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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
3章 牙の在処
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出張なんでも屋

「る、ルーカス……お前ってやつは……」


 カリヤの手を取ったルーカスの表情には一切嘘といった様子はなく、ただ純粋な気持ちから言っただけのようだった。

 思わず泣きそうになって目頭を抑える。


 田舎者田舎者と言われ続け、果てには化け物扱いを受けるようになった。

 その俺に──


「か、カリヤ君……?」

「……いや、なんにもない。なんもねぇよ、ありがとなルーカス……」


 じんわりと手のひらに伝わる温もりで、カリヤはここ数日覚えることのなかった安心感を感じていた。


 そんな二人の様子を温かく見守っていた導は、ゆったりとした口調でタイガに問う。



「ところで、何故タイガ様はカリヤ様を背負って疾走なさっていたのですか?」

「……」

「おや、だんまりでしょうか」



 タイガよりも背の低い導は、それでも上位戦闘員としての威厳や雰囲気があるのか、ゆったりとした口調の中にも棘が見られる。

 が、タイガは依然として無言を貫くようだ。


 まぁ連れ回した理由がただの腹いせだと言いたくないだけかもしれないが。



「あー、導さん。タイガのことはあんま気にしないほうが……」

「しかし、カリヤ様は現在プラグを使用することを禁止されているのでしょう? そんな方を背負って連れ回すなど……規定違反になっても仕方のない行為なのですよ?」

「……」



 規定違反ねぇ……

 なんだかんだアズキに色々巻き込まれてここまでやってきたわけだけど、振り返ってみると規定違反みたいなことをしてきたような気が……



「規定違反だとどうなるんすか?」

「良くて謹慎、悪くて位を剥奪されるでしょうね……」

「げ」



 でもこの変な手錠のせいで離れることなんて出来ないし、かと言ってタイガに大人しくしてろと言っても聞かないし……

 このまま勝手に引きずり回されるのが目に見えている。


 と、カリヤがうんうん唸っているのを見て、導は険しそうな表情から一転、穏やかな目でカリヤを見つめる。



「大丈夫ですよ。ショート狩りはなにも戦うことだけが主体の行事ではありませんから」

「え? それってどういう……」


       ◆◇◆◇◆◇◆




「いらっしゃいませー! 団子一ついかがですかー!?」



 声を張り上げ、目の前を通り過ぎていく隊員へと試食用の団子を差し出す。

 が、どの隊員にも受け取ってもらえず、カリヤは盛大にため息をついた。



「カリヤさんっ! ため息をつくとお客様がにげてしまいまします! しゃきっとしてください!」

「って言われてもな……こう人が寄ってこないんじゃため息つくしかないぜ、梅ちゃん」



 客の居ない茶屋を見て、カリヤはまたため息をついた。

 ──おかしい。どうして俺はここで下働きをさせられているんだ。


「せっかく雇ってあげたんですから、その分しっかり働いてくださいまし!」

「はいはい」


 自分よりも年下の少女にぷりぷりと怒られ、カリヤ自身の自尊心が多少なりとも傷つくがそれはそれ、これはこれ。


 今の自分は茶屋の接客。導先輩も言っていたがこれでも立派な隊員としての職務!

 ショート狩りで出店している屋台の手伝いや受付の書類運び、付近の街の警備などやることは沢山ある!


 さぁって、気合い入れて行くぞーー!!




「って、これただの何でも屋じゃねーか!!」

「な、なんですかいきなり!」

「俺は隊員なの! 戦闘員なの! なのになんで下働きみたいなことしなきゃなんねーの!?」


 カリヤは手に持っていたお盆に齧り付く勢いで梅に迫る。

 当の梅は困惑したような声を出しながらもカリヤに反論した。


「なんでと言われましても、先程カリヤさんから何か手伝えることは無いかと言われたからこうして接客を……」

「そうだよな、そうなんだよな……そこまではいいんだよ。問題は……」


 カリヤは自らの手錠の先を見て、嘆くように叫んだ。



「なんでタイガはそこですやすや眠りこけてんだってことなんだよ!」



 俺が汗水流してお客を呼ぼうとしてるっていうのに当の本人は木陰で昼寝をしているこの状況!

