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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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梅のおつかい

今回はちょっとだけグロ注意です

 ──場所は再び、オケナガス盆地入り口。檻に閉じ込められた隊員を目の当たりにし、盆地の外側で出店を開いていた一般の人達は混乱の最中にあった。


「た、隊員の皆さんが閉じ込められた……?」

「誰がこんなことを……」


 人々の中には、誰かが隊員達を閉じ込めたと決めつける者もおり、互いを疑い始めるようにまで発展していた。

 

「ポータルで応援を呼んでこれないか…?ファラデー支部になら上位戦闘員だっているんだろう…?」

「馬鹿かお前、ポータルは昨日から壊れてるんだって!」

「ああ、そうだった……」


 先日も出店していた人々にとってはポータルの故障は既に承知済み。一晩帰れなかったことを根に持っている人も少なくはない。こちらから帰ることも出来なければ向こうから来ることもできないという落胆が辺りに充満する。

 


「どうしたものか……このまま閉じ込められた状態が続くのは良くありませんね」

 

 ケンジはその場の空気をいち早く察知し、檻の中の隊員の焦燥ぶりや、檻の外の一般人の混乱状態を見て解決方法を模索しようと試みる。

 その隣で、いまだに状況を把握しきれていないルーカスは息を着く。


「で、でも、ショートは出てきていないようで安心だ……!」

「え? ショートが出てきていない……とおっしゃいましたか…?」


 ルーカスの手前に立ち、檻に手をかけていた導はその言葉に反応を示し振り向く。

 人よりも幾分か身長の高い導は、檻の前に集まっている隊員の頭ごしに盆地へと視線を向ける。


「……たしかに、いらっしゃいませんね」


 普段ならば、盆地には低ランクのショートが常に蔓延り、いないことなどこの期間中は一切無い。そのせいで、夜にこの盆地内を警戒するための部隊さえあるのに、この静まりようは一体どうしたことか。

 そうだ、警戒部隊。

 檻の外にはファラデー支部の拠点があるはずだ。檻の開閉操作はその拠点でも行える。


「すみませんが、そこの方」


 導は檻の前に集まっていた一般人の中でも一際近くに立っていた少女に声をかける。梅の花の髪飾りをつけ、桃色の着物をした給仕服を身にまとっていた幼い少女だ。


「は、はい!? 私の事でしですか!?」

「ええ、あなたの事でございます。折り入って頼みがあるのですが……」

「な、なんでしょう…?」


 生憎と檻の前には人が多く、移動するにも一苦労だろう。しかし、小柄な体躯であれば人並みをくぐり抜けることは容易い。

 導は彼女の目線に合わせるようにしゃがみこむと、自身の身分証明書であるカードを懐から取り出し、檻の隙間から少女に差し出した。


「これをお持ちになって、ファラデー支部の拠点まで言って貰えますでしょうか? これを見せてもらえれば話が通ると思いますので……」

「拠点でしですね! 分かりました!」


 上位戦闘員である導の証明書を見せれば、いくら幼い少女であろうと話を聞いてもらえる筈。


「伝えて貰いたいのは、檻の開閉操作……ええと、檻を開けて欲しいということと、支部への連絡をしてほしいということでございます」

「はい、では行ってきまします!!」


 少女はそう言うと、導の身分証明カードを胸に抱きながら人波をくぐり抜け去っていった。






      ◆◇◆◇◆◇◆◇



 カリヤとタイガの安否を心配してショート狩りの舞台である盆地の前に来たのはいいものの、入口は檻で締め切られていた。

 とんと困り果てた梅は、それでも尚盆地の中に二人が居るのではと思い、できるだけ檻の手前で探していた。

 が、そこである隊員さんに頼み事をされ今に至る。


「ええと、拠点に……」


 梅は檻の前に出来ていた人集りを縫うように抜け、拠点を目指し歩き出す。拠点の場所自体は、食堂の出張屋台の見習い当時から知っているので迷わず向かうことができた。

 が、梅の心には別の迷いが生じていた。


「(どうして隊員さん達が閉じ込められていたのでしょう……もしかして、カリヤさんとタイガさんもあそこにいたのでしょうか……)」


 梅としては二人の安全が確認されればいいのだが、二人が盆地にいるとも限らない。もしかしたら他の場所で危険な目に会っているかもしれない。

 人々に食事を提供するという仕事をしている梅にとって、二人をクビにしてほっぽり出したことがずっと心残りだった。クビにしたことで大変な目に遭うようなことになった暁には、土下座でもして謝罪をする所存である。


「(あぁ~~~~ダメでしです!! 暗いことばっかり考えても良いことなんてないでしです!!)」


 頭を激しく横に振り、梅は支部の拠点を目指して走る。着物の袖が少々邪魔だと感じたのか、梅は懐から紐も取り出すと着物の袖をたすき掛けする。


「(今はとにかく、隊員さん達の救出が先でしです!!)」


 胸の奥で突っかかる物に一旦蓋をして、梅は先を急ぐ。すると、拠点近くに設置されている旗が目に入った。パラボネラの葉を象ったモチーフはショート対策軍所有の施設を表す。梅はすぐさま拠点である建物の扉を小さな拳で叩いた。


「ごめんください!! 重大事件が起きたことをお知らせにきました!! 隊員さんからの指示をお伝えしたく……」


 だが、扉を叩いた時点で反応は無く、梅はその先の言葉に詰まった。


 ───もしかして、聞こえていないのでしですか?


