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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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班長の実力

 途切れ途切れに聞こえてくる戦闘音、大地を踏み荒らしていく人々の足音、木々を揺らしていく風の音──


 導は目を瞑り、手のひらを左右に広げて立ち、五感をもってその自然を味わっていた。


「エフェクトの物質発動に欠かせないものとはすなわち、同化です。自分以外の物質、自分本来の本質、それらを同一の物と認識することによって初めてできる事なのですよ」

「なる……ほど……っ」


 同様にルーカスも導の姿を真似て、自然を体で感じようとするがふらつく体を留めておくことができないでいた。


「(くぅ……じっとしているのは性にあわないよ……っ)」


 しかし、導による指導は止まることなく進んでいく。

 導は深く息を吐き、ゆっくりと息を吸うと、導自身のプラグに引っ掛けてある糸から水を滴らせる。



「……このように、芯から自然と同化することさえ出来れば、自分の得意とする属性以外のエフェクトも出せるようになるのです」

「……んぐぐぐぐ……っ」



 対してルーカスのプラグであるフランベルジュからは何も発現しない。

 どうにか出そうと力んでみるも、無駄な労力だと悟ったのか、ルーカスは息を思いっきり吐き出した。


「ぶはぁっ!! な、何も出ないなんて…!!」


 その勢いで尻もちをついたルーカスに、導はにこやかに笑いかけた。


「初めは皆、そのようになるものですよ。私でさえ風のエフェクトを物質発動出来るようになるのに一年程かかりましたので……」

「なんと…っ! ということは継続こそが力ということなのですかな…!?」

「左様でございます。ルーカス様は筋が大変宜しいのですぐにでも習得可能かと」


 そう言いながら導はプラグに引っ掛けてあった使用済みの糸を取り払う。消費が激しいものだ。導は内心で呆れる。

 さきほど自分でもルーカスの筋の良さには驚いた。本人は気づいていなかったかもしれないが、実はルーカスのプラグは少しながらも光を放っていた。

 

 ──これは時間の問題かもしれませんね。


「ですが、朝からずっとこうして特訓をしていた訳ですから、少々休憩をお取りになってはいかがでしょう? 盆地の入口付近で美味しい紅茶を飲めるお店を知っているのですよ」

「なんと!! ええ、もちろんですとも……!! 休憩も時には大事だと僕は知ってますよ…!!」


 そう言うや否やルーカスはフランベルジュを鞘に収め、意気揚々と立ち上がった。何を隠そう、ルーカスは紅茶と洋菓子には目がない。そこも含めて把握していた導は訓練熱心なルーカスの心を動かすのに成功した。




      ◆◇◆◇◆◇◆




「おや……あの姿はもしや……?」


 暫く二人が、オケナガス盆地唯一の出口に向かって歩きを進めていると、ルーカスの視界に、見た事のある人物がいた。


「ルーカス様は視力がとても良いのですね……私には誰とは判別できませんが……きっちりと整えられた銀髪に、片手には本を一冊、そして眼鏡をかけていて……ああ、承知しました。あれは我がケンジ班の班長、上位戦闘員のケンジ様で間違いありませんね」

「ケンジ班長が、どうしてここに……?」

「さぁ、存じ上げませんが……本人に聞いてみましょうか」


 導は物怖じするルーカスを連れ、ショートの群れと対峙するケンジの元へと歩き出す。

 ケンジの手には本一冊しかなく、武器を一切持たない彼の姿を見てルーカスは疑問を覚えた。


「班長はどうやって戦うのだろうか……!?」

「暫く拝見になりますか? とても参考になると思いますよ」

「是非……!!」


 二人はケンジの邪魔にならない所まで進むと、しゃがみこみケンジの様子を観察する。

 暫くして、互いに睨みあっていた空気に耐えられず狼型のCランクショートの群れの頭がケンジに向かって走り出した。



「あ、危ない……!!」


 当の本人は本を片手にじっと、向かってくるショートを見つめる。

 そしてショートとケンジの距離、正面数メートル程になってきたところで、やっとケンジは言葉を発した。



「コネクト」


 すると、ケンジの片手にあった本から緑色に発光するコードが伸び、うなじにあるコンセントと繋がる。



「えぇっ!? あれがプラグなのかい……っ!? てっきりファッションの一環かと……!!」

「そう思われるのも無理はないでしょう。本は殺傷能力ゼロのプラグですから……」


 まぁ、続きを見てみましょう。と導に促され、ヒヤヒヤながらもルーカスは正面に見えるケンジへと視線を移す。

 ケンジの表情の変化は一貫として無く、むしろショートを見下すような冷たさを孕んでいた。


 そして彼は凛とした佇まいで左手に本を広げ、右手を前に突き出し、遂に口を開いた。



「七土、一水、二火、列」


 ケンジがそう言った途端、ショートの足元の地面がぐらつき、波打つように上下に揺れる。


成就(スヴァーハ)!!」



 ケンジの叫び声に合わせて、揺れていた地面が上へと突き出し、ショート達を串刺しにするように剣山を作り出した。


 今にも襲いかからんとしていたショートでさえその剣山の餌食となり、一瞬で塵と化す。その光景を目の当たりにしたルーカスはあんぐりと口を開け、目を大きく開いたまま硬直してしまった。

