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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
35/75

一縷の望み

 ──Sランクショート。実際に存在しているかは明確な記録がないが、過去に起こった大規模な破壊行為や戦争においてこのショートの関与がまことしやかに囁かれている。 


 アズキから聞いた話を少し思い出す。

 Sランクショートは人の姿をしているらしく、その強さはショート対策軍の支部二つ分を悠々と壊滅できるほどだという。

 あの時は眉唾ものだと笑ったカリヤだが、実際に目の当たりにすると緊張で体が動かなくなってしまった。

 カリヤは、キボウの死によって打ちのめされたロウの、ひたすら涙を流して今にも飛び出しそうな体をなんとか抑え込む。



「………っ」



 呼吸すらままならない。すぐ目の前に死が待ち構えているプレッシャーは今まで感じたことがない。

 横目にルーカスの方を見れば、さすがに俺と同じ心境なのか、じっと相手を凝視していた。

 しかしつとむを抱える手は震えているように見える。このままでは精神が持たないだろう。カリヤも、ルーカスも。



「キボウ………キボウ………っ」



 ロウのしゃくりあげるような声が至近距離で聞こえる。手も、キボウの死体へと伸ばすように暴れる。



「……ダメだ、ロウ」

「え……っ…?」


 ショートに聞こえない程度の大きさでロウへと制止の声をかける。

 ロウはいまだ現実が理解できていないようで、真っ赤に充血した目でうつらうつらとカリヤを見上げる。


「キボウは、もう……」

「っ!」

「だからとにかくここは逃げる。あれは、俺たちにどうにかできる相手じゃない。」



 カリヤの視線の先にはキボウの頭を様々な角度から見て楽しむショートがいた。幸運にもこちらのことをあまり気にかけてこないようだ。

 角度を変える度に、笑顔のキボウの顔がちらちらこちらを見る。



「クソ野郎が……」


 カリヤの心中にはふつふつと怒りが煮えたぎるが、どう考えても格上の相手に馬鹿みたくぶつかっていくような無茶はしない。

 いや、できない。


 それはロウも同じらしく、悔しそうに唇を噛んで耐えている。その唇からは血が滲んでいるが、カリヤもそれを止めてあげられるような平静さはない。



 どのくらい経っただろうか、ショートが玩具のように頭を撫でたり振ったりしているうちに、いきなりそのショートの動きが止まった。



「はー……楽しかった。でも、飽きちゃったなぁ」



 突如、先程まで愛おしげに扱っていたキボウの頭に興味を失ったかのように、その頭を地面へと落とした。



「っキボウ!」



 ロウの声も虚しくキボウの頭は笑顔のまま、ショートの足によって潰された。




 ──ぐしゃり




「あ、あああ………」


 残ったのは黒い髪と、血と肉片だけだった。



「飽きちゃったし、新しいの探さないとなぁ。──ああ、そういえば他にも隊員がいたんだっけ? ああ、楽しそうだなぁ」


「ふざけるなぁああああぁああ!!」


「っ、ロウ、ダメだ! 行くな!」



 カリヤの制止も聞かず、一気に頭に血が上ったロウがショートの方へと駆け走る。

 その腕にはプラグである鎖が展開されており、まさにショートに向かって鎖を投射していた。



 だが、カリヤの頭には真っ先にロウの死がよぎる。



 ──ダメだ。ダメなんだ。それ以上は─!




「喰らえ! 化け物おお!!」



 鋭い速さで鎖がショートに巻き付き、そしてそのまま遠くへ放り投げようと、ロウは力を込めたが、



「ムーン」



 驚くべきことに、捕らえたはずのショートの体が靄のように散り散りにばらけた。まるで、先程出会った特異体のように。

 力を込めたロウの体は、鎖の先のショートを失ったことでバランスを崩し前のめりに倒れた。

  


「…っロウ! 戻れ! あいつは…!」


「ははっ……楽しそうだなぁ」




 カリヤが叫ぶ中、靄になったはずのショートがロウの近くで再び実体化し、ロウへと腕を振り上げる。

 カリヤの足は地面を蹴り、カリヤはロウの元へと飛び出す。



「っ……、ごめんなさい、キボウ…ごめ」




 泣きながら謝罪をするロウの言葉が途中で止まる。

 カリヤにはその動きが全く見えなかったが、次の瞬間にはロウの首がショートの手のひらに収まっていた。



「っこ、の野郎……!」

「カリヤくん!?」



 ルーカスの声が聞こえる。けど、もう止まれねぇんだ。体はもう飛び出してるし、なにより。



「こんなことをするてめぇが許せねぇ!」



 カリヤはその体勢のまま、背中からハンマーを手に取るとさらに加速する。

 

 ―――――S級だろうがなんだろうが、こんなことをする以上、見過ごせるわけがねぇ!




