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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
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駆け引きの末

 カリヤは積み上げられたダンボールの隙間から静かに様子を窺っていたが、内心は焦りでいっぱいだった。


 ――――逃げ切れるとかっていう問題じゃねぇ、最悪解剖されて人生が終わっちまうぞ!


 この状況に歯噛みしつつも身動きがとれないカリヤは、隙を見て走り出そうとしたり踏みとどまったりと、この場を乗り切る算段が立たないでいた。


 と、ずっとカリヤの名前と顔写真が映されていた液晶に別の放送が流れる。



 『訃報:トオル班所属のロウ、キボウの二名の死亡。死因は人型ショートによる攻撃と思われる。』



 人型ショートという言葉にその場が騒然とする。

 カリヤを捕まえてやろうと奮起していたガタイのいい男性がその視線を液晶画面に向けると、ため息を吐いた。


「はぁ…人型ショートがなんだってんだ、簡単にへばりやがって、これだから下位戦闘員の寄せ集めはよぉ」

「お前、そう言うけど人型ショートって強いんだろ? 上位戦闘員でも歯が立たないっていうじゃんか」


 隣にいた細身な男性がその言葉に噛み付く。その顔には不満が表れており、キボウとロウの死に、悲しみを抱いているようだった。



「あぁん? 俺をなんだと思ってるんだよ、中位戦闘員の中でもトップクラスだっての! そういうお前は下位研究員だろうが! 生意気なこと言ってんじゃねぇぞ!」

「ひっ……」

「大体なぁ、キボウとロウって言ったらあの雑魚資質の野郎どもじゃねぇか! あれと比べてんじゃねぇよ!」



 自尊心に火がついたのか、ガタイのいい男性が細身の男性の肩を掴んで殴りかかろうとする。

 周りの人達は、その諍いを宥めようとはせず遠目に見ているだけだった。



 ──ふざけんじゃねぇぞ。  




 カリヤの心には、ショートにキボウとロウを殺された時の怒りがふつふつとまた湧き上がってきていた。

 雑魚資質の、野郎……?



「今言ったこと取り消せ、クソ野郎!!」



 カリヤは立ち上がり、大声で叫んだ。

 その途端、ガタイのいい男性がギロリとカリヤを睨みつけたが、その表情がだんだんと驚愕に変わっていく。


「な……、あの写真のガキ……ってことはお前がカリヤか!?」

「ああ、そうだよ! なんか文句あるか! よくもキボウとロウの悪口言ってくれたな!? あの二人はなぁ!」


 まくし立てるように声を出したカリヤは、一旦鼻から空気を吸うと一段と大きな声を出す。



「自分達の夢を叶えようと、精一杯頑張ってたんだ! その頑張りを否定するんじゃねぇよ、この木偶の坊がぁあ!!」



 言い切ると、荒い呼吸を繰り返し、カリヤは精一杯の力でその場から走り出した。

 散々叫んだ挙句その場から逃げ出したカリヤを見逃してくれるはずはなく、ガタイのいい男性含め複数の隊員がすぐさまその後を追う。



「このクソガキぃぃ!! 捕まえてやる!!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ──同時刻、会議室にて。




「欠席などと許されるものか! 今すぐにでも連れてこい!」

「いやぁーそれが無理なんですよぉー、お嬢にもやることがあるらしくてですねぇー……」

「こちらの方が優先すべき案件だろう!? この事件を説明できるのはアズキぐらいなものだ!」



 唾を飛ばしながら机を何度も叩く総監の顔は真っ赤で、怒りが真っ先にクルックを突き刺す。

 が、当人のクルックはのらりくらりとした態度で総監の言葉に対抗する。


 

