことやる人なんて……」

「あのねぇ……」


 真剣な様子で顎に手を当て悩み始めたカリヤの頬を、アズキが掴み引っ張る。

 

「いたたた……!!」

「こんなことするのはショートしかいないわよねぇ……?」

「わ、わかってるわかってる!! 俺たちだって、さっき人型ショートに遭遇したんだから!!」

「!?」


 若干頬をつねり出したアズキだが、カリヤの一言に咄嗟にカリヤの頬から手を離した。代わりにカリヤの肩を掴むと、檻からかなり離れた場所へと移動する。


「やっぱり人型ショートが関わってたのね……」

「やっぱりって? ひょ、ひょっとしてお前また俺に仕向けたんじゃ……」

「仕向けてないわよ。前だって仕向けたんじゃなくて、様子見をしたっていうか……」


 互いに頭を突き合わせてごにょごにょと言い合いをしている内に、タイガが二人の元へと近づく。


「アズキさ……アズキ。この手錠を外してくれないか?」

「え? あぁ……そうね……うーん」

「そうだそうだ!! いい加減手錠が鬱陶しいんだよ!!」 


 タイガの主張に合わせ、カリヤも不服を露わにし、文句を垂れるがアズキに頬を鷲掴みされ口を塞がれる。

 アズキはアズキで、手錠を外してもよいものか思案をした上でタイガへと向き直る。


「……今外さなきゃダメかしら。見ての通り、私がここに来たわけだし、ショートに閉じ込められた隊員だって実際今のところはなんの実害もないわ」

「……」

「とりあえず、目下の問題は人型ショートが居る状態でカリヤのコンセントが壊されることよ」


 アズキはそう言って頬を掴んだまま、カリヤを指さす。

 一方指さされた側のカリヤは目をぱちくりと開き、数回瞬きをする。



「ひゃんれ?」

「なんで、って……忘れたの? 貴方を監視していたのは、もう二度と暴走状態にさせないためよ」


 ───以前、カリヤは覚えていないが、後々クルックに見せられた映像を見た。そこに映っていたのは凶暴な獣のように人型ショートに飛びかかる姿。

 元々暴走状態に陥ったのは、人型ショートの手がカリヤのうなじのコンセントに触れてしまい、一度人間の死が訪れたためである。

 何故その後も生きながらえ、むしろ生前よりも強い力を出せるのかは未だ謎だが、とにかくそれがダメらしい。


「上層部には、プラグの不使用とタイガによる監視を条件に下位戦闘員にまで昇格してもらったんだから、それを違反したらクビよクビ」

「うわ……嫌な言葉……」


 アズキの言い様ではクビどころでは済まないような気がしたが、カリヤはそれを胸の内に秘めておくことにした。

 しかし、タイガは我慢がならないらしく仕切りに話しかける。


「だが……ショートは俺の手で……前のショートだって大したことはなかった! 俺ならばできる……!!」

「でも……」


 アズキは眉間にシワを寄せ、タイガを見つめる。その瞳には猜疑心と戸惑いが綯い交ぜになったような感情が窺えた。

 カリヤはこれでは埒が明かないと思い、助け舟を出すことにした。


「アズキ、だったらアズキが俺を監視すりゃいいんじゃねぇの?」

「………はぁ」

「な、なんだよ」


 徐ろにため息を吐いたアズキは、自らの袖の裏側から小さな鍵を取り出す。

 そしてカリヤの左手首を掴むと、赤い手錠の表面を撫でる。


 すると不思議なことに今までなかった筈の鍵穴が現れ、アズキはさも当然かのようにその鍵穴に鍵をさしこみ回す。

 途端カリヤの左手とタイガの右手を繋いでいた手錠がするりと外れ、二人は自由の身となった。


「おお……外れた」

「感謝しま………感謝する」


 だが、アズキは代わりにカリヤの首を掴むとタイガに忠告をする。


「いい? ショートを倒せそうなら倒すというスタンスで挑むのよ。無理なら無理ですぐに帰ってきなさい」

「な、なんか……タイガに対しては優しくねぇか……? って、ちょ、ぐぇ……」

「カリヤ、貴方はそれでもプラグは使えないんだからここで大人しくしてなさい」

「わ、分かったから……ぐ、ぐるじい……」


 バタバタと暴れるカリヤを力づくで押さえ込み、アズキは心配そうな表情でタイガを見る。



「本当に……大丈夫なのね? いつものアレは出てないのよね?」