「コネクトぉ!」


「ん…?」



 緑色に発光するコードを靡かせ、カリヤは低い体勢から突き上げるようにハンマーを振るう。

 が、ショートには一切動揺したような様子は無く、軽々とその攻撃を長い爪で受け止めた。



 ──爪だけで、受け止めやがった!



 けれど、先程のような靄にはならない。どうして靄になるのか検討がつかないが、これはチャンスだ。



「おらぁ!」

「……」



 そのハンマーにさらに力を込めるが、カリヤはある変化に気づいた。

 少しだけ、ハンマーにかかる力が弱まったのだ。



「…っ」


 途端、ショートの体が靄になり始め、カリヤは一旦ハンマーをショートの体から離し後方へと飛び退いた。



「へぇ……君、おもしろそうだなぁ」


「どういうことだ…?」



 最初、確かに感触はあった。ハンマーで殴ったときの音も反動もしっかりと実体に当てたような感じがした。

 なのに力を込めたらすり抜けようとしてきた。どういう原理だ。


 ロウの鎖も最初は捕らえたはずだったのに少秒後、ショートは靄となり鎖を抜け出していた。



「……もしかして」

 


 カリヤはハンマーを握り直すと、再びショートを睨みつけ地を蹴る。

 ショートはロウの頭に興味が失せたらしく、キボウの時のように地面に落として踏み潰した。



 ──ぐしゃり



 不快な音だ。

 数分後に俺も同じ道を辿るようなら、この行動は無駄なことかもしれない。

 だけど、この怒りを残したまま逃げる、なんてことできるわけねぇだろ!


 


「はぁっ!」


「うん?」




 カリヤは中腰の体勢でショートにハンマーで殴りを入れた。

 もちろん、その攻撃はショートの爪によって再び止められたがカリヤは先程とは違う動きをした。



「せいっ! おらぁ!」


 当てては戻し、当てては戻し。

 ハンマーが相手の体に当たる度にすぐにハンマーを引っ込め、別の方向から攻撃を当て続けた。

 ハンマーとショートとの接触時間はおよそ一秒にも満たない。



 カリヤは、これまでの接触を経てある仮説を立てていた。

 靄になるのは、その物体と数秒接してからであり逆に言えば数秒接していないと靄になれない。すり抜けられないのではないか。と。



 案の定、ショートが靄になる兆候は見られない。攻撃自体はあんまり効いていないようだが、微かに後ろへ下がっていっている。



 ──いける! やっぱり俺の仮説はあってた!



 カリヤはハンマーを振り続ける。が、カリヤの体力は無限ではなく、さらには剣よりも重量があるハンマーを振り続けるのはカリヤの体には酷であり、カリヤの額から汗が滝のように流れる。



「ふぅん……ここまで耐えるなんてねぇ…おもしろそうだけど、ちょっと足りないかなぁ」


「がっ…!?」


 ハンマーを振り上げたカリヤの腹めがけて、ショートの足蹴りが襲う。

 それはカリヤの動きが鈍くなった一瞬だった。蹴りを受けたカリヤの体は後方へと飛んでいく。


 そして、大きな音と砂煙を起こしてカリヤの体が地面へと激突した。



「か、カリヤ……っくん…?」



 ルーカスはその身を震わせながら、カリヤが飛んでいった方向を見る。

 まさか、彼も。




「っげほ……! げほっ、がはっ…!」



 しかし、嫌な想像をしたルーカスの耳にカリヤのむせた声が届くことによって、ルーカスは安堵の息を漏らす。

 が、蹴りあげたはずのショートは元の場所には居らず、カリヤのすぐ目の前に立っていた。

 ルーカスは思わず目をつぶり、顔を背ける。自分の友達までも同じように首が飛ぶ様など見たくなかったからだ。



「っぐ…くそっ…痛てぇ……」


 いくら第一基礎が土であっても、痛いものは痛い。カリヤはえぐれた地面に肩肘をつき、すぐに体勢を整えようとするが、



「だ、めだ……っ、力、入んねぇ……」



 力を込めた状態で蹴られ、どこかの骨が変な方向へ曲がったらしく、痛みでカリヤは立てずにいた。

 しかし、相手は待ってはくれない。目の前にはショートがニヤニヤとした笑みを貼り付けこちらを見下ろしていた。


 


 ──俺も、首切られんのかな。



「はっ………はぁっ………」

「すごいなぁ…あれ食らってまだ息があるんだなぁ……」


 相手からの賞賛も耳に入らない。そんなこと言われても嬉しくない。

 もういっそこのままさっさと首を切って欲しいぐらいだとカリヤは一気に力を抜く。



 痛いのは嫌だ。けれど、痛いのを我慢してまで悪あがきしたって仕方ないだろう?


