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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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古代遺物

「な、なにをす……もがもが…!!」

「いいから、貴方は少し黙っていてください!」


 ケンジは慌ててルーカスの口を塞ぎ、暴れる体を取り押さえる。だが、時既に遅かったらしくルーカスの叫び声は檻の中に閉じ込められた隊員たちの耳に届いた。  


「ば、爆発するって!?」

「え? なに? どういうこと!?」

「誰かが俺たちを殺そうとしてんだろ…?」

「誰かって誰よ!!」

「そりゃお前……この檻を閉めたやつしか考えられないだろ……」


 「爆発する」というルーカスの発言によって、既に不安でいっぱいだった隊員たちの憶測が次々に飛び交う。

 檻に閉じ込められた割にショートの襲撃もなくただただ放置されているこの状況はむしろケンジにとっては有難かった。非常時において一番なってはいけないことがパニックである。ケンジは混乱した状態で明らかでない情報が流れた際、一気に指示系統がままならなくなることを恐れていた。

 それが、まさに今。


「なんてことを……」


 ルーカスに非はない。いや、非はなくはない……か?

 誰だって今立っている場所が爆発すると言われれば動揺もする。問題は本当にこの情報が確かな物か、確かな物であれば対処すべきということだ。

 導はいち早くそのことに気づいたのか、ルーカスを取り押さえていたケンジに代わってクルックに詰め寄る。


「その情報は貴方様のおっしゃる、"お嬢"という方からということでしょうか?」

「え…? えーと、確かケンジ班班長の右腕の……」

「はい、導。と申します。それで、出処は……」


 パニックの様子を青い顔で呆然と眺めていたクルックは導に話しかけられて我に返った。一方の導はつとめて冷静に自分の素性を明かし、現状把握を試みている。


「あ、ええ~と、お嬢っていうのはアズキ班のアズキ上位戦闘員のことなんですけどぉ~、え~……要約するとですね……」


 ケンジにとってアズキは目の敵にしている存在でもあるが、今は時を争う。ケンジはクルックと名乗る青年の言葉に耳を傾ける。

 

 クルックはこの数日に起きた不可解な事件を手短に説明してくれた。

 そしてその事件の起きた場所が一直線上に並んでおり、その行く先がオケナガス盆地であったらしい。


「そして、いずれの事件でも爆発物が置かれその度にショートが出現した……と」


 クルックの話を聞いた導は顎に手を当てて考える。話を聞いた限り、ケンジの見解ではまるでオケナガス盆地を爆破するという脅迫ともとれる。

 ルーカスも暴れる元気はなくなってきたのか、ケンジは引きずりながらクルックと導の会話に割り込む。


「ただの偶然ではないにしても、確かに関連性はありえますね……ですが、如何せん根拠が足りません。もう少し確実性が欲しいところです」

「話はまだ終わってませんよぉ~、オケナガス盆地に何があるか知ってますか~?」

「何があるか……?」


 ケンジはふとオケナガス盆地の成り立ちを脳内でさらう。確か古代の大戦中に出来た大穴が後に盆地となり、その影響で盆地の中心にはパラボネラの芽が芽吹かず、ある期間だけショートが出没してしまう土地になった……とケンジは幼い頃に習った。

 そして、古代の大戦という言葉に引っかかりを覚えたケンジはハッと顔を上げる。



「そうか、ここは古代遺物の宝庫……!! 古代の大戦で残った遺物が発掘される場所でもある…もちろん、大戦で不発だった物も……」

「お嬢と僕で頑張って調べたんですよぉ…? まさかこの盆地の地下深くに不発の爆弾が埋まったまま……だなんて、想定外だったんですけど」

「我々を閉じ込めた者は、その不発弾を着火させようと…? それになんの意味が……」


 ケンジはルーカスの瞳を見つめ、その先の言葉を目線で促すが、ルーカスは口角を上げたままふいと横を見る。

 つられるように導とケンジも横を見ると、そこには慌てふためく多数の隊員──総勢およそ50余名。


 ─────これは、してやられた。


 今日何度目かの悔しさにケンジは歯切りし、ようやくルーカスの口から手を離す。


「ぶはっ!! はぁ……はぁ……、や、やっと呼吸ができる……!!」


 ケンジの手によって遮られていた酸素にありつけたルーカスをよそに、ケンジは自分の顔を手で覆う。

 

「ケンジ……?」


 導はそんなケンジの様子を見て、彼らしくないと感じた。落ち込んでいるのかとケンジの肩に触れようとした瞬間、突然ケンジは立ち上がった。



「皆さん、静粛に!!」


 途端、隊員たちのざわめきが消える。そしてその視線は一斉に声のした方向、ケンジに注がれる。

 その中で、名高い三大班のうちの一角、ケンジ班の班長だと知って色めきだす隊員も何人か見受けられたが、ケンジは極めて真剣に物事を受け止め、隊員達にも事の重大性を伝えるべく胸を張る。


「今、我々が立っているオケナガス盆地、この地下深くに古代戦争にて不発のまま残された爆弾が存在します!!」



 だが、ケンジの言葉を聞いて人々の顔には再び陰りが生じる。このことはケンジ含め導はクルックから聞いた事件との関連から導き出したものであり、隊員達にとっては突然降ってきた話。

