努力の輝き
ルーカス回です
「ひだりに、にひき! まえにもいっぴき!」
つとむの正面にカリヤ、左側にはロウ、後方かつ右側をルーカスが、戦えないトオル班のメンバーのカバーとして広く守り、その人には代わりに重力操作で周りに薄く囲うように重力の結界を張ってもらった。
つとむは辺りを忙しなく見渡す。視界に俺たちが入らないようにしゃがんで足の隙間から指示を飛ばしている。
その指示はとても正確で、言われたタイミングと武器を振るうタイミングが見事にはまるのだ。
しかし、その分つとむの体力は見れば見るほど減っているように見える。長期戦に持ち込むのは得策とは言えない。
「くそ……」
「は…っ、はぁ……」
つとむ同様、ロウの顔にも疲労が見え始める。もう一人の方も言わずもがな。
アズキ伝授のヒールを唱えようにも、あれは決して気力や体力を回復するようなものではない。傷や痛みを治すためであって、あいにくとこのメンバーの誰もめぼしい怪我はしていない。
「他に……他になんかないか…?」
『プラグに気を取られすぎよ』
『実は僕、ケンジ班に勧誘されてね…! 元々は別の人から推薦を受けていたけれど、ケンジ班ならば良い、と許可を得たのさっ…!』
『推薦される程に優秀ということさ…!』
この状態をなんとかしようと過去に言われたことを思い出す。
そしてカリヤの頭に浮かんだ欠片は集まって一つの見解に至る。
―――言っておくけど、これは資質が高いからできる芸当よ。多分カリヤには一生無理ね。
「ルーカス!!」
「ひょっ…!? ど、どうしたんだい、か、キャリア君…!?」
カリヤが大声で後方にいるルーカスを呼ぶ。そして首を捻り、その目を凝視したカリヤはある提案を持ちかける。
「お前、エフェクト使えるんじゃねぇか!?」
呆然。その言葉が当てはまるほどにルーカスはあんぐりと口を開け、驚愕の表情でカリヤを見返す。
正直、これは賭けに近い。
ルーカスがエフェクトを使えるか使えないかもそうだが、そのエフェクトが今のこの状況を打開しうるものなのかも分からないのに、何故だか、この方法が最適解だと頭の中で警鐘が鳴っているのだ。
――――――また、賭けか。
カリヤの脳内に浮かぶのはアズキの不気味な笑顔だ。人生を賭けた、俺の勝負。まさに俺の人生は賭けだ。
「………」
ルーカスの開いた口はゆっくりとだが閉じていき、見開いていた目もだんだんと鋭いものへと変化した。
「……できるんだな?」
「ああ……できる、できるが……!」
焦燥感で言葉を濁す、ルーカス。その手は微かに震えていた。
まさか、自信がないとか言い出すんじゃないか?
「自信とかいらねぇから、さっさとやってくれ。」
「なっ…! ぼ、僕がどんな気持ちかも知らないで…!」
「ああ、知らねぇよ。自分の輝いている姿を見て欲しい割に、暗い場所でこうやって自信喪失してるお前以外はな!」
「!」
こうして言い合いをしつつも、つとむの指示は飛んでくる。
振り返ったり、ショートの対応をしたりと忙しいんだから、やれるならさっさとやって欲しい。
「輝くためにどんな努力も惜しまねぇなら、すっげぇ努力して、今輝いてみせろよ! ルーカス!」
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――――――輝きたい。輝いて、皆に見られたい。
「どうして、僕にはくれないの…?」
幼い少年は、両親に向かって小さな手を広げて乞うように腕を伸ばす。
その両親の腕には輝く、星<あい>。があって、でもそれは"僕"には与えられない。
"僕"と同じ遺伝子を持つ上の子や下の子に与えられる分しかない。
「▅▅▅▅には十分でしょう?」
「周りの子にも必要なんだ」
一つも持ってないのに、どうしてそんなことを言うんだろう。
"▅"はよく分からないまま、外で土いじりをしていたけど、耳に入るのは噂話ばかり。
「長男はピアノで優勝したらしいわよ」
「次男は飛び級ですって」
「四男も海外に留学しているらしいわ、若いのにすごいわね」
――――――――三男は、なにもないのねぇ
▅は、兄弟が嫌いな訳じゃない。両親を憎んでる訳じゃない。
▅は、なにもしなかった訳じゃない。何かができた訳でもない。
▅は、▅は。
――――――輝きたい。輝いて、皆に見られたい。
だから、▅は皆に見られたいから、おかしなことをするようにした。
変なら、皆が見てくれる。
変なら、許される。
変なら、なにも、怖くない。
でも、両親の輝く星はどこかへ飛んでいってしまって残ったのは"変な▅"だった。
努力したピアノで評価された長男からは見下され、努力した頭脳で評価された次男からは無視をされ、努力したコミュニケーションで評価された四男からは侮蔑の目で見られた。
当たり前だった。
努力した輝きを、▅が持っていなかったからだ。
努力もしないでなにを欲しがっているんだ、▅は。
しかしそこに現れた少年は■に対して、ある感情を■に向けては来なかった。変にすればみんなから嫌悪の視線を浴びることができたが彼は一切そんな目をしたことがない。
彼はよく笑ったり、怒ったり、ぼくと話してくれる。逆に僕が心配になるほどだった。
そんな、彼が、僕を努力不足だと言うのならば―――――――
~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·
ゆっくりと瞼を閉じていくルーカスの手の震えはもう止まっていた。
ルーカスは予め、ケンジ班のケンジから自分の資質について話を聞いていた。
第一基礎は風であり、第一応用は明である。と。
即ち───
「まったく……なんと雑な、アドバイスだ…!」
明るく輝く光で困難をも薙ぎ払う風を生み出す力となる。
「【シャイン】!」
ルーカスが目を見開きそう叫んだ瞬間、ルーカスの持つプラグ、フランベルジュの輪郭が揺らぎだした。
そしてルーカスが縦に光を纏った剣を振り下ろすと、黒い靄が光の触れた所から消滅するのがわかった。
「ルーカス! お前、最高だな!」
「ええ、すごいです!」
ロウとカリヤがルーカスを褒めると、調子に乗ったのかルーカスが決めポーズを決める。
「ふふん…! さぁ、反撃開始といこうか!」




