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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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一人の父

「怪我人がいるんだ!! 開けてくれ!!」


 カリヤは、意識を失ってぐったりとしている老人を背負い、階段を登った先にある屋敷へとたどり着いていた。

 が、その古びた屋敷の扉は固く閉ざされていて一向に開く気配がない。


「本当にこの屋敷なのか!?」


 老人と同じく怪我を負い、タイガの背中におぶさっている若者を見る。

 しかし若者は狼狽えもせずに真っ直ぐな視線をカリヤに向けた。


「ええ、このナガレ森には屋敷は一つしかありませんから……おそらく警戒しているのでしょう」

「警戒? なにを?」

「この屋敷の主人は酷く他人を嫌っていると聞いた事があります」

「はぁ!? 人嫌いで死人が出たらたまったもんじゃねぇ!!」


 カリヤは、古く錆び付いてはいるが厳格な扉めがけて拳を振り落とす。



「中に居るんだろ!? このまま怪我人を放っておいたら死んじまうんだ!」

「……」


 拳を叩きつけ、必死に叫んでも中から返事は聞こえない。カリヤは老人のか細い呼吸を直に背中から感じ、直ぐに手当てをしないと命の危機があると焦っていた。

 

「っ……こうなったら……」

 カリヤは扉から数歩下がり、大きく息を吸うと屋敷全体に聞こえるような大声を発する。


「そっちが開けねぇんだったら、こっちでこじ開けてもいいんだな!?」


「なにを……」

 その声を近くで聞いていたタイガは、咄嗟にカリヤの肩を掴む。

 が、掴まれた方のカリヤはむしろ歯を見せてタイガに笑いかけた。


「お前の大剣で扉をぶった切ってくれ」

「!? ……そういうことか」


 どんなに硬かろうが、関係ない。

 タイガのプラグは常に対人モードに設定されているはず。ならば当然、扉なんてまるで紙きれのように切れる。


 カリヤを叩きのめし、ショートをぶつ切りにし、地面をも粉砕する大剣のプラグ。

 不本意ながらも、またここで頼る時がきたようだ。


 タイガは若者を地面に下ろすと、背中に携えていた鞘から大剣を抜く。その刃先が銀色に鈍く光ったと思えば、次の瞬間にはプラグ特有の緑色に光り出す。  

 そうして、タイガが扉に対して斜めに構えを取った瞬間、カリヤは衝撃に備えて身構えるが、その衝撃の代わりに軋むような音がした。



「やれやれ……扉を壊されてはたまらない。怪我人を連れてきなさい」






       ◆◇◆◇◆◇




「人嫌いねぇ……」



 案内された寝室で、カリヤは背負った老人をベッドに寝かせて呟いた。

 対して、寝室の扉の前に立っている貴族衣装の男性──この屋敷の主人は瞑目していた。


 ──人嫌いって言ってた割に、すんなり看病させてくれるし水や食べ物もくれるんだよな……



「君は……対策軍の中でもどの派閥なのだ?」

「はばつ……?」


 一通り老人の世話をし終わったところで、屋敷の主人の方から話しかけられる。

 部屋が暗いからか、主人の顔色が悪い。人嫌いというより、人アレルギーなんだろうか。


「派閥とかよく知らねぇけど、俺は軍の中じゃ結構な嫌われ者だと思うぜ」

「そうか……」


 主人はそう返事をすると部屋に備え付けてある暖炉に火を灯す。

 カリヤは窓の外を見て、今にも雨が降ってきそうな曇天だということに気づいた。


 

「そういえば、なんでこんな森に屋敷なんか建てたんだ? 貴族は皆、群れて生活してるだろ? それも人嫌いのせいか?」

「……いやに質問が多いな。一言で言えばこの地には恩義があるから……であろうな」


 五十齢の皺が顔に見える主人は、暖炉に当たるように椅子に座り掛ける。

 しばらく沈黙があり、暖炉の中の木材がパチッと音を鳴らしたところでカリヤは声を出した。


「の、割には隠れてるように見えてるのは俺の気のせいか?」

「隠れている……?」


 カリヤは主人から老人へと視線を移す。


「このじいちゃんが【村長】だっていうのは聞いたんだ。でも、おかしいよな? カーストで一番上の貴族が村長ならまだしも、平民らしいじいちゃんが村長なんて」


「ふっ……まるで、隠れ蓑のようだと?」



 主人が紡いだ言葉に、カリヤは頷く。

 それだけではなく、森の頂上にも関わらず目立たない装飾が施された屋敷を見てもそう感じていた。


「実のところ、対策軍には私の存在を知らせないで欲しいのだ」

「関わりたくないからか?」

「それもあるが……少し付いてきてくれ」


 主人は椅子から立ち上がると、寝室の重厚な扉を開き、カリヤに付いてくるよう促した。

 廊下には所々古びた様子が見られるが、それでも立派な屋敷には違いない。床に敷かれている絨毯にも埃一つ無いことから、この主人の他にも使用人が何人か居ることがわかる。

 壁にも斧と盾の厳かな調度品が飾られている。よほど有名な貴族の一員なのだろうか。



 そうして主人の背中を追って階段を登り、廊下を進んでいくと、ある部屋に到着した。

 その部屋の扉だけは何故か白く、新品のようだった。


「? なんでこんな所に取っ手が?」


 普段決して付いてはいないであろう低い位置に取っ手が付いてあり、それがさらにこの部屋の奇妙さを醸し出している。


「見れば分かる。言っておくが、このことは他言無用である。もしも言いふらした時は……」

「分かってるって!! そんなに俺口軽く見える!?」

「………」

「見えるんだ!?」


 まあ、と主人が肯定したところで、カリヤはとりあえず扉をじっと見つめた。

 この奥にどんな秘密が隠されていようと、カリヤはこの主人を裏切る行為をするつもりはない。

 人嫌いと言いつつ屋敷へと入れてくれた恩もあるが、どうにも悪い人物のようには思えなかった。


 主人は、覚悟を決めたようなカリヤを見てゆっくりと扉を開ける。

 

