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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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嫌な予感

 ───微睡みの中、幼い自分の声が聞こえた。

 その声は小さく、今にも消えて無くなりそうな息遣いでひたすら同じ言葉を呟いていた。


『助けて…………助けて……誰か……』



 汚い路地裏のゴミの中を漁った後、何一つ食べ物が見つからなかった時の、いつもの物乞いの言葉だ。

 運が良ければ通りがかった人間にパンを貰えるし、運が悪ければうるさいと言われ腹を蹴られる。


 それが日常で、タイガという人間の全てだった。





     ◇◆◇◆◇◆◇



「っおい……タイガ………! おい、タイガ!」

「!」

「どうした? 立ったまま寝てたのか、お前?」


 ショート狩り二日目、格安の宿とはいえしっかりとしたおもてなしを受けたカリヤ一行は梅の依頼の下、再び盆地に赴こうとしていた。

 しかし、立ったまま微動だにしないタイガの様子を変に思ったカリヤは、からかうようにして声をかけた。

 だが、呼びかけられたタイガは嫌そうな顔一つせずそのまま宿の外へと歩き出した。


「なんだよあいつ……返事くらいしろよな」



 着いていくようにしてカリヤも宿の外に出ると、カリヤの足元を子供たちが走り去っていった。

 

「わ! なんだ……?」


 そのまま子供たちは宿と宿との隙間を縫っていくように走っていき、ついには姿が見えなくなってしまった。

 視界の端に見えたその子供たちは決して、はしゃいでいるような様子ではなくむしろ人目を避けて逃げている様子だった。


 しかもその様子を見ていたのはカリヤだけでなく、普段他人のことなど気にもしないタイガでさえしっかりと見ていた。

 それが意外で、ついカリヤは話しかけた。



「……気になるのか?」

「………ただの難民だ」

「難民?」


 いきなり、難民という言葉が出てきたためかカリヤは周りを一瞥し、二人の他に誰も居ないことを確かめる。

 梅は荷物を取りに行っていてまだ帰ってはこないだろう。



「……親に捨てられたか、それともショートに殺られたか、いずれにしろ誰にも保護されていない人間だ」

「それって……さっきの子供たちのことか? なんで誰も保護してくれねぇんだよ?」

「………保護したところで利益があるのか?」



 普段の傍若無人とした態度とは打って変わって、タイガは悲痛ともとれる表情で呟いた。

 だが、カリヤは非情なタイガの言葉に怒りを覚える。



「利益だって……? お前は損得勘定で人の命を測るのか!?」

「単純な計算だ。人一人を助けたところで得られる物は負担だけだ」

「っ!?」

「お前の善意で助けられるのは、せいぜい死にかけの老人程度だろうな」


 その言葉を聞いたカリヤはタイガの胸ぐらを掴んだ。

 

「お前……っ、いい加減にしろよ!? 困ってる人をほっといて平気な顔なんてしやがって……!!」

「平気な訳がない」

「……?」



 タイガはカリヤの腕を掴んでゆっくりと胸ぐらから離す。

 



「平気な訳が……ないんだ」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 一方、ファラデー支部──



 カリヤとタイガをオケナガス盆地へと送り込んだ後にファラデー支部へと帰ってきたアズキの元には、大量の書類が届いていた。

 