 働くのはこの際しょうがないけど、やるんだったらこいつを働かせてやりたい……!


 ただでさえこの茶屋は人気の少ない、山の麓にあるのだから集客には一向向かない。そもそも近くに他の出店がないため、繁盛させるのは一苦労だ。



「せっかく食堂から出張して茶屋を開きましたのに……カリヤさまは全然役に立ってくれませんし、タイガさまは寝ていらっしゃる……一番悲しいのは私なんでしです!」


 と、逆に責められ勢いを削がれたカリヤはまたため息をついて荒く頭をかいた。



「悪かったよ……でも梅ちゃん、まずそもそもこの店の立地が悪くねーか? もうちょっといい場所とか無かったのか?」

「んぐ……こ、ここが一番安かったので……」

「あ~、なるほど自腹で出店したわけだ」


 道理で食堂から出張と言うわりに、店構えがチープで売り子も梅ちゃん以外居ないのか。

 しかし、それでも茶屋らしく抹茶と和菓子がしっかりと用意されているのは梅ちゃんの努力の結晶か。



「でもお茶もお菓子も美味しいんだよな……これ全部手作り?」


 箱から一つ、白い餡を薄い桃色の皮で包んだ和菓子を手に取り口に放り入れる。

 口の中でほんのりとした甘みと粉特有のざらつきが混ざりあって、口の中が甘ったるく塗りつぶされる。

 が、そこで苦味のある抹茶を啜ると一気に口の中でメリハリが生まれ、甘さと苦味で幸福感が身体中を巡っていく。


「ん~~うまい。余ったら持ち帰っていい?」

「いいでしですけど、余らせないように働いてくださいね?」

「それはちょっと……」



 無理かな、と言いかけて背後に気配を感じ、カリヤは後ろを振り向いた。

 そこには背の低いカリヤでもさらに見下ろすことの出来る背丈の老人が、それでもしっかりとした足で立っていた。


「すまんが、お茶をくれんかね?」

「ああ! ごめんなさい! 今すぐ用意するでしです! カリヤさんはお客様を案内してくださいませ!」


 お客に気づいた梅は颯爽と茶器に抹茶粉を入れ、熱湯を注ぎ出す。

 カリヤは老人向けに用意されていた低めの座席へとその老人を案内し、ようやく接客らしいことが出来たと、安堵の息を漏らした。



「いやなに、ここまで来たは良かったんじゃが何分足が悪くての……」

「はあ、でもよくここまで登ってこれたなぁじいさん。けっこうキツかっただろ?」

「はっはっは。これでも昔はショート対策軍に入っておったからのお」


 カリヤの世話好きがそうさせたのか、老人との会話に花が咲く。



「え? じいさんショート対策軍に入ってたのか?」

「ああ、あの頃はやんちゃしててなぁ……お前さんもそうじゃろ?」

「なはは……そうかもな」



 多分老人が想像しているやんちゃ以上のやんちゃをしていると思うが口には言うまい。

 一時指名手配されたなど、自分にとってもあまり口に出したくないことばかりだからだ。


 と、過去の自責に思いを馳せていると、老人が感慨深そうに茶屋の古びた看板を見ていた。



「竹屋か……この名前を見るのも懐かしいのお」

「懐かしいって…じいさん、この店はあの女の子が自分で出店したんだぜ?」

「いんや、儂が隊員だった頃にも"竹屋"と言う茶屋があっての……それはもう別嬪なお嬢さんが店番をしてて繁盛してたわい」

「へぇ……」



 今のじいさんが隊員だった頃ってことは大体六十年前ぐらいか。

 そのときのショート対策軍がどんな感じなのかは勉強してないから分からないが、このじいさんを見る限りそこそこ充実してたんだろう。

 じゃなきゃここまで長生きしないだろうしな。



「お待たせ致しました。お抹茶と落雁でしです」

「おや……」

「? どうなされましたか?」


 上品にたてられた抹茶と和菓子をお盆に載せてやってきた梅を見た途端、老人のぼやけていた瞳の色がはっきりと濃くなったように見えた。

 カリヤは何だかその表情が、喜びのような悲しみのような、複雑なものだと直感的に感じた。



