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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
34/75

キボウノアタマ

「さぁ、反撃開始といこうか…!」


 言うやいなや、ルーカスは空間をその剣で一閃する。

 剣の表面を覆う光の筋はその軌道上を辿り、先程よりも広範囲の靄を晴らしていった。


 すると、靄で見えなかったサーべージドッグの姿が現れ、驚いたのか逃げるようにその場から散開した。


「はっ、バレバレだっての!」


 俺はすぐさま逃げ遅れたショートを追い、高く飛び上がって地面へとショートごとめり込ませた。



「ルーカス、今のもう1回だ! あと、広範囲に頼む!」

「任せてくれたまえ…! 華麗に輝いてみせようじゃないか…!」

「わ、私たちを守りながらですよ…!?」

「ああ、もちろんさ…!」


 未だにつとむやロウの周りには目に見えないショートが隙を窺っているが、ルーカスには関係ないらしく、エフェクト【シャイン】によって斬られ、そして斬られた空間に漂っていた黒く重たい靄も晴れていった。

 これで見えない敵に怯えるようなことにはならずに済む。


「なんだ、数はそんなにいなかったのか」

「……はい、拍子抜けです。いっぱい居ると思っていたのですが、やはり数は減っていたようですね」

「ねぇ! もう! 私の重力操作、切っても! いいですかね!?」

「あ、ああ。もう大丈夫だと思う」



 ずっと重力操作をしていたせいで、彼女の顔には溢れるばかりの汗が滴っていた。



 エフェクトもそうだが、プラグはその人自身の体力と資質を消費して発動している。

 かくいう俺の資質だって微々たるものだが、畑仕事で鍛えた体力でなんとかカバーしているため、並の戦闘員程度にはプラグを扱うことができる。


 話が逸れたが、まずは目の前の敵だ。

 ルーカスは靄を晴らすと、その勢いのままショートを斬り伏せていた。

 どうやらルーカスのエフェクトは少し変わっているようで、先程までは剣の表面にだけ光の帯があったが今では斬撃として光の帯、いや光の斬撃といったところか。遠距離にいるショートをばったばったと倒している。



 あんなの持ってたなら、最初から使って欲しかったな。



 と、愚痴はこぼすが敵はもらさないように俺も加勢しなきゃならない。

 ルーカスの背後にいたショートの腹めがけてハンマーを振るう。



 ──そうだ、特異体。



 靄のことですっかり忘れていたが、特異体のこともどうにかしなきゃならない。一応、ルーカスにも声をかけておくか。



「ルーカス、特異体のことなんだけど……」

「おや…? 特異体とはこいつのことかい…?」


 ルーカスの足元を見ると、たった今斬り伏せたらしく体が塵化しつつあるが特異体のような特徴を持っているサーべージドッグがいた。


 あっさり倒しやがったこいつ。



「はぁー……」

「ん? どうしたんだい、カリヤくん…!」


 爽やかな笑顔を向けるな、眩しいわ。


 となると、どうしてこいつは初めからこのエフェクトを使わなかったんだろうな。

 自信過剰なこいつにしてはさっきの自信の無さが気になってつい声を荒らげたが、あれくらいでエフェクトが突然使えるようになるはずもない。



「おい、なんでそういうの早く使わなかったんだよ、苦労して損した気分なんだけど」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…! 君が言ったからじゃないか…!」

「はぁ? だって前にも使えてたんだろ?」

「そうじゃないんだ、これが初めてなんだ…!」

「はぁあ?」


 慌てたようにルーカスは顔を真っ赤にして言い訳がましく取り繕う。

 なんか無性に腹たってきたぞ。


「じゃあ、できるって言ったの嘘だったのか?」

「うっ……、まぁ、そういうことなのさ…僕がエフェクトを使えるほどの資質は持っているということは知っていたけれど、まさか本当にできるとは……!」

「そこで感動すんなアホ」


 と、ここまで言い合いしてきて、気づいたことがある。やけに静かだ。

 ルーカスから目線を外して周りを見てみると辺りには一体もショートの姿がない。

 えーと、つまりこれは。



「あれ? 全部倒せちゃった?」

「おや、その通りのようだ…!」


 どうやらルーカスの倒したやつが最後のショートだったらしく、ロウ達は地面に座り込んでいた。


「やっと倒せた……はぁー……報告しなきゃ…」

「お、おにいちゃん、ぼくやったよ!」

「誰か、だれかあたしに水を……」


 ロウは疲労のおかげで足腰にきたらしく地面に大の字になって転がっていた。

 つとむは両腕を上げて褒めてと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。

 やばい、一人死にそうだ。



「水、水! これどうぞ!」

「あ、ありがとうございますぅ~……」


 彼女は水をゆっくりと嚥下していくと、落ち着いたのか地面に座り直した。


「いやぁー、久々に頑張りましたよー!」

「あのエフェクト凄かったですよ。どんな構成であればあんな技が?」



 褒めて欲しそうなつとむの頭をわしゃわしゃと撫でながら、カリヤは質問をする。

 