 梅はできるだけ聞こえるように、乾いた喉を湿らせ唾を飲み込むと大きめな声でもう一度呼びかけた。


「ごめんください!! 大事な事をお伝えしたいのでしです!! この扉を開けて欲しいのでしです!!」


 大きな声につられるように扉を叩く勢いも増していく。それでも中からの返事はない。子供だから取り扱ってくれないのか。梅がそう思い、諦めがちに強く扉を叩いた瞬間、扉が嫌な軋み音を立てて開いた。



「!? ………あ、開いてる…?」


 扉が開いたのと驚いたので足がつんのめり、梅はその勢いのままその建物の中へと一歩足を踏み入れる。だが、梅はその部屋に入った瞬間帰りたくなった。今すぐにでも扉を開いて走って、安全な場所へ。

 梅の目の前にはたった一室だけの空間があった。拠点といってもそこにあるのは一部屋だけであり、そこにはいくつかの机と、椅子と、管理用のなんらかがある──べきだった。

 


「────ぁ」


 しかし、そこにあるのはいくつかの人と、人だったものと、なんらかの肉片があるだけであった。壁の色は赤色なのかと疑うほど血液で塗りつぶされており、鉄のような匂いと嗅いだこともないような異臭が漂っていた。


「ぅ、うぷっ……」


 まだ幼い梅にとっては未だ出会ったことの無い強烈な場面に、思わず胃酸が込み上げ、咄嗟に両手で口を塞ぐが指の隙間から苦味のある液体がこぼれ落ちる。

 視線を足元に落とすとそこにも肉片が散らばっており、ふいと視線をずらした。できればもう見たくない。


「檻を……開ける、操作………の機械………は」


 それでも隊員から言われたことを思い出し、この緊急事態──いや、目の前の惨劇も含めて緊急事態なのだろう。それをどうにかすべくここまで来たのだ。このまま鳶帰りをするのは無力な子供のすることだ。

 肉片やら血液やらでどす黒く彩られた部屋をおそるおそる視線で手繰っていく。すると、奥の壁にパネルのような物が設置されているのを見つけた。


「……っ」


 梅は自分の足元の肉片を避けて足を前に出し、ゆっくりと一歩ずつ前に進む。できるだけ、操作パネル以外の物が視界に入らないように。


「っは………はぁ……」



 呼吸をするのも苦しい。一歩一歩踏み出して行くたびに視線を後ろから感じる。横切る死体がこちらを見ている気がする。気がするだけであって、実際は動かない冷たい塊なのだが、足取りが重い。

 パネルに向かって歩くうちに梅は今更あることに気づく。



 ────どうして、誰も生きていないのに檻が閉まったんだろう



 檻の誤作動を起こしたんだと梅はてっきり思い込んでいたが、着いてみれば生きている人はいない。部屋も暗いことから電気も切れているのだろう。

 じゃあ、一体誰が。


 いくつかの疑問があったが、梅はパネルの前にまでたどり着くと背伸びをしてパネルの操作が可能かどうか確かめる。



「………っ、レバー式なのに、レバーがない…?」


 確かにパネルにはレバーがあった形跡があった。しかしその先は折られ、全くもって操作できない状態にあった。

 梅にはこれを伝える義務がある。隊員に言われた指示を何一つこなせていないが、むしろこれを言わないと事態は悪化していく。梅は額から滴り落ちる汗を手の甲で拭き取り、焦る気持ちを抑えて振り返った。


 ───あの人に、伝えなきゃ。


 そしてまた一歩一歩元の道を戻っていく。行きと違って冷静さを少しだけ取り戻した梅はひたすら扉に向かって歩く。


 だが、足音以外の音がした。

 ピチャリと地面に溜まった血液を踏む音。死体から感じる視線も相まって梅は思わず後ろを振り向いてしまった。死体は動いていない。しかし、動いていたのはその死体と死体の間にいた生き物だった。



「……………ね、ネズミさん……?」


 そこにいたのはこじんまりとしたネズミだった。つぶらな瞳をこちらに向け、両手を前にかざして鎮座している。


 しかし、梅は知っている。

 ネズミだろうと猫だろうと犬だろうと、この世界に存在する人間以外の生物はショートに分類されるということを。


 ネズミの後方で揺らめくしっぽの先が梅は見えた。その先っぽは部屋の黒い血液のように真っ赤に染まっているのが、分かった途端梅は息を飲み込んだ。




「………っ!!」



 ────助けて、カリヤさん、タイガさん………!!!!



 



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