「落ち着いてくださいよぉ、なにも、お嬢の欠席を伝えるためだけに僕が来たわけじゃないですからぁー」

「……では、なんだ。アズキの代わりに君が事の説明をしてくれるのか?」


 冷静な態度で、右翼と呼ばれる数人の内の一人から声がかかる。

 総監は、勝手な発言だと認識し右翼を睨みつけるが、発言自体に反論はないらしく今度は返答を求めるためにクルックに視線を移す。



「ええ、もちろんですよぉ。名乗りが遅れましたが、僕は【通信兵監】の諜報員·クルックと申しますぅ、なので今回の件は通信兵監としての視点から説明させていただくのでご了承くださいねぇー」

「ぬ。通信兵監の諜報員だったか。」

「ならば、公平性が保たれるというもの。総監殿、一度席についてはいかがか。」


 左翼と呼ばれる数人が、クルックの言葉を聞いて、総監を宥めようと声をかける。

 総監は真っ先だった顔を歪めつつも、大きな音を出して着席した。



 やっと話が進みますねぇ……


 実の所、クルックはこういった権力同士の争いが嫌いである。争っている暇があれば、武器を手に取り自ら戦線に立つことができるというのに。


 改めてクルックは両手を軽く叩き、話を切り替えようとにっこりとした笑みを浮かべる。



「今回の件につきまして、皆様にお願いしたいことがありますぅ、なので、説明の後に検討していただければと──」

「くどい、さっさと話せ。」

「……はい、わかりましたぁ」


 話を切らないで欲しいですねぇ……ああ早く休みが欲しいですよぉ。


 クルックは内心悪態を吐きつつ、新たに映像を机上に提示する。



「始まりは、トオル班が請け負った依頼からです、依頼内容は”街の一角から出現したFランクショートの討伐”でした。到着したトオル班の調査によると、ショートを手引きした人間がいたらしく、その人間は逮捕されましたがトオル班が着いたころにはショートがいなくなっていたそうです。」


 映像にはトオル班の数名と、捕まった容疑者が映る。

 クルックは手元のスイッチで次の映像へと切り替える。


「そこに、新入隊員であるカリヤ、ルーカスの両名が捜査に加わりました。どうやら付近で別の依頼をこなしていたらしく、トオル班としても猫の手も借りたい状況だったため参加を許可したそうです。」


 嘘なんですけどねぇ。

 成り行きで参加したなんて言えば、なんて反論されるか分かりませんからねぇ……



「その後、トオル班のロウ、キボウ、一般市民の協力を借りて、逃走したショートの殲滅を完了。その連絡の途中で人型ショートと遭遇し、キボウ、ロウ両名が死亡したようです。そこで明らかになったのが──」



 クルックがもう一度スイッチを押すと、画面には”死亡後であろう”カリヤの姿が映る。



「うなじに触れられたはずのカリヤ隊員が何故か生き返り、その身で人型ショートを撤退させたことです。」



 右翼も左翼も動揺を隠せない。隣の席の人物同士でヒソヒソと言葉を紡ぐ。

 総監はじっとりとその画面を睨みつけ、その眉間には皺がよっていた。



「そして、医務室に運ばれた彼の胸部にはコンセントと思わしき物体が埋め込まれており、計二つのコンセントを彼は所持していました。」

「二つだと!?」

「ありえない! そんな者は見たことも聞いたこともない!」


 ヒソヒソと話していた面々は、血相を変え大声で騒ぎ立てる。

 しかし、すでにこのことをうっすらと知っていたのか総監に驚愕の表情は見られない。



「コンセントを二つ持っていることは聞いた。だからこそ、捕獲命令を出してある。そのうちこの部屋に来るだろう。」


 案の定、すでに対策は取っていたらしく、総監は低い声で呟く。


「その者からも、話を聞かねばならないからな」

「そこなんですよぉ」

「……なにがだ?」


 丁寧な口調で説明をしていたクルックは、突如再び元の口調で総監に話しかける。



「彼の捕獲命令を取り消してくれませんかねぇ」

「…ほう、何故だ? あいつは危険分子になりうる。隊員達の安全のためにも捕獲するのは妥当ではないか?」

「だって、あなた達は彼を処分するつもりでしょー?」


 映像を消し、クルックは真面目な顔で総監の顔を見つめる。

 その瞳には呆れが表れており何度も見たと言わんばかりにクルックはため息を一つ吐いた。


「処分するのはやめてもらえませんかねぇ」

「彼に処分以上の利益があるのなら考えたものだが、これはどうだ? 敵味方見境なく、攻撃しようとする暴虐性。そんな輩がこの支部を歩き回っているというのにすら、悪寒が走るのだよ。処分するしかあるまい。」