「ああ……大丈夫だ」



 タイガは一瞬答えに戸惑ったが、努めて正直に反応し、背中の大剣を抜く。

 目線だけでアズキへと振り返り、タイガは今来た道とは別方向へと走っていった。


「あいつ……どこに行くつもりなんだ……?」

「あら、知らないの? タイガは感知能力が並の人間の倍以上あるのよ」

「ば、倍以上!?」


 見覚えがないわけではない。

 梅にアルバイトをクビになった後、急にカリヤを引きづって走り出し、その先にショートに襲われている人がいる場所にたどり着いたのを思い出した。

 あの時、確かにタイガは『見える』と言った。


「それってもしかして、良い資質を持ってるから~ってやつか?」


 もしもそうならば、タイガはいくつ天賦の才を持ち合わせているのやら。

 そうなればこの世は資質が全てということになってしまう。


 しかし、アズキは首を横に振る。


「いいえ、あれは私みたく、血筋でしょうね」

「ん? アズキにもそんなのあったか? ただの脳筋だと………」

「その口壊死させてもいいのよ?」

「すみませんすみませんまじでごめん」


 ちょっとした軽口を交えつつ、カリヤは徐々に体勢を整えアズキの隣に座る姿勢になる。

 アズキは座り疲れたのか、立ち上がり檻の方とは反対側、駅の方向を遠く眺める。



「────他人の資質を見る能力。これは私の家系が代々持っている力よ。おかげで父は対策軍大将、祖父は参謀総長……嫌になるわ」



 元々お嬢様だとは思っていたが、すでに親類の地位が馬鹿みたいに高い。

 それを嫌だと言うアズキもどうかと思うが、アズキの横顔を見ているとそんなことを言う勇気は出なかった。

 話を戻そうとカリヤは話題を切り替える。


「んじゃあ、タイガも血筋上感知能力が高いってことなのか?」

「血筋……とは違うかしら。赤髪特有って言えば正確ね」

「赤髪……」


 カリヤの脳内では、ムーンと呼ばれる人型ショートと、そのムーンを知るもう一人の人型ショートが浮かび上がる。

 ショートに特有の、血のような赤い毛先と末端。どこか、繋がりがあるような気がした。


「そのせいでタイガは幼い頃……酷い目にあったらしいわ」

「らしい? お前がタイガを雇ったんだろ? お前なら調べ尽くしそうなもんだけどな」

「雇ってないわ」

「は? どういう……」



 アズキは自身の髪を人差し指と親指で弄りながら、記憶を遡る。


「拾ったのよ。あなたと同じように」

「…………はっ、いやいやあんな獰猛なやつがそこら辺に転がってたら命がいくつあっても足んねぇよ?」

「獰猛………そうね。確かに獰猛だったけど、やっぱり拾ったが正しいわ」


 ───?

 アズキの声にはいつもの自信が足りない。カリヤは不思議そうにアズキを見上げ、首を傾げる。



「丁度いいわ。カリヤには話しておいた方がいいわね」

「な、なにを……?」

「タイガのことよ」


 遠くでは電車に乗り込む一般人が互いに身を寄せ合い励ましあっているのが見え、その不安をかき消すようにサエカが声がけをしている。

 今は日没、夕日が盆地にさしこみ地面や草木を橙色に染めていく。

 アズキはあの日もこんな夕暮れ時だったなと呟いて、その先を話す。



「タイガは、大切にしたいと思った人を火事で失ってしまったの。そのショックのせいか、火事を見ると体が言う事を効かなくなる……そういう症状に悩まされている」


「………は」


「だから私が来た訳だけど……爆弾は檻の中だし、杞憂だったわね」


「い、いやいや、ちょ、ちょっとまってくれ」


「?」



 カリヤはここまで来るに至って見たこと体験したこと、全てを思い返す。

 ───火を操るショート、人型ショートが村を襲った、その村は火事で全焼………



「だ、だめだ!! なおさらタイガを行かせちゃダメじゃねぇか!!」


「ど、どうしてよ」


 カリヤは立ち上がってアズキの肩をとっさに掴む。






「───アイツが倒そうとしてるショートが、まさに火を操ってんだよ!!」






 






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