「……いんや、なにもないよお嬢さん。じゃあ、頂こうかね」

「はい! ゆっくりとしてくださいまし!」




      ◇◆◇◆◇◆◇



「結局、来てくれたのはあのじいさんと数人だけだったな……」

「はい……でもまだ一週間ありましますし、これからでしです!」

「前向きだな……」


 辺りはすでに夕暮れのオレンジ色に染まっており、店じまいの時間だ。

 通行人もほとんどおらず、そもそもオケナガス盆地は片田舎にすぎないため人は皆すでに帰路についている。



「ん? でも、盆地からファラデー支部まで結構かかるよな? 一時間とはいえ、電車一本で帰るには手間かかるし……」

「大丈夫でしです! ショート狩りの時期はこの近くの宿が全部貸し切ることが出来るのでしです! それにポータルもありましますし!」

「ポータル?」


 看板を裏返しにし、手っ取り早く店じまいをしたカリヤ達は、黙ったままのタイガを引き連れてポータルがあるというファラデー支部の拠点を目指し歩く。

 繁盛していた店ももう閉まっており、他の隊員もカリヤ達の向かう方向へと足を進めていた。



「あれ、おかしいでしです」

「なにが?」


 頭一つ分低い梅の方へと首を傾げ、梅の指さした場所へと視線を移す。

 そこにはポータルらしき門と、その周りを取り囲むようにして群がる隊員の姿があった。



「いつもだったら皆、列に並んで順番に転送していくのでしですが、様子が変でしです」

「もしかしてポータルが故障してんじゃねぇの?」

「むむ……もしそうなら今日はここで泊まるしかないでしですね……まぁ、明日も店を開くので支障はありませんが!」



 次第に、門の周りにいた人達は宿泊施設の方へと足を向けた。


 俺達もその後ろをついていくようにして宿のある村へと向かう。



「にしても本当にお祭り騒ぎみたいなイベントだな……俺達戦闘員のためのボーナスみたいなもんだろ? ぶっちゃけこれ」

「そうでもありませんよ! ショート狩りでショートを捕まえて研究することもできますし、私みたいな人にも利益はつきものなんでしです! つまり、これは一大イベント! 社会全体に影響するんでしです!」


 梅はあくまでも和食亭の看板娘にすぎない。というのにここまでショート狩りに詳しいのは何故だろう。



「なーんか、セールスみたいな口ぶりだけどどこで習ったんだ、それ?」

「いえ! お店によく来る研究員の方や戦闘員の方のお話を盗み聞きしました!」



 ほーぉ、なるほど盗み聞きね。

 どいつも、こんな女の子が自分たちの会話を逐一チェックしてるなんて思いもよらないだろうし、看板娘の見せ所とはこういうところか。


 

 歩いていくうちに段々と辺りがオレンジ色の照明で照らされ、コンクリートの道にさしかかる。

 宿というにはこじんまりとした藁葺き屋根の家々が連なり、辺りの景観を損ねないような工夫が目に取れる。



「へぇ……田舎以外にまだこんな家があったんだな?」

「はい。私はけっこう好きでしです。私の実家もこんな感じなので……カリヤさんは?」

「ん? ああ、俺の実家はすげえ田舎で……確かばあちゃん家が藁葺き屋根だったかな」



 長野の中でもさらに奥まった山の麓にいる祖母に思いを馳せる。

 子供の頃はよく祖母の元に預けられた事もあり、カリヤは度々祖母の家を訪れている。



 ──もしかしたら俺の人助けっていう目標も、ばあちゃんがきっかけなのかもしれねぇな




「そうでしたか……あ! あそこです! あの宿が一番お手頃価格なんですよ!」

「お手頃価格って……」



 カリヤは笑顔で宿へと駆ける梅の後を追っていく。

 そして、タイガはそんなやり取りを見ながら渋々二人の後をついていくのだった。




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