「なによこれ……クルック、あなた仕事サボったの?」

「いやいやいやいや!! お嬢、今の僕の状況見てますかぁ!? 埋もれてますよぉ!? 文字通り書類に埋もれてるんですよぉ!?」

「そうね、後で掘り起こしてあげるわ」


 いちいちやかましいクルックは置いておいて、問題は書類の中身だ。

 アズキの元に来る書類は大体、不可解で厄介な問題事の後処理に関することばかりなのだがこんなに来るのはあまりにも不自然。

 アズキは書類の山の一番上に置かれた紙を手に取り、その文字を目で追う。



「ポータルの不具合……? オケナガス盆地のポータルが故障したのね……もう何年も使ってるから老朽化したのかしら……」

「そんなの、工兵匿部に任せとけばいいじゃないですかぁ!! なんで僕らに任せるんですかねぇ!?」

「……あとは、線路の脱線事故…? どうして警察に任せる案件がこちらに?」


 二枚目、三枚目と見ていっても出てくるのは軍に持ちかけるにはあまりにも粗末な案件ばかり。

 アズキ班を万事屋かなにかと間違えている人が多いのかもしれない。世も末か。



「でも、どれも原因不明……クルック」

「はい?」

「実際に現場に行って確かめるわよ」

「えぇ!? これ全部ですかぁ!?」


「そうよ。もしかしたら、私たちの知らないところでなにかが起こっているかもしれないわ」










      ◇◆◇◆◇◆




 鬱蒼とした森の中はじっとりと湿っていて、地面は微かにぬかるんでいる。

 通る度、目の端に小さい影が飛び交うのが映る。

 ショートだとしてもアズキの敵ではない。が、



「お嬢ぉぉぉ………帰りませんかぁ……? ここなんか気持ち悪いですよぉ……」

「離れなさい、あなたこそ気持ち悪いわよ! 私にくっついて歩かないで頂戴!」


 アズキは腰にくっつくクルックの脇腹目掛けて蹴りを入れる。


「いった!! 痛いですよぉ、お嬢!!」

「しっかりガードしてる割に、嘘つきね」

「あ、バレましたぁ?」


 怖がっているフリなのか知らないが、こう見えてもクルックは辺りを観察し、警戒している。

 実際、アズキの予備動作の無い蹴りを片手でいなしていた。



 と、警戒を怠らず前に進んでいく二人の目の前に、木々が燃えた跡が見えた。

 その近くにはファラデー支部が所有している監察台があり、その建物にも全体的に焦げ跡がくっきりと残っていた。



「ここね……」

「僕はただの山火事だと思いますけどねぇ……ほら、ここにいた監察員はヘビースモーカーでしたしぃ……」

「こんな湿った森林で?」



 乾燥した風が吹く森ならまだしも、この森は年中湿気が高い。

 煙草の消し忘れだとしても監察台の辺り一帯が燃えるなど有り得ないだろう。


 アズキは警戒したまま、監察台の中を覗く。


「中も酷い有様ね」

「うえぇ……なんで片付けてないんですかねぇ……」


 アズキは足を踏み入れ、すぐさま辺りの燃えカスを手に取った。

 どれもが完全に消し炭となっており、長時間この建物が燃え続けていたことがわかる。

 躊躇わず調査をし始めたアズキを見て、渋々だがクルックも燃え残った物になにか書かれていないか棚の資料を手に取った。



「えぇっと? この監察台では最近現れた変異体の調査をしてたんですねぇ……」

「どうせサーベージドッグの変異体でしょう?カリヤがその変異体に遭遇した場所もこんな森だったから、急遽用意したのね」

「あぁ、確かにそうですねぇ」



 アズキからしてみれば場所ではなく、その変異体を生み出したのは人型ショートだと踏んでいるが、上の人間に言っても信じては貰えないだろう。

 なにせ、いまだに上の人間には人型ショートの存在すら疑っている者が多い。



「変異体……たしか、カリヤが戦ったのは実体のないショートだったのよね?」

「ええ、そうですよぉ。なんでも靄みたいに攻撃をすり抜けたらしいですよぉ」

「靄……」



 アズキは未だに人型ショートとは対峙していない。あの場に到着するより前に退散してしまっていたからだ。

 実際に変異体がどういう物なのかも目にしていない。


「でも、確実にショート側に変異体を創造する技術があるってことよね」

「えぇまぁ……キメラってことですからねぇ……」



 一応、ショート対策軍の方でもショートに関する実験が行われている。

 ショートの意識を操り、逆に人間の味方に出来ないかといったものから、ショートとショートを融合させることで新たな力が引き出せないかなど。

 だが、そのどれもが失敗に終わっており、結局はどのショートも人間を襲うという結果しか出ていない。



「そうなると、やっぱりカリヤも異質ね……」

「え?」

「コンセントを二つ持つなんて今までにないわ。カリヤも、なんで二つなのか分からないと言っているし、自然になったとは言い難いのよ」

「そりゃそうですよぉ! なんだったら解剖したいぐらいですよぉ!」

「それは止めなさい」


 と、ふと会話の最中にアズキは不自然な物を見つけた。

 細くて、立体的な筒のようだ。

 近づいて手に取るとそれは全く想像していたのとは別の物だった。



「お嬢……それ……」

「人の指ね」

「ひぃぃっ!!」


 健康的な成人男性の人差し指。そういえば、ここの監察員の焼死体には人差し指が欠けているという報告があったのを思い出した。

 アズキは暫くじっとその指を見ていたが、ふとその指が動いたように感じた。




「……っ! クルック! 伏せなさい!」

「へっ?」




 アズキはその人差し指を遠くに投げると、プラグを展開し、すぐさまエフェクトを使う。


「アイスウォール!!」



 すると、一拍置いて爆発が起き、アズキとクルックに爆風が襲いかかる。



「うわぁあっ!!」

「っ!」



 辺りに煙が充満し、残っていた筈の書類も全て消し炭と化してしまった。

 いや、それよりも───


「クルック!! ここに居なさい!」

「けほっ…へぁっ!?」



 アズキは建物から転がり出ると、すぐさま薙刀を構え辺りを見回す。

 そこにはふよふよと浮き上がる火の玉がアズキ達を取り囲んでおり、襲いかかってくる寸前だった。



「……なるほど、罠ってことね」



 間髪入れずにその火の玉がアズキ目がけて近づいてくるが、アズキは諸共せず果敢に挑んでいく。


 所詮は火の玉、たかがEランクショートの攻撃にすぎない───


 そう思ったアズキはエフェクトによって生み出した水を火の玉めがけて放り投げる。



「これでも、喰らいなさい!」


 アズキのコントロールによって火の玉に水弾が直撃するが、一瞬にしてその水が蒸発していく。



「っ!?」


 (おかしい、火力差がこんなにあるなんて──)

 


 不利を悟ったアズキはすぐさま後方に飛び上がり、空中に向かって手を伸ばす。


「アイス!」



 空中にて形成された氷柱が火の玉めがけて落下し、そこでやっと火の玉が消えるように散っていった。

 しかし、地面に着地したアズキは内心焦っていた。



 (──もう少し判断が遅かったら、餌食になっていた──)


 微かに足に火傷を負い、それでも尚アズキは両の足で立ち上がる。



「お、お嬢……もう出てもいいですかねぇ…?」



 そんなアズキの後ろ姿を見ていたクルックは恐る恐る建物から身を出す。

 そして、地面に氷柱が突き刺さっていることを確認した後、クルックはすぐさま支部の方へと連絡をする。



「厄介なことになりましたねぇ……」

「ええ、そうね。恐らく他の場所で起こったことも同一犯の可能性があるわ」

「? ……何故です?」



 アズキは書類にあった場所を記した地図を取り出し、現在位置を確認するとクルックに示す。





「この不可解な事件が起こる場所が一直線に繋がっているからよ」







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