 隣で同じ光景を見ていた導でさえ、ケンジの揺るがぬ強さを再確認し、無意識的に頬が緊張する。


「やはり、私達の班長はお強い方です……私、震えてしまいました」


「……ハッ……!! も、もしかしてあの攻撃もエフェクトの物質発動なのですかな……っ!?」


 呆然としていたルーカスは導の一言で我に帰り、事の真実を導に問いかける。が、導は首を横に振り立ち上がった。



「いいえ。あの方はエフェクトを使ってはおりますが、物質発動をしている訳ではございません……詳しいことは本人にお聞きしてみましょうか。実は私も深くは知らないのでございます」

「なんと……っ、導先輩でさえ知らないとは……!! ますます気になります……!!」


 ルーカスは逸る気持ちのまま、慌てて立ち上がりケンジの元へと走り寄る。

 ケンジも足音に気づいたのか、ルーカスの来る方向へと振り向いた。



「……ん? ああ、なんだルーカスでしたか。どうしたんです?」

「あっ、あの……っ!! つかぬ事をお聞きしたいのですが、ケンジ班長のそのプラグは一体どんな……!?」


 荒い呼吸をしながら近づいてきた長身のルーカスに対して少しの戸惑いを覚えたが、ケンジは凛とした表情で応じた。


「私のプラグは陰明道について記された本なのですが、一切武器としての能力を持ち合わせてはいません」

「えっ……そ、そんなプラグが……っ!?」


 ルーカスの脳内には、今は亡き仲間──ロウ──の事が思い浮かんでいた。

 ロウのプラグは地面に打ち付けるような杭であり、杭を介してエフェクトを発動してショートと戦っていた。もしかしたら、ケンジのプラグもエフェクトを介する為だけのものなのかもしれない。


「では、もしや、その本を介してエフェクトを発動しているのですかな……?」

「いいえ、違います。……これは説明しずらいのですが……」

「おや、ケンジ様。この前もそうやってはぐらかしたではありませんか。私も真相が知りたい所存なのです……お教え頂けないでしょうか?」

「う……」


 二人の興味津々な表情と、眩いほどの期待の眼差しを向けられケンジは言葉に詰まる。


「そんなことを言われても、説明したって理解できないと思いますよ!?」

「言ってみるだけ……!! 言ってみるだけではどうですか……!?」


 ルーカスがここぞとばかりに妥協案を示すも、ケンジは眉間に皺を寄せ考え込むように右手を顎に添える。


「……言うだけですよ」

「はい……!! もちろんですとも……っ!!」


 勢いあまって決めポーズをしようとしたルーカスは、先輩の前だからと自制し、中途半端な格好で喜びの声をあげていた。

 しかし、慣れているのかケンジも導もルーカスの言動には何も口を挟まない。


「実は私にも不明な点が多いのですが、どうやら私の家系は元々陰陽師という立場にあったらしく、この本と共鳴……と言ったところでしょうか……私の声と、実際に具現化させたい物のイメージ、その物を構成させるために必要な素質の割合を口にすること、この3つが揃って発動できる、特有のものらしいのですが……」