「これが、私の隠れている理由だ」



 その扉を開けた途端、この屋敷には欠けていた雑音という雑音が一気に溢れ出した。

 カリヤはその光景を見て、拍子抜けしたと同時に驚きを感じていた。


挿絵(By みてみん)



「あ!! ファザー!! とびらどうだったー?」

「ねぇー、だれが来たのー?」

「ファザーは疲れてるんだから、順番よ!!」


 至る所に子供用の遊具が散らばっており、照明は明るく室内には何人もの子供達が遊び回っていた。

 遊具で遊ぶ者、追いかけっこをする者、入ってきた主人に話しかける者、その誰もが幸せそうな笑顔をしていた。


「こ、子供……!? こんなに沢山……まさか」

「おそらく君の想像では、さしずめ私は誘拐犯か何かであろうが、それは全くの誤解だ」

「え」


 先程まで顰めっ面をしていた主人の表情は解け、駆け寄ってきた女の子の頭を撫でる姿はまるで我が子を慈しむ父親のようだった。


「この子達はこの森に捨てられた子だ」

「捨てられた……って、じゃああんたが世話を?」

「そうだ。だが、私は落ちぶれたといっても貴族の端くれ……もし捨て子を育てているという風聞が立てば私の立場が悪くなり、この子達の世話が出来なくなる」


 それだけは避けたいのだ。と言いながら主人は部屋中の子供達に呼びかけ、中心に集めた。



「ファザー、その人もここに住むの?」

「いいや、この人は違う。怪我をした人を連れてきたんだ」


 カリヤは改めて子供達を見ると、年齢にバラつきがあることに気づいた。

 1歳や2歳ぐらいの幼い子供も居れば、10歳や15歳くらいの少し成熟した子供も居る。


「怪我した人? じゃあ看病しないと!」

「ああ、すまない。頼めるか、リリィ」

「じゃあボクはお料理作るね!」

「わたしはそうじ!」


 と、次々に子供達は私も僕も、と手を挙げる。

 

 ──そうか、使用人じゃなくてこの子供達が屋敷内を掃除していたのか。



「……大体の事情はわかった。でもなんで対策軍である俺をこの部屋に入れたんだ? バレる要素盛りまくりじゃねぇか」

「それは……」



 主人は腰にしがみつく子供を優しく撫でながら答えた。



「私も君と同じく、貴族の嫌われ者……だからだろうか」





~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·



 一方、タイガは───




「す、すみません、手当てもして頂いて」

「………構わん」



 比較的軽傷で済んだ若者の傷に消毒をし、包帯で巻いていた。

 タイガはアズキから手当ての仕方を教えこまれていたため、苦もなく淡々と治療をしていく。



「軍の方は、やはりお強いんですね……」

「……」

「先程の戦いでもほとんど傷を負っていませんし……なによりショートを倒せるのですから……」


 若者はそう言うと、悔しそうに唇を噛み締める。


「僕……僕は何も役に立てませんでした……喚き散らして、結局……」

「いや……」


 そんなことはない。と言おうとして、はたしてそれは言ってもいいことだったか逡巡する。

 確か、アズキ様はこういうとき「役には立たなかった」と素直に言う方だ。

 けれど俺がアズキ様の言葉をそのまま言ってもいいのか……


 タイガはパクパクと口を開けては閉めるのを繰り返し、最終的にはいたたまれなくなり立ち上がった。



「水を……持ってくる」

「……は、ありがとうございます……?」



 今朝からタイガはいつもの調子が出ないと感じていた。

 いつもだったら先程のショートの攻撃も食らうことなく倒せただろうし、カリヤに言われずとも勝手に扉を切っていただろう。


 ───どうにも空回りしていると、わかってはいる。



「………」


 そうこうしているうちに、厨房らしき場所にたどり着いた。

 古びた屋敷の割にはしっかりとした設備が置かれている所を見ると、ここは貴族の住む屋敷だと分かる。


「貴族……か」


 タイガは口馴染みのある言葉を呟いた。そして、そっと水を汲むために近くにあったコップを掴んだ。


 が、その瞬間タイガの背後からガタッと物音がした。

 咄嗟に振り向き、背中の大剣を抜こうとした瞬間、棚から小さな手が飛び出した。



「ま、まって! 今、かくれんぼしてるの!」


「なに……?」



 棚から出てきたのは6歳程の男児であり、その顔には怯えが見て取れる。

 タイガは手を下ろすと同時に、目の前の少年の燃えるような赤い髪に目を引かれた。



 ──俺と同じ、赤髪。




 そしてタイガの意識は過去へと移っていく────









次回、タイガの過去編!

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