 頭の片隅にいる自分がそんな言葉を呟く。

 けれどそれを否定するような力も、元気も残っていない。

 どうせもう逃げられないなら、逃げなくてもいいじゃないかと。カリヤは諦めることを選択した。




 目の前のショートの手がゆっくりとこちらへ伸びてくる。



 ごめんな。キボウ、ロウ。俺がもっと早くに気づいて連れて逃げていれば良かったのに。



 脳裏にキボウの笑顔と、ロウの苦しむような泣き顔が浮かぶ。けれど、その光景の端々にある人の存在があった。

 


「フタミ……」


 走馬灯だろうか。 

 フタミとの思い出が次々へと浮かんで消えていき、それはだんだんと最近のものへと変わっていく。

 妹のリンが俺のショート対策軍入隊を快く受け取ってくれたこと。初めての東京で、初めてのショートに出会ったこと。女神みたいな人に出会ったこと。そのあとショートに襲われて、なし崩し的に俺の人生を賭けて、アズキの駒としてショート対策軍に入隊したこと。模擬テストでタイガにボッコボコにされたこと。初めての依頼で、ルーカスと共闘したこと。そして、今のこと。


 そこまで思い返して、カリヤはふと顔を横に傾ける。



 ──そういえば、つとむはどうなった…?



 砂煙が止み、鮮明に辺りが見えるようになっていた頃、カリヤの視線の先で少年がこちらへと走っているのが見えた。

 ダメだ、ダメなんだ。つとむ、来ちゃダメだ。



「…っ……!」


 ──? なんだ? なんて言ってるんだ…?



 少年は何か叫びながらこちらへと走ってくる。その顔は青く、いまにも倒れそうなのに一体なにを……






「……っまけないで、おにいちゃん!!」







 途端、カリヤの瞳に光が宿った。

 そうだ。そうだった。なにをここで終わらせようとしているんだ俺は。



 ここに助けるべき人が居る。ここで助けることに意味がある。そんなことも気づかなかったなんて、クソ野郎にも程がある。



「……っああああ!」



 ショートの手の平が迫ってくる中、カリヤは首に下がっていたお守りを掴むと、渾身の力で引きちぎりつとむの方へと投げた。



「つとむ! これを、破けええ!」


「っ…! うん、わかった…!」



 カリヤの投げたお守りは放物線を描いて、つとむの手のひらへと吸い込まれていった。

 

 そしてつとむがそのお守りを引っ張ってお守りを破くと同時に、カリヤの首をショートが掴んだ。




 その細い首を掴まれ、苦しそうなカリヤを細目で見つめ、ショートは自身の指をカリヤのうなじのコンセントへと伸ばした。




「はい、おしまい。」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……? ど、どうなったんだい……?」



 やけに静かだ。さっきまで激しい戦闘音がしていたというのに。ルーカスはつぶっていた目を開け、カリヤのいるであろう場所を恐る恐る見る。



「! か、カリヤ……くん……」



 そこには、ショートがカリヤの首を鷲掴みにして高く持ち上げている光景があった。持ち上げられている当人の体は脱力したように、だらんとぶら下がっていた。



 ―――――――ああ、カリヤくんも終わってしまった。



 しかし、ルーカスは心の奥底ではあまり驚きはしなかった。先に二人も瞬殺で殺られれば実力差が嫌でも分かってしまう。

 もう無理だったのだ、この場にいる人では。



「うっ……僕が……僕が、頑張らなければ…っ!」



 でも、それでも尚立ち上がらなければならないんだ。そこに守るべきものがあるなら尚更、僕は輝いていないといけない…!



 ルーカスが再び剣を構え、立ち上がった瞬間、数秒前との異変を感じた。



「(あれ…? なんだか、カリヤくんが動いたように見えたが…?)」



 微かに、カリヤの腕が動いた気がした。

 けれどうなじのコンセントをショートに触られれば誰だって死んでいる。たとえ致命傷を受けていなくとも、全人類共通だ。だのに──



「カリヤくん……?」



 なぜだか、彼がただでは死なないような気がしてならない。


 ルーカスがカリヤの名前を言った途端、その疑問はすぐさま晴れた。 

 



「……………」

「ん? どうしたのかなぁ?」



 ショートも違和感を感じたらしく、死体に話しかける。

 が、死体は死体でなくなった。


 バキバキと音を立てて骨折した骨が元の方向へと戻っていく。もちろん、擦り傷も無くなっていく。



「───」



 そして俯いていた顔が起き上がると、濃い緑だったはずの瞳は赤く煌めき、その表情は目の前の獲物を捕らえた獣のようにぎらついていた。



 その目を見たショートは思わず身震いした。恐怖からではなく、歓喜から。




「──楽しそうだなぁ…!」

 




主人公意識不明モード入ります

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