「んーとですね、実は、得意基礎がないんですよ。基礎がどれもダメで、応用である、"理"と、"暗"が得意なだけなんですよ。」

「え? 第一基礎がないのか?」

「はい。第一応用と第二応用の組み合わせでエフェクトを使ってると、こんなふうに重力操作が出来るようになったんですよ」


 そう言うと彼女は近くに落ちていた石を掴み、手のひらの上で微かに浮かせる。

 が、やはり体力的な限界が近かったらしく直ぐにエフェクトを切った。



「でも、今回の戦いで私のやるべきことがわかったような、気がします。」

「やるべきこと?」


 彼女の頭にまとめられた髪のお団子が微かに揺れる。その表情はとても晴れ晴れとしていて、喜びに満ちていた。

 靄が晴れた空の青さが背景によく映える。



「戦うんじゃなくて、こんなふうに誰かを守るためにプラグを使いたい。」

「──」

「だから、班長にもそういう役目にしてもらうように言うつもりです。キャリアさん達と戦って気づくことが出来たんですよ。今まで、ずっと迎撃員としてやっていたんですけど、やっぱり守る方が得意なんです、あたし!」



 彼女は額の汗を手の甲で拭うと、膝に手をついてゆっくりと立ち上がった。



「あたしの夢は、ロウと一緒に皆を守ることなんで!」



 下から見上げるカリヤの目には、彼女がルーカスばりに輝いているように見えた。ロウの親友だと言う彼女の夢は、どうにも自分の親友との約束を思いださせる。




 ──困ってる人を助けてあげられる、強い人になる。



「ああ、いいと思うぜ、その夢!」



 カリヤも立ち上がろうと、足に力を入れる。踏みしめる大地は固く、しっかりとカリヤを支えてくれる。








 ──ポタッ






 と、不似合いな音がした。









 カリヤは咄嗟に顔を上げる。

 さっきまで、笑顔でこちらを見下ろしていたお団子頭の彼女の気配がしない。

 


 いや。違う。

 そこにはいるんだ、立っているんだ。けれど、




「……………キボウ?」



 ロウの掠れた声が聞こえる。

 


「え?」


 俺の、声が他人のように思えた。だってそれ以上にその光景は目を引いて、衝撃を与えてくる。




 ──キボウの頭が、無くなっていた。



 立ち上がろうとしたカリヤの方へと、首のない"キボウ"が倒れてくる。先程の音はカリヤの頭部へと落ちてきた血の音だったが、今度は打って変わって、大量の血がカリヤの顔や頭に降り注ぐ。


 カリヤは"キボウ"を支えきれず、そのまま後ろへ倒れ込んだ。



「………は…? え……?」


 何度見ても、首がない。

 こちらを見るのは、骨と肉と皮だけで、少女の笑顔なんかじゃない。


 気づけば青かったはずの空が赤黒く染まり、辺りもまた靄がでかかっている。


 どこか冷静な自分がいて、どこかで逃げ出したい自分もいる。



 ───誰だ。誰が、こんな。






「──楽しそうだなぁ」




 澄んだ声が聞こえた。すぐ目の前だ。男の声だ。そんなことにすら軽く恐怖を覚えた。




「あぁ、こんなふうに首を切ってあげたらどんなに楽しそうだろう……」


「き、キボウ……? キボウ…!」



 カリヤの横で、倒れたキボウの体を揺するロウは、ひたすら彼女の名前を叫ぶ。

 ダメだ、キボウはもう、冷たい。



 カリヤは、視線をそらすことが出来ずにいた。凝視するしか出来なかった。

 目の前の男は、右手にキボウの頭を鷲掴みにして恍惚な表情を浮かべている。その彼の髪の先は赤く染まっていて、ショート特有の、あの色。




 途端、彼の眼がこちらを見た。



 カリヤは身の危険を感じて、横にいたロウの襟を掴んで思い切り後ろへと後ずさった。

 つとむはルーカスがすでに保護しているようだ。



 ────やばい、こいつは本当にやばい。



 彼はこちらをゆっくりと振り向くと、にたりとした笑顔を貼り付け口を開いた。



「こんなところで、隊員に会えるなんて…楽しそうだなぁ……」



 ──噂には聞いていた。人型のショートがいると。けれど……





「こんなの、ありかよ……!」



 












グロ注意です(遅い)

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