 こういった反応が起きるのはケンジにも予想はできた。




「我々を閉じ込めた者は、盆地ごと我々を爆発させるつもりだ!!」


「しかし我々は決して心を折ってはならない!!」


「ショート対策軍の人間として、自身の命、そしてこの盆地を守ることがなによりの優先事項である!!」




 ケンジはプラグを展開させ、左手に本を持つと反対の右手で拳を作り、力強く掲げる。



「迷うな!! 至急、爆弾を発見し我々の力でこの危機を脱するのだ!!」

「うおおおおおおお!!」


 ケンジの掛け声に合わせ、周囲の誰もが高揚し、俯いていた顔を上げ、声高に叫ぶ。その一部始終を隣で見ていた導は安堵の息を零し、ルーカスに肩を貸す。


 一方、その熱量に圧倒されたクルックは呆然とケンジの権威の大きさを実感していた。



「(なるほどぉ……これが指揮官の異名を持つケンジ隊員……閃光のサエカ隊員とはまた違う手強さですねぇ……)」


 ケンジのその後ろ姿はスカーレット監督官にも通じる面があるが、クルックはまた別の雰囲気を感じ取っていた。


 士気が高まる中、ケンジは至極冷静に隊員達に指示を飛ばす。


「探知能力に才のある者は爆発物の捜索を、掘削能力のある者はその手助け、戦闘能力に長けた者は檻からの脱出に助力するよう!! 各自各々の役割を果たしてください!!」


 その指示を聞いてすぐさま隊員達はプラグを展開し、それぞれの役割を果たそうと行動を始める。

 それを見届けたケンジは息を一つ漏らすと、クルックへと振り向く。


「爆弾の情報は他にありますか? もちろん、檻に関してでも構いません」

「ん~……それがですねぇ~……古代遺物ってことだけで詳しいことはなにも……調べる前にここに来たわけなので~……情報上では『パラボネラを練りこんだ特別製の檻』となっていた檻が実は古代遺物だったっていうのも今わかったことなのでねぇ……」

「そう……ですか」


 檻に関しては未知数だ。

 どうして閉まったのか、ケンジはあえて"檻を閉めた者が"この状況を作り出した。と言ったが、それがショートの仕業なのか人間の仕業なのか分からなかったからだ。


 拠点の状況を、あまりにも幼い少女に容易に頼むものでは無かったと今更後悔する。


「また……後悔」


 ケンジは人を鼓舞し指令をする立場にあり、あまりにもその言葉がふさわしくないことに気づいて、慌てて頭を振る。

 そして顔を上げた途端、視界になにか黒い物が映る。 


「?」


 それは檻の向こう。つまり盆地の外側であり、普段ならばそこに存在しない生物であった。

 しかも、それはこちらに向かってくるではないか。


「危ない!!」

「え」


 ケンジは咄嗟に目の前のクルックへと手を伸ばすが檻が邪魔をする。


「七土、一水、二火、前!! 成就(スヴァーハ)!!」


 急いで言葉を紡ぐと、再び波打つ地面から鋭い針状の槍が飛び出す。

 だが、檻の隙間を通ることは叶わず、見えない壁に阻まれ土の槍は砕ける。


「な……」


 ───古代遺物にはプラグによる攻撃も、エフェクトによる攻撃も、ショートによる攻撃も効かない。

 既に習ったことではあるが、実際にその防御力を目の当たりにしたケンジは目を丸くさせる。


 しかしその間にも、クルックの背後からショートは襲いかかろうとする。ルーカスに肩を貸しているため、導は反応が遅れてしまった。ケンジの声を聞いてクルックも振り返ろうとするが、反応が遅い。

 このままでは───


「UGAAAA──!!!」

「ひ、ひぇーー!!」


 だがクルックが犬型のショートに噛みつかれるかというところで、頬を冷気が掠めた。



「───アイススピナー」


 犬型のショート──サーベージドッグの腹には人の拳大ほどの棘が刺さり、そのままショートは檻へと衝突した。

 クルックはどうやら咄嗟にしゃがみ込んだらしく怪我は無いようだ。


 ───にしてもやはり。


「………アズキ、自分の部下の世話くらい一端にこなしたらどうです」

「ふん、あんたの右腕さんの証明証を持ってきてあげただけよ」


 声の主は薙刀を携え、桃色のツインテールを手で払う。

 

「証明証……って」

「これ」


 アズキは証明証を檻の隙間目掛けて投げ、導がその証明証を受け取った。

 確か導の証明証は拠点の様子を見るのを頼んだ少女に渡した筈。


「少女は?」

「保護した。あんまり危険な目に合わせるのもどうかと思うけど……とりあえず拠点の奴らはショートに殺られてたわ」

「………そうですか、あの少女に感謝を伝えておいてください」

「嫌」

「………」



 一瞬ケンジの心には殺意が芽生えたが、とりあえず抑えておいた。



「ん……おや……? 話は……?」

「ルーカス様…!! 大丈夫でしょうか? なんだか酸欠でぼんやりとされていましたが……」

「だ、大丈夫さ……!」


 ほとんど酸欠状態になっていたルーカスがやっと回復したらしく、導の肩を借りつつも目を覚ました。


「爆発するってことは…結局どうなったんだい……?」

「ああ、それは古代戦争の不発弾をショートが爆発させる可能性がある…ということだそうです」

「古代戦争……?」

「ええ。爆弾は古代遺物かもしれません……解除は容易ではないでしょう」


 導は手元の証明証を握りしめて呟く。だが、誰かに肩を強く掴まれる感覚がして目を見開く。

 導の紺色の瞳にはルーカスの顔が映る。


「ルーカス……様?」


 ルーカスは導の肩を掴んでその目をじっと見つめる。彼の表情は焦燥に駆られ、いまにも死んでしまいそうな目をしていた。




「解除は………僕がやる……っ!!」


 



 


 




 

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