「え、ええと……」

「……確かに、少々理解するには難しい事ばかりでございますね……」


 やっぱり、そうですよね。とケンジは肩を落とす。本人ですら判然としないことを噛み砕いて理解するのは他人からすると、困難を極める。

 しかし導は悔しみながら、ケンジに対してお礼をする。



「ですが、教えて頂いたことに礼をすべきでございます。これもまた人生において知っておくべき事……しかと記憶しておきましょう」

「は、はい……っ!! ありがとうございます、ケンジ班長……!!」

「いや、私は別にたいしたことは……」


 はた、とケンジは言葉の途中で、ある事に気づいたらしく動きを止める。


「……そういえば、報告と随分と違う様相なのが不思議なのですが、何か知っていることはありますか?」

「報告、でしょうか……?」


 おや。と導は考え込む。

 ケンジ班内では、新入隊員·下位戦闘員の特訓と兼ねてショート狩りに向かうよう司令が出ていた。今思えば班長であるケンジがこの場にいることがおかしいのだ。 

 導はケンジが受けたという報告の内容を把握するために、問いかける。


「報告とは、一体どのようなものでしょうか……?」

「ああ、確か……オケナガス盆地に出現しているショートの数が思ったよりも多く、対策軍の人数も少ないため、応援を要請して欲しい……と」

「? そんなに多くには感じませんな……??」


 ルーカスは周囲を見渡すように体を捻る。その視界内にはショートの数は大して多いようには感じず、むしろ隊員の数の方が多いようにも思える。

 導も同意見であり、ケンジに話の先を話してもらうよう促す。



「それで、班長自らがここにいらっしゃったのですね?」

「ああ。私は盆地の入口付近の警備をしていたのですが、なにしろ報告の通信が切羽詰まった様子だったので……」


 なおさら、報告の意味が分からない。

 導の頭の中には多くの疑問が湧き上がる。どうして虚偽の報告をする必要があるのか。班長を呼びたかった訳ではないだろう、"応援を要請"しているのだから、なにか人数が必要となる案件でもあったのだろうか。

 しかし辺りを見ても、誰かに呼びかけるような人物は見当たらない。が、導は気にかかる言葉を耳にした。


 その声の主は、同じく軍の人間であり、服装と武器の使い込まれ方から中位戦闘員だと推測される。

 

「なんだよ、強そうなショートがいるって言うから来てみたのになんもいねぇじゃんかよー」

「ちょっとすみませんが、そちらの方!!」

「えっ!? あっ、導上位戦闘員!?」


 導に声をかけられて萎縮したように声を発する男性。導は彼の元へと駆け寄り、肩を掴む。


「今なんと仰られましたか!?」

「ちょっと、導!?」


 あまりの剣幕にケンジが導を止めようとするが、導は自身の頭に浮かんでしまった一つの可能性を無視することができないでいた。


「"強そうなショートがいると聞いた"そう仰られましたよね、貴方?」

「え、ええと、そうです……けど?」

「誰からお聞きしました?」

「いや、誰とか……じゃないんすけど、皆噂してて……ほら、あそこの隊員もそれが目当てで屋台の方から盆地の方に来たんすよ」


 その男性が指さす方を見ると、同じように周りをキョロキョロと見回してから不思議そうに首を傾げていた。

 その事実を目の当たりにして、導の考えはどんどんと悪い方向へと向かう。


「どうしたんですか、導? なにか気になることでも?」


 その導の深刻そうな表情を見て、さすがに疑問に思ったのかケンジが問いかける。


「もしかしたら……いえ、確かめてみないことには」

「ん? えーと、どういうことですかな……っ?」


 一人、ルーカスは会話に置いていかれ、ケンジと導の間で右往左往していた。











      ◇◆◇◆◇◆◇◆




 ──オケナガス盆地入口にて



「やはり………」

「なっ、これは!?」


 導とケンジ、ルーカスは急いでオケナガス盆地の入口へと向かい、そこで驚きの光景を目の当たりにした。

 目の前には高くそびえ立つ檻が立ち塞がっており、盆地と屋台のある場所を隔てていた。


「こ、この檻はどこから……っ!?」

「いえ……これは元々、入口に設けられていた檻です。もしもショート狩りで想定外の数のショートが出現した時の際の防衛線として用意してあったものなのですが……」

「確か、記憶が正しければ素材にパラボネラ植物を練り込んでいたような気が致します。プラグでの衝撃も防ぐ強度だとか……」

「な、なぜそんなものが今……!?」


 三人の背後には同様に、困惑している隊員達で溢れ返っており、これが非常事態だと判断するには難しくはなかった。


「普段は決して使わないものなのですが、盆地の外の支部は一体何を……」

「おそらく……壊滅状態だと思われます」

「なぜそう思うのですか?」


 確信を持って言う導に対して、ケンジは尚も問いかける。



「盆地の外にいた隊員が盆地内に行きたくなるような噂の拡大、盆地付近の警備にあたっていたケンジ班長の元に届いた虚偽の報告、そしてこの非常事態に支部からの連絡は一切ない……」



 そこまで言った導の額には汗が滲む。この先はきっと思っても言ってはならない言葉だと悟ったからだ。

 しかし、事の次第に気づき始めたケンジはともかく、把握しきれていないルーカスにはちゃんとした状況を伝えるべきだろう。


 導は息を吸い込み、檻を見上げ呟いた。





「……どうやら、私達は閉じ込められてしまったようでございます」


 


 





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