闘いの音
「えっ……と……」
梅はカリヤとタイガの両方を交互に見る。
今朝はそこまで仲が悪くなかった筈なのに、梅が荷物を取ってきてからなぜだか異様に仲が悪くなっていた。
「か、カリヤさん、タイガさんとなにかあったんでしですか?」
「別に! 何もねぇよ」
「何もって……はぁ」
カリヤは難民に対するタイガの反応が気がかりで、先程からずっと頭の中で悩んでいた。
──平気な訳がない。
一言目に、戦闘とアズキという言葉しか口にしないタイガが見せた表情。
カリヤはどうにも気になってしまって、盆地に向かう途中でチラチラとタイガの方を見つめてしまう。
一方のタイガは気にしていないのか、カリヤの視線にも諸共せず淡々と道を歩いていく。
でも、いつも無表情だし、実のところ考えてることは分かんねぇんだよな……
と、悶々とした表情で歩くカリヤに、梅はまた一つため息をついた。
「カリヤさん」
「………んっ? なんだ?」
「クビでしです」
「は?」
いきなり歩くのをやめた梅が言い放った言葉を飲み込むのに、カリヤは数秒固まった。
それにはタイガも多少驚いたようで、足が止まっているのがカリヤにも分かった。
が、正直意味が分からない。
「え? ちょ、今なんて言った、クビって言った!?」
「はい、そうでしです」
「な、なんで!? 俺なんも悪いことしてないはずだよな!?」
「悪いことはしてませんよ、ただ……」
「ただ……?」
カリヤは梅の細い肩を掴んで、不安そうにじっと梅の目を覗き込む。
梅の薄紅色の瞳はカリヤを見つめ、そして伏せられた。
「ケンカをして気まずいような方達に店口を任せる訳にはいかないのでしです」
「け、ケンカぁ?」
「そうでしょう? さっきからチラチラ見合ってばかり! もう手伝いは結構ですから、お疲れ様でした!」
そう言うと、梅はタイガに持たせていた荷物を奪い取りズカズカとカリヤ達を置いて去っていった。
残された二人は互いに顔を見合わせ、梅が去っていった方を見た。
「……おい」
「なんだよ」
さすがにこれはマズいと思ったのか、タイガはカリヤに対して目で訴えかける。
「分ーってるよ! ………クビにされちまったけど、梅ちゃんには謝んねぇと……」
「……謝る?」
「っ、だから俺たちがその、ケンカ?して気まずくなってたのが悪かったんだろ!? なら、俺たちが仲直りしてって………ああ、くそ、違う」
「……」
慌てたようにカリヤが喋るのをタイガはじっと見て、なにかに思い当たったのかカリヤの手を引いた。
「っえ?」
そして、カリヤはそのまま引っ張られるままにタイガの後をついていく。
長い足で素早く森を走り抜けるタイガに対して、体格差のせいかカリヤは足がもつれる。
が、その度にタイガは後ろを振り向きカリヤが着いてきているかを確認した。
そして、二人で走っていくうちにどんどんと盆地から離れた森へとたどり着く。
辺りはまだ葉のついていない木々が生えており、盆地の方とはまた違った雰囲気が漂っていた。
「っはぁ……ここは?」
ようやく握られた手が解放され、カリヤは息を整えながら辺りを見回す。
仲直りをするには些か乱暴なような気がしたが、ここにくる意味があったのだろうか。
「……」
けれどもタイガは一向にこちらを見ようとせず、むしろ周りをキョロキョロと見回していた。
「おい、なんでこんなところに………」
「助けてくれぇーーー!!」
カリヤがタイガの腕を掴もうとした瞬間、助けを求める声がカリヤの耳に届いた。
「!?」
「……向こうか」
だが、タイガは躊躇することなく声の方へと再び走り出した。
カリヤの頭の中はいろんなことでぐちゃぐちゃと混乱していたが、助けを求める声を思い出して我に帰る。
「っ、待てって!」
カリヤは手錠を引っ張り、タイガの足を一瞬止めた後、置いていかれないようにタイガと並走し始めた。
「今の声、誰かが襲われてるってことだよな!?」