 

 短絡的だなぁ、もっと周りを見て欲しい。

 

 クルックは頭の裏をかいて、また言葉を紡ぐ。


「けど、彼は人型ショートをも凌ぐ力を保有していますよぉ。使わない手はないでしょう?」

「ショートだけでなく、人間も襲うようなら不要だと言うことだ! 何故分からない!」


 再び火がついた総監は、机を叩くことはなかったが迫るような剣幕でクルックに反論する。

 そういうところなんですよねぇ。



「もしかして、お嬢がカリヤ隊員を贔屓にしているから、やっかんでるとかじゃないですよねぇ?」

「そんなことはない! これはこの場の人間の総意だ!」

「はぁ……」


 右翼と左翼をチラリと見るクルックは、その双方が納得しているような素振りを見せていて腹が立った。


 

「では、これならどうです? もし、その暴虐性を抑えることができ、操ることができるとしたらぁ?」

「そんなもの………」

「皆様もご存じのはずですよぉ。今期の新入隊員として入隊し、わずか二日で中位戦闘員に上り詰めた人物を。」



 その言葉を聞いた瞬間、右翼と左翼に動きがあった。

 いいですねぇ、その調子ですよぉ。



「──中位戦闘員·タイガ。ええもちろん今回の件も後始末をつけたのは彼です。彼ならば上手くカリヤを制御し、ショート対策軍いいえ、この第三支部の主力となってくれるはずですよぉ。」 


「確かに……映像でも彼は上手く捕獲対象者をあしらっていた……」

「ならば、その隊員の管理下で行動させることが利益に繋がるのでは……」



 双翼、反論の立場にいたがクルックの言葉に我を取り戻し、再び考え直しているようだ。

 クルックはその様子を見て口の端を持ち上げた。



 ──あともう一押しですかねぇ



 クルックは胸ポケットからある封筒を取り出し、その中身を広げる。

 そしてその文を読み上げる。


「『通信兵監総監の名において、ここに先導者からの予言を記す。先導者曰く、二つの戒めを持つ者が未来を決する。従って、この者を処罰し行動を制限することを禁ず』とのことを、知らせるべく言伝を承りましたぁー」

「なっ、先導者様が…!?」

「戒めとは、コンセントを指す言葉……であれば……」



 クルックは紙を折りたたみ封筒にしまうと、ニヤリと笑みを浮かべる。


「これでもまだ、彼を処分するおつもりなのでしょうかぁ?」



 その視線を向けられた当のショート対策軍第三支部総監は目を伏せ、諦念の気持ちのこもった声を発した。



「……先導者が言うのであれば、仕方ない」



 その言葉に双翼反論はないらしく、素直に頷く様子が見てとれた。


「では、ここからが本題なんですけどぉー」

「なに? 今までのが本題ではなかったのか?」

「ですから、説明の後にお願いがあるって言いましたよねぇ、僕?」


 これだから話の聞かない老害はこま──おっと。

 クルックは滑る口をなんとか抑え、話を続ける。



「先程言いましたタイガ隊員についてですが、一応彼はアズキ班に所属しているのでぇ、彼がカリヤ隊員と共に行動するにはちょぉっと制限がありましてぇー……」

「なんだ、言ってみろ」



 クルックはゴマすりをしながら懇願する。



「カリヤ隊員を下位戦闘員に昇格させ、彼を正式にアズキ班に入れてくれませんかねぇ?」







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