「ショートにだ」
「なんでわかる!?」
「……俺には、見える」
タイガが何を言っているのかが分からないが、走っていくうちに闘っている音が聞こえてくる。
カリヤは「コネクト」と言いかけ、自分が今プラグの使用を禁止されているのに気づき、拳を握りしめた。
「たっ、助けてくれ……!!ショ、ショートが…!!」
「っ!」
そこには、狐のようなショートに襲われている若い男性と、近くには頭から血を流して倒れている老人が居た。
「あ、あの時のじいちゃん!?」
カリヤはその顔に覚えがあり、それは昨日、梅の出店に訪れた老人だと分かった。
すぐさま老人の元に駆け寄り、首筋に指を当て脈を確認する。
「……まだ息はある。すぐに治療しねぇと……タイガ!」
「分かっている」
タイガはプラグを展開し終わると猛スピードで、ショートへとめがけ大剣を振るう。
が、殺気を感じ取ったのか、狐型のショートは今まで襲いかかっていた男性の元から大きく飛び上がり、大剣を紙一重で避ける。
「……!」
だが、タイガはバランスを崩すことなく、振るった大剣を地面に叩きつけ、足に力を込める。
そしてショートが離れた位置に着地すると同時に、タイガは空中へと飛び上がってショートの頭上へと剣筋を定める。
が、ショートが馬鹿正直にその攻撃を受ける訳もなく、頭上から迫るタイガに向けて口を大きく開けた。
──なんのつもりなんだ?
カリヤはショートの行動に違和感を覚え、すぐさま、タイガの打撃で粉々になった地面の欠片を掴んだ。
すると、もう少しでタイガの剣がショートに当たるというところで、ショートの口内から赤く禍々しい炎がタイガめがけて放たれた。
「っ!」
「タイガ!」
しまった、今の攻撃をまともに受けたんじゃ──!?
カリヤは手に持っていた土の欠片をショートめがけて投げ、いつ攻撃がきても若者と老人を守れるように自ら前に出る。
「タイガ! 大丈夫か!?」
「けほっ………」
微かにタイガの咳が聞こえ、無事なことを確認すると、カリヤは次々に土の欠片を投げる。
「おらぁ! こっち見やがれ!」
すると、ちょうどショートの目に当たったのか、よろよろとショートは怯んだ後、逃げようとする。
「あっ、待ちやが……」
カリヤが言うよりも速く、大剣がショートの腹を裂く。
炎の攻撃をまともに受けたハズのタイガが、ショートの怯んだ隙を狙って攻撃をしかけたのだろう。
「……っ」
「お、おお、グッジョブタイガ!」
カリヤはタイガに向けてグーサインを送る。
対して、タイガは無言のままショートにトドメをさした。
が、ここでカリヤはあることに気づいた。
──あれ?あいつ怪我してないのか?
至近距離で炎の攻撃を受けたにも関わらず、髪にも顔にも身体にも焼けた跡が見当たらない。
土壇場で避けれたのかもしれない。
それよりも、怪我人がいる。
他にショートが居ないのを確認してから、カリヤは若者に問いかける。
「あんたは怪我とかしてないか!?」
「あ、ああ……足を少し、挫いてしまって……それよりも、村長を早く治療して欲しい…!」
「分かった。タイガ! お前はこの人を背負ってくれ! 俺はじいちゃんを運ぶ!」
「……どこに運ぶんだ」
どこに運ぶ……?
ここからファラデー支部の拠点までは遠い。かといって宿場町に向かうには、道のりが険しすぎる……
カリヤは必死に経路を探すが、どれも最善とは言い難い方法だった。
が、タイガにおぶさった若者が戸惑いながらも声をあげる。
「なら、この森の頂上にある屋敷に行った方がいい……!」
「屋敷…?」
「この近くに、頂上までの階段があるはずだ…! きっと、あの方なら……」
「分かった、屋敷だな!?」
カリヤは老人をゆっくりと抱えあげ、背負い、タイガと顔を見合わせる。
「その屋敷に二人を運ぶぞ。さっきの話はとりあえず後で!」
「ああ」
そして、カリヤとタイガは若者の案内の元、屋敷